免疫学

花粉症 免疫易い エイズ 膠原病 自己免疫疾患
サイトカイン 免疫難しい 感染排除 白血球 ケモカイン
B細胞の多様性 T細胞の多様性 抗体 T細胞の分化 補体
抗原の排除 アレルギー 粘膜免疫 病原体 免疫不全とは
老化と免疫 自然免疫と獲得免疫**** レクチン 腫瘍と免疫系 ***

花粉症
日本人の約20%が花粉症といわれています。特定の木や草の花粉による抗原抗体反応、日本人の場合8割はスギ花粉、ほかにヒノキ、シラカバ、イネ科牧草によるアレルギー反応です。それらの抗原をアレルゲンという。アレルギーにも型があり一般的なアレルギーをT型アレルギーという。IgE抗体が引き起こすアレルギー反応です。眼や鼻などの粘膜につくと、肥満細胞からヒスタミンなどの炎症物質が放出されます、鼻水や涙が分泌されるので花粉を体外に排除する生態防御反応の一種かも知れませんが、あまり意義がなく、そのかゆみ、腫れ、違和感、などが強いのが特徴です。予防には、マスク、帽子をかぶる、完全に目を花粉の侵入から守るゴーグルなどがあります。マスクが最も有効と考えられます。
薬局、薬店、デパートやスーパーなどに花粉症対策コーナーがありますので、そこでよく相談して購入されると良いでしょう。そして、外出から帰ったら、家に入る前に着ている衣服に付着している花粉を払い落とす、たたくか、オーバー、背広などは脱いで、払い落とす。さらに、家に入れば、水道水でこすらずに眼を洗う、洗面器でためた水で洗わないように、必ず流水で洗うことが肝心です。洗面器で洗うと洗った花粉をまた付けてしまいます。
うがい、手洗い、暖かいシャワーを浴びるなどして、皮膚や粘膜に付着している花粉を取り除くこと。それと屋外に干したフトンや洗濯物はよくはたいてから取り込む。できればフトン乾燥機やホームランドリーを使う。これでかなり家の中での症状は収まります。
屋外からの花粉の侵入を防ぐため、窓を閉める。また花粉の多い日には不要な外出は避けることなどですが、それでも、収まらない場合には耳鼻科また内科医院や病院の先生に診てもらいましょう。皮内テストといってスギ花粉のエキスを皮下注射して発赤がでたら、スギ花粉症と確定されます。その他、ヒノキ、ブタクサなどのエキスもあるので、何が原因か特定してもらいましょう。医師の判断で抗ヒスタミン薬や消炎剤を出してもらいましょう。
戦前は花粉症はなかった
戦前は、花粉症はなかったといえます。でも戦後の復興のために成長が早い杉を植林する政策がとられ、多くの人工林が杉になりましたが、復興の過程で、特に後の時期、安い外国産の木材が大量に輸入され、そのため杉の木を伐採しなくなり、杉の木があまり管理されずに大量に残り、それが花粉を撒き散らすようになりました。
一般的に抗ヒスタミン薬は、副作用として眠気、すなわち中枢神経抑制があるのですが、この頃は、第二世代抗ヒスタミン薬といって眠気の少ない薬があります。たとえば、商品名:ニポラジン:一般名:メキタジン(フェノチアジン系)。ちなみに、総合失調症のときに処方される、商品名:コントミン、ウインタミンなど、一般名:塩酸クロルプロマジンと基本的な化学構造は一緒です。ただし、両者の化学構造はかなり違うのでコントミンなどは花粉症には処方されませんので決して誤解がないように。いくら基本的な化学構造式が似ていてもその薬剤の化学構造式が違えば、当然、その薬理作用はかなり違うことが一般的です。
ニポラジン :抗ヒスタミン薬の構造式


塩酸クロルプロマジン:向精神薬の構造式

比較すると判りますが、基本的な構造は同じです。
構造式を見ますとニポラジンの構造の上部がヒスタミンとよく似ていますので、抗ヒスタミン作用があります。またクロルプロマジンの構造の左の部分がドパミンとよく似ていますので向精神作用があります。
花粉情報に気をつけて毎朝、チェックして外出しましょう。花粉症は、主に感覚器官のかなり強い不快感なので、なるべく不快感は除きたいものです。体力をつける、充分な栄養と休養で体に抵抗力をつけて乗り切りましょう。


白血球とは
リンパ球、多形核白血球、単球の総称です。
リンパ球にはB細胞、T細胞がある。
多形核白血球とは、球状ではなくさまざまな形の核と細胞質にさまざまな顆粒をもつ細胞、色素による染まり方により、好中球、好酸球、好塩基球にわけられます。マスト細胞もこれに属する。
単球とは、比較的丸い核を持つ白血球で、組織内でマクロファージとして存在し貧食作用、すなわち体内の侵入した異物、細菌や老廃物を捕らえて食べて分解する。樹状細胞も単球に属する。また、肝組織細胞の中のクッパー細胞も広い意味で、白血球といえるでしょう。
普通、検査で白血球が高いといわれる場合、好中球のことをさしています。

先頭へ 肺炎球菌ワクチンへ
肥満細胞とは
肥満細胞は哺乳類の粘膜下組織や結合組織などに存在する造血幹細胞由来の細胞。マスト細胞 (mast cell) ともいう。炎症や免疫反応などの生体防御機構に重要な役割を持つ。IgE介したT型アレルギー反応の主体である。肥満細胞の中にはヘパリンやヒスタミン、プロスタグランジンを含んだ顆粒があり、細胞表面のIgE受容体に抗原-IgE複合体が結合すると、それらの顆粒を速やかに分泌する。肥満細胞の活性化は喘息の気管支収縮や、血管の太さと透過性を変化させる。肥満細胞は樹状細胞の移動に関与することも報告されている。


顆粒がたくさん肥満細胞に存在する
IgEとは
IgE抗体は花粉アレルギー、じんま疹、薬剤アレルギーなどのアレルギーの原因となる抗体である。花粉などのアレルギーを起こす抗原のアレルゲンが鼻粘膜から体内に入ると作られる。その生産量はわずかであるが、アレルギーを発症させる活性がきわめて強い。この抗体は血管の周辺や組織細胞に存在する肥満細胞や血管内の多形核白血球の一つである好塩基球に強く結合し、抗原に出会うと、これらの細胞からいろいろな、ヒスタミンなどの活性物質を放出させる。すると、付近に炎症が起こって抗原の除去が促進される。しかし、この反応が過剰に誘発されると、アレルギーの病的症状があらわれる。
まとめると
アレルゲン(抗原:花粉)がIgE産生細胞に取り込まれ、抗体産生細胞により、IgE抗体が作られる、それが肥満細胞の表面に結合する、その肥満細胞に同じアレルゲンが遭遇すると表面にあるIgE抗体と反応して肥満細胞は活性化して脱顆粒、すなわち、肥満細胞内のヒスタミン等を放出し、ヒスタミンなどが炎症を起こす。

抗体産生細胞とは
B細胞もT細胞も抗原を認識すると、さらに増殖・分化してエフェクター細胞(effector cell)となり、作用を発揮する。エフェクター細胞によって抗原が排除されると、エフェクター細胞はしだいに消滅して、免疫応答は終わる。
B細胞は抗原を認識して結合すると、抗原提示細胞を介して抗原を認識したヘルパーT細胞の共同作用のもとで増殖・分化し、エフェクター細胞の抗体産生細胞となって、抗体を産生する。したがってB細胞は血液やリンパ液内で抗原を見つけ出し抗体によって排除する。
未分化のT細胞(ナイーブTh細胞と呼ぶ)は抗原提示を受けて、Th2細胞へと成熟してサイトカインと呼ばれる物質を産生・放出することで、B細胞は抗体産生細胞(形質細胞)へと成長する。ヘルパーT細胞の中でも、抗体産生(体液性免疫、細菌感染に対する免疫)を促進するサイトカインを出すのがヘルパーT2細胞、略してTh2細胞です。


ここで体液性免疫と細胞性免疫の違いを簡単に書きます。
体液性免疫
化膿性炎症、外部から細菌が侵入したとき、赤く腫れて、痛くて、熱をもった状態になります。この、@発赤A腫脹B疼痛C熱感という4つの状態になることを、炎症といいます。最終的に膿が出る炎症を化膿性炎症といいます。その膿をグラム染色して顕微鏡で見ると、好中球とよばれる白血球や「細菌」が見れます。また好中球の中に細菌が入っているものも見れます・これは、細菌が好中球に食べられた様子をあらわしています。
このように白血球が細菌などの異物を食べてしまうことを貧食といいます。細菌、特に上記のような化膿性炎症を起こす菌(化膿菌)を最終的にやっつける主役は好中球です。すなわち好中球が細菌をどんどん貧食していけば細菌の数は減り、膿は出ますが感染自体は治っていくのです。組織に侵入した細菌は、組織で第一線の防衛を担当するマクロファージに貧食されます。
マクロファージは元は「単球」が血管から組織の移行したものをいう。
また、「マクロファージ」や「好中球」のように異物を食べて、破壊、殺菌する能力のある細胞を貧食細胞といいます。細菌など異物の侵入を探知したマクロファージは、貧食する仲間である好中球や他のマクロファージを近くに呼び寄せる物質を放出します。また、細菌はバカなので、貧食細胞を呼び寄せる物質を自ら出すこともあります。この白血球を呼び寄せる(遊走させる)物質をケモカイン(遊走因子)といいます。
すなわち、細菌を探知したマクロファージや菌自体が出す遊走因子によって、貧食細胞たちが菌のいるところに呼び寄せられるというわけです。マクロファージはもともと体内の各組織に点在しているので簡単ですが、好中球のほとんどは血管の中を流れています。というのは、好中球はわざわざ血管から抜け出して、菌のいるところまで来なければならないのです。そのためにもケモカインの働きは非常に重要です。貧食細胞の代表であるマクロファージは、とにかく少しでも怪しいものは何でも食べようとする細胞です

好中球にも怪しければたべるという性質はあるのですが、マクロファージほどではありません。ですからこの時点での貧食の主役はマクロファージです。とはいえ、この時点では、マクロファージですら食べる力はそれほど強くはありません。そのため、菌が少ない時や明らかに弱い菌であったとき以外、すべて貧食することはできません。
ここで書いた、マクロファージのなんでも貧食する性質を「非特異性」といいます。ところがこの非特異性の貧食には限界があり、それほど強くはありません。では本当にやっかいな敵である細菌がマクロファージの非特異的貧食(防御)を突破したら場合、どのように対処されるのでしょうか。そこで必要になるのが抗体です。抗体とはあらかじめきめられた1つの敵に結合する磁石のような物質です。
この相手がはっきり一つに決まっていることを生物学用語で「特異的」と表現します。たとえば、表面に物質aを持つA菌が体内に侵入したと仮定します。そのときわたしたちの体内に抗a抗体(抗を略してa抗体とよぶこともあります)があれば、それが特異的にA表面の物質aに結合します。また、抗体が結合する相手「敵」のことを抗原とよびます。抗体の役目はには驚くべきことがあるのです。細菌の表面に抗体が結合すると、好中球はその細菌をむしょうに食べたくなるのです。マクロファージも抗体がついて食べやすくなるとガツガツしますが、抗体で味付けされた細菌を貧食する主役は好中球です。
ここでやっと好中球が本領を発揮し、その細菌を特異的にパクパク貧食し始めます。すなわち、抗体の役目は異物(抗原)に結合して好中球などの貧食細胞が食べやすいようにすることです。この抗体の「味付けする・食べやすくする」仕事のことをオプソニン化といいます。
抗体は細菌が繰り返し感染「侵入」することで、作られる量が飛躍的に増加します。たとえば、aという表面抗原を持つA菌が体内に何度か侵入(感染)すると、aに特異的なa抗体がすばやく、大量に作られるようになるのです。それより以後のA菌の侵入に対しては、速やかに「好中球の特異的な強い貧食」が始まるというわけです。この抗体による特異的な防御反応のことを「体液性免疫」といいます。膠原病のところにも書いてありますが「補体」という要素も必要です。サイトカインの放出、オプソニン化などです。

細胞性免疫
細菌防御の主役が抗体と好中球であるのに対し、ウィルスを防御する主役は「キラーT細胞:Tc細胞」というリンパ球(広い意味で白血球)です。キラーT細胞は別名、細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte:CTL)とも呼ばれるためTcと表します。
キラーT細胞は好中球のように異物(ウィルス)を直接貧食することなく、ウィルス感染してしまった自己の細胞をまるごと破壊することによってほかの細胞への感染を防いでいます。このキラーT細胞が感染細胞を破壊する免疫防御反応を「細胞性免疫」といいます。また、そのによって生じる炎症を「リンパ球性炎症」といいます。ここでいう「リンパ球性」とは、B細胞や、ヘルパーT細胞ではなく、あくまでキラーT細胞のことです。
当然ですがリンパ球性炎症では全身のリンパ節が腫れ、肉芽腫とよばれる組織の炎症性変化を伴うこともあります。Tc細胞もリンパ球ですから、「リンパ組織→リンパ節→リンパ管・リンパ本幹→静脈→リンパ組織」と体全体を循環しています。また、1つのTc細胞には1種類の抗原認識受容体(TCR)が存在します。さて、ウィルスが気道の上皮細胞に侵入して感染を起しても。細胞性免疫(Tc細胞)が活動を始めるには、数日間という防御反応としてはやや遅い作用発現時間が必要です。
そのため、Tc細胞による免疫反応のことを「遅延型反応」と呼ぶことがあります。しかし、Tc細胞が働くまでの間に、これに先立って、いち早くウィルス感染に対する一次防御(自然抵抗)として働くのがマクロファージやNK(ナチュラルキラー)細胞です。マクロファージは異物は何でも貧食しようとしますので、ウィルスも当然貧食されます。一方、NK細胞は、ウィルス感染した細胞や癌化した細胞など「異常な自己細胞」を破壊しようとする性質があります。
両者とも非特異的な防御で、やはり限界があり、その防御を破られるとTc細胞による「細胞性免疫」が必要となります。そこでウィルス感染細胞は、自分が”もう駄目な細胞です早く殺してくれ”という情報をTc細胞に伝えます。具体的には、感染細胞はウィルスの抗原部分を自分の「MHCクラスT分子」(*免疫難のところ参照)の上にのせて抗原提示を行います。そして、その抗原提示を受け取ることができるは、そのウィルスに特異的な(TCRを持つ)Tc細胞だけです。
すると抗原提示を受けたTc細胞は駄目になってしまったウィルス感染細胞を破壊するのです。ところで、過去に何回もそのウィルス感染を経験しているならば、そのウィルス抗原に特異的な(TRCを持つ)Tc細胞がすでに多く存在しているはずです。それならば、多くのTc細胞はすぐ抗原認識→感染細胞の破壊と進むことができます。
しかし、そのウィルスに初めて感染した場合には、そのウィルス抗原に特異的な(TRCを持つ)Tc細胞は少ししか体内に存在していません。そこで、Tc細胞を増殖させる「サイトカイン」という物質が必要となります。また、Tc細胞の働きを強化する意味でも「サイトカイン」は重要です。
ウィルスに感染した上皮細胞がTc細胞に抗原提示する一方で、組織にいたマクロファージや樹状細胞は、ウィルスの貧食を行います。ウィルスを取り込んだマクロファージや樹状細胞は、体液性免疫のときと同様に、ウィルスを分解しながらリンパ管に入り、リンパ節に移行します。
これらの抗原提示細胞はMHCクラスU分子(後で詳しく述べます)を用いてナィーブTh細胞に抗原提示しようとしているのです。ヘルパーT細胞(Th細胞)といえば、サイトカインを産生して各免疫細胞に指令を出す細胞でしたね。
ウィルスを取り込んだ抗原提示細胞がナィーブTh細胞へ抗原提示を行うと、ナィーブTh細胞はヘルパーT1細胞(Th1細胞)へと分化・増殖します(少しはTh2にも分化します)。分化・増殖したTh1細胞は、IL-2,IFN-γ(インターフェロンーγ)といったTh1系サイトカインを産生します。
そして、Tc細胞はIL-2などのTh1系サイトカインを受け取ると増殖し、かつ感染細胞を破壊する力がアップします「活性化」するのです。またIFN-γはナィーブTh細胞をTh1細胞に分化・増殖させ、さらにこの細胞免疫反応を増幅させます。このようにTc細胞は増殖、活性化してウィルスに感染してしまった細胞をどんどん破壊していくことができるようになります。
下の図を見てください、樹状細胞(DC)やマクロファージ(M)はMHCクラスUを介してナイーブTh細胞に抗原提示を行う。MHCクラスUは自分の細胞であることを示すことにより、抗原提示細胞である樹状細胞(DC)やマクロファージ(M)がキラーT細胞(Tc)によって破壊されることがないようにしている。MHCクラスU分子は抗原提示細胞のみが持っている。
マクロファージの活性化
キラーT細胞はあくまで感染した自己の細胞を破壊するのであって、ウィルスそのものを直接やっつけるものではありません。そこで細胞性免疫認識は、ウィルスを直接やっつける強力な助っ人が存在します、。それは、これまでにも登場しているマクロファージです。とはいっても、ただのマクロファージでは異物をそこそこ貧食したり、抗原提示をするくらいです(それはそれで大切ですが)、ところが、マクロファージはTh1系サイトカイン、特にIFN-γを浴びることでとてつもなく強力なになり。「活性化マクロファージ」となります。活性化マクロファージは貧食能が強力であるだけでなく、貧食したウィルスを不活化(感染能力を失わせる)することができます。また、活性化マクロファージはナイーブTh細胞をTh1細胞に分化・増殖させるサイトカイン[IL-12]や、感染細胞をそれ以上ウィルス増殖できなくなるようなサイトカイン「IF-α}を放出したりと大活躍します。このようにウィルス感染の防御(細胞免疫)はTh1系サイトカインによる「キラーT細胞の増殖・活性化」と「マクロファージの活性化」という2本立てでおこなわれているのです



エイズウィルス
免疫システムを破壊する恐ろしいHIV
 1981年にアメリカで、リンパ節の肥大や、通常では病気の原因にならないある種類の原虫によるカリニ肺炎などのめずらしい症状に患者が数名見つかった。
この病気が新しい免疫不全症であることがわかり、後天性免疫不全症候群すなわちエイズと名づけられたれ、原因ウィルスとしてヒト免疫不全ウィルス(HIV)が分離された。その後もエイズ患者は増加し、同性愛経験者、輸血を受けた人、同じ注射器を使う麻薬常用者たちのなかにエイズ患者が激増した。
HIVにはHIV-1とHIV-2の2種類のよく似たウィルスがあるが。西側世界ではHIV-1がほとんどである。HIVはレトロウィルス(retrovirus、レトロとは転写方向が逆の意味)で、その遺伝子はRNAからなる。一般に、遺伝情報はDNA→RNA→タンパク質という様式で発現する(図12-5)。しかし、HIVではウィルスのもつRNAの遺伝情報は逆転写酵素の働きで宿主の細胞内でDNAに転写されてから発現する。また、HIV感染はゆっくりと、しかし確実に進行するので、HIVはレトロウィルスのなかでもレンチウィルスlentivirus(レンチとはゆっくりの意味)に属する。
HIV感染者は患者がウィルスに感染したときにはじまる。感染は血液、精液、膣分泌液などの体液を介してのみ起こる。HIVはCD4T細胞に好んで感染するが、そのほかに少量のCD4に発現しているマクロファージ、単球、樹枝状細胞にも感染する。
HIVに感染すると、CD4T細胞が傷害され、徐々に免疫不全の状態に移行してエイズを発症し、死亡する。エイズ発症までの進行は急性期、無症状期、エイズ期の三つの段階を経過する。HIVはgp120とgp41よよばれる二つのタンパク質からなる外被タンパク質の複合体のうちgp120を介して、CD4T細胞のCD4分子に結合して細胞内に感染する。逆転写酵素の働きでウィルス遺伝子のRNAをDNAに転写して二本鎖のDNAを合成し、この二本鎖のDNAが宿主細胞のDNA内に組み込まれる。こうして組み込まれたウィルス遺伝子、すなわちプロウィルスは宿主細胞が活性化されない限り転写されないので、ウィルスは潜伏感染の状態となる。
しかし、潜伏感染しているCD4T細胞が活性化すると、HIV遺伝子が転写されてウィルス粒子が生成し、感染細胞を殺す。感染初期の急性期では、感染したCD4T細胞が殺され、多数のウィルス粒子が産生される。同時にウィルスに対する免疫応答が始まり、ウィルスに対する特異的な抗体、炎症性CD4T細胞、細胞障害性CD8T細胞が生成する。
その結果、HIVは排除され、新たな細胞への感染が抑制されて、CD4T細胞の数は感染前のレベルに戻り、無症状期に入る。無症状期では、末梢血中のHIVの数は著しく減少し、104〜105個のCD4T細胞に1個の割合でしかHIV感染CD4T細胞は検出されない。
しかし、HIVは完全には排除されず、リンパ節で増殖し、樹枝状細胞に捕捉されているのがわかっている。無症状期の患者のCD4T細胞の機能が低下し、いろいろな抗原に対する応答性が弱く、活性化刺激にたいしてもあまり反応しない。この機能低下の原因は記憶CD4T細胞の選択的障害、HIV感染による直接的な破壊あるいは細胞障害性CD8T細胞による抗原提示細胞(マクロファージや樹枝状細胞)の破壊が考えられる。
また、Th2細胞がTh1細胞に対して優位になり、体液性免疫は機能するが、HIVの排除に働く細胞性免疫が低下することが示唆されている。無症状期のあいだにCD4T細胞は徐々に減少し、リンパ節構築の破壊が進行する。そのために、感染症、とくに細胞内寄生病原体に感染しやすくなる。CD4T細胞数が正常値の1000/μlから低下して、1μlあたり200を割ると、患者はエイズと診断される。エイズ患者のさまざまな日和見(ひよりみ)感染を誘発するようになり、エイズを発症する。日和見感染は、正常な状態では感染しても病気を起こさない微生物が、宿主が抵抗力を失うと感染症を起こすという。
HIV感染によるCD4T細胞の慢性的な減少の機構はいまだ明らかでないが、次の可能性が考えられている。ウィルスによる直接的なCD4T細胞の破壊、HIV特異性細胞障害性CD8T細胞によるCD4T細胞の破壊、MHAクラスU分子によって提示されたgp120のペプチドに特異的な細胞障害性CD4T細胞によるCD4T細胞の破壊、HIVによる胸腺に微小環境の破壊にともなう新たなCD4T細胞の補給の低下などである。
おそらく、これらの影響がいくつか重複してCD4T細胞の低下を招くのであろう。HIVの持続感染は潜伏期間中のCD4T細胞に感染しているウィルスを免疫システムが認識できないことにもよる。HIVの表面抗原のgp120は頻繁に変異して免疫システムによる排除を回避する。こうした変異は、逆転写酵素がRNAからDNAへの転写の際に間違いを起こしやすいことによる。
そのために、致命的変異以外の変異によって抗原性を変えたウィルスが生じるのであろう。

エイズの薬
HIVに感染すると、数日後にかぜ症候群のような発熱、筋肉痛、倦怠などの症状が現われることがあるが、多くは無症状に終わる。6〜8週目になると、感染の症状はないが、HIVに対する抗体が現われ、無症候性キャリアーとなる。
この頃から感染者はほかの人にもHIVをうつせるようになる。その後、リンパ節のはれなどの軽い症状が現われ、患者による個体差があるものの、6ヶ月から10年でエイズ関連症候群である発熱、下痢、体重減少、中枢神経症状が現われて、エイズの病態になる。
エイズ患者は、著しい免疫能の低下、カリニ肺炎(ある種の原虫による肺炎)、真菌感染によるカンジダ症、結核、サイトメガロウィルス感染症などのいろいろな原虫や微生物による日和見感染を発症し、最終的には死亡する。
患者によっては、その他の症状としてカポジ肉腫(皮膚の悪性腫瘍の一種)や悪性リンパ腫などの悪性腫瘍、痴ほうなどの中枢神経症状を示すHIV脳症がみられる。
抗HIV抗体をもち、上記の日和見感染症、HIV脳症などの21項目の特徴的症状または疾患の1項目が認められる人は、エイズと診断される。現在使用されているエイズの治療薬は逆転写酵素を阻害するAZT(3’-アジド-2’、3’−ジデオキシチミジン)やDDI(3’、3’−ジオキシイノシン)がある。AZTを例にとるとAZTが細胞に取り込まれると、リン酸化されてアジトデオキシチミジンの5’
−三リン酸型に変わる。
これは哺乳類のDNA合成酵素によって基質として利用されないが、HIVの逆転写酵素によっては基質として利用されDNA鎖中に取り込まれる。しかし、AZTは3’−OH基を持たず、新たなデオキシヌクレオチドを付加できなので、DNA鎖の伸長が止まりウィルスDNAの合成を阻害することができる。これらの薬剤の、副作用で毒性をもつことと逆転写酵素の突然変異によってHIVに抵抗性を得ることである。
その他に、HIVのプロテアーゼを標的とする薬剤が開発されている。HIVの構成タンパク質のなかには前駆体として生合成されてからHIVプロテアーゼによって切断されて、最終分子となるものがある。このHIVプロテアーゼの阻害剤が感染T細胞でのウィルス複製を阻害するので、現在この臨床試験が行われている。
この場合でも、突然変異によって薬剤の感受性の低下に打ち勝つ工夫が望まれる。今のところ、HIV感染とエイズ患者を減少させる現実的な手段は教育と防護であろう。
日本では、若者層のあいだで感染者が増加の一途をたどっています。エイズに感染するといろいろ薬剤が開発されてはいますが、特効薬はなく、最終的には命を落とす恐ろしい病気です。また、非加熱の血液製剤や輸血からの感染(薬害エイズ)、母子感染(アフリカ諸国)が問題となっています。
さらにつけ加えると、キャリアーとなりうる潜伏期間が長いこと、免疫機能が働かなくなりウィルスや癌、さらに病原微生物などに冒されやすくなることなどが揚げられます。
キャリアーとはいっても、感染は血液、精液、膣分泌液などの体液を介してのみ起こりますので、通常の生活では他のヒトに感染させませんので社会的偏見があってはならない。




樹状細胞とは
樹状細胞 (dendritic cell) は、名が示すとおりの突起を四方八方に突き出すこの細胞は、抗原認識の専門家で、自分が取り込んだ抗原を「こんな物質があるよ」と免疫系の細胞に教える、生体防御にとってきわめて重要な細胞である。
樹状細胞




膠原病
T型アレルギー(花粉症など)では、IgE抗体が原因でしたが、次に説明するU型アレルギーでは、IgGやIgMが関わってくるのですが、必要がない異常な抗体が原因となっています。
U型アレルギーとは「必要のない抗体によって、免疫反応に関わりが深いたんぱく質の一種である「補体」が活性化して細胞・組織障害が生じる反応」のことをいいいます。
必要がない抗体とは、(1)自分自身の成分(自己抗原)に対する抗体「自己抗体」
              (2)外来抗原に対する抗体だが、作ってほしくなかった抗体
の2つの場合があります。U型アレルギー反応において、この「必要がない抗体」のクラスは、IgGやIgMです。2つの抗体の共通点は「補体の古典的経路の活性化」です。U型アレルギーではこの「補体の古典的経路活性化」が自分の体に悪影響を受けます。
(1)の自己抗体によるU型アレルギーの例に「自己免疫性溶血性貧血」があります。この病気は自分の赤血球の膜成分に対する自己抗体(ケームス抗体)が作られてしまう病気ですが、その理由はわかっていません。
その自己抗体は自分の赤血球膜に結合し、補体の活性化→免疫溶菌反応を起します。相手が菌なら破壊してかまいませんが、この場合は自分の赤血球が補体によって破壊(溶血)されてしまうのです。当然、貧血になり、溶血による症状である黄疸や脾腫(脾臓が腫れる)などが生じます。自分の体に対する抗体を作るので自己免疫疾患と呼ばれます。後で述べますが、橋本病、ベーチェット病などもこれに属する。
補体とは:一般的な細菌感染に対する防御機構は「体液性免疫」、すなわち「抗体の産生→好中球の貧食」によって行われる。私たちが細菌感染、たとえば、肺炎、気管支炎、腹膜炎などにかかると白血球数(WBC)が増加しますが、多くは、好中球の増加を表していると思って差し支えありません。しかし、この他にも、細菌と戦う強い助っ人が存在します。
それが「補体」いう物質です。補体にはおおまかにC1〜C9と9つの成分がある。C1にはさらに、C1q,C1r,C1sの3つに、そのほかはたとえばC3a、C3bというふうにa,bの2つの成分に分けられる。それぞれの補体が何らかの働きを行うためには、その補体があるきっかけによって連鎖的に活性化されることが必要です。
補体が連鎖的に活性化する経路は以下のようになっています。基本的にはC1から順番に活性化していきますが、C4だけなぜか2番目にくることが特徴です。またC6以降は活性化することでC5bに結合します。上記の活性経路はC1の活性化から始まる補体の「古典的経路」と呼ばれる経路ですが、では、どういうときにC1が活性化を始めるののでしょうか。
それは、抗原に抗体が結合し、その抗体に補体C1が結合することで活性化します。すなわち、体液性免疫による「抗原+抗体の結合」がきっかけとなるのです。また、一部の細菌は抗体を介さず直接C3を表面に結合させ、(C1.4,2を飛ばして)いきなり「C3の活性化→C3a、3b....以下同じ」と補体を活性化させることがあります。このC3から始まる活性経路を「副経路」と呼びます
そこで具体的な補体の働きを表にしてみました。

補体 働き
C3a
C5a
マスト細胞を刺激して、アナフィラシキー反応を起こす(T型アレルギー反応の一つで素早くヒスタミンなどを遊離させる反応、即時型アレルギー反応という。)いわゆるペニシリンショックもこれに当たる。重篤なショック症状で死に至るケースもある。
C3b 異物(細菌)に結合して好中球やマクロファージなどの貧食作用を強める(オプソニン化)
C5a 好中球やマクロファージを炎症部位に引き寄せる(遊走という)、ケモカインという物質を炎症部位から放出
C5b6789 細胞の細胞膜に穴を開け、免疫溶菌反応を引き起こす。

C5b6789は重要な補体の複合体で、別名「細胞膜傷害性複合体」と呼ばれています。細胞膜を破壊することで細胞に穴を開け、壊してしまいます。これを免疫溶菌現象と呼び、細菌の防御において好中球に負けないくらいの力を発揮します。
このように私たちの体は、細菌の感染に対し「抗体→好中球の貧食(体液性
免疫)」と「補体による免疫溶菌」の2本立てで防御していいるのです。
V型アレルギー反応とは、「免疫複合体が沈着することで組織障害が生じる反応」のことをいいます。
「免疫複合体:immune complex」とは、いくつかの抗原と抗体が結合したかたまり:抗原抗体複合体のことです。正常な免疫反応においても免疫複合体(抗原抗体複合体)は作られていますが、通常は肝臓のクッパー細胞や組織のマクロファージによって、速やかに貧食・除去されています。その免疫複合体がどのようなときに大量発生し、なぜ一部の組織に沈着してしまうかは、いまだに謎なのです。ここでいう、クッパー細胞とは白血球のうちの単球が肝臓組織内に入ったもので、マクロファージと同じと考えてください。しかし、どのような抗原または抗体がこのV型アレルギー反応を引き起こしやすいかは、ある程度知られています。
たとえば、自己抗体が関与するする場合もありますし、外来抗原に対する抗体の場合、抗原・抗体が全く不明の場合もあります。以下に、V型アレルギー疾患とその要点を簡単に説明します。
・全身性エリトマト-デス(SLE)抗体は細胞の中に入ることは出来ません。しかし、なぜか細胞内の核に対する「抗核抗体」という意味不明の自己抗体が作られる自己免疫疾患があり、その代表がSLEです。抗核抗体による免疫複合体が作られ、腎臓(糸球体)、関節、肺、血管などに沈着することによって、各臓器の障害が生じる。
・慢性関節リウマチ(RA)「リウマトイド因子」と呼ばれる「自分のIgGのFc部分に対する自己抗体」が原因となります。ちょっと難かしいので簡単に言えば、外来の細菌などを排除する免疫系を体液性免疫という。それによって作られ抗体をIgG抗体という最も多く血液中に存在する抗体である。その「IgG」が抗原として作用して自己抗体を作る。
Fc部分とは


すなわち、リウマトイド因子は抗体である。リウマトイド因子は自分のIgGのFc部分と結合して免疫複合体を作り、関節内に沈着し、関節炎を引き起こします。これらの病気を膠原病と呼ぶ。自分の体を異物とみなすこことによって起こる、やっかいな病気です。治療には、金製剤、消炎剤インドメサシン(インテバンSP)、ステロイドなどがありますが、いずれも対症療法です、自己免疫疾患は免疫系の異常ですから臓器移植後の拒絶反応を抑える免疫抑制剤イムラン(アザチオプリン)などが使われる場合もありますが、最終的な手段です。これは体全体の免疫力が弱まるので、肺炎や気管支炎などの細菌感染を受けるリスクが高まるのです。他には甲状腺という臓器をを非自己とみなし甲状腺機能低下を起こす橋本病、ベーチェット病などが難病の指定を受けています。

サイトカインについて
サイトカイン(cytokine)は細胞間にシグナルを伝えるシグナル伝達分子の総称である。細胞によって作られた低分子量のたんぱく質で、ほかの細胞に働きかけて挙動や機能を制御する。一般に、サイトカインはあらかじめ作られて細胞内に蓄積されるのではなく、細胞が刺激を受けると一過性に急速に合成される。
リンパ球が産生するサイトカインはリンホカイン(lymphokine)とも呼ばれる。しかし、あるリンポカイは非リンパ系細胞から作られるもので、厳密な意味での名称ではない。T細菌などがつくるサイトカインの多くはインターロイキン(interleukin:ILと略)と呼ばれ、数字をつけて表される。これまでに十数種類のILが見つかっている。単球やマクロファージが作るサイトカインはモノカイン(monokaine)と呼ぶこともあるサイトカインのシグナルを受ける細胞は、それぞれのサイトカインに特異的なレプター(受容体)を細胞表面に発現している。
サイトカインの特徴はそれぞれのサイトカインが多様な生理活性を示すことと、複数のサイトカインが同じ1つの細胞に対して同じ作用をおよぼすことである。前者はサイトカインの「作用の多様性」、後者を「作用の重複性」といわれる。また、同じサイトカインでも標的細菌が違うと、異なる作用をおよぼすこともあって、その働きを簡潔に説明することは難しい。サイトカインには、その働きから免疫系細胞の増殖・分化を抑制するもののほかに。細胞増殖を促進を促進する増殖因子、神経細胞の増殖・分化を促進する神経成長因子、血液細胞の増殖・分化を制御する造血因子などのグループがある。
サイトカインは、別のシグナル伝達因子であるホルモンとよく似ている。ホルモンは内分泌腺から分泌され、一般に、遠く離れた臓器にシグナルを伝達する全身的な生理活性物質である。サイトカインは、特別な分泌腺を持たず、シグナルを伝える場合も、産生細胞の比較的近くの細胞または産生細胞自身に作用することが多い。
ご存知のように、マクロファージは感染防御の第一線をはる細胞です。多くの場合、この細胞が異物を貧食してサイトカイン、ケモカインを産生するところから、免疫反応が始まります。
マクロファージは、多くのサイトカインやケモカインを産生し、防御反応を自然抵抗性から獲得免疫へと進めます。特に、感染に対する急性期炎症反応において、マクロファージが産生するIL-1、TNF-α、IL-6、IL-8、IL-12は重要で、「炎症性サイトカイン」と呼ばれます。
なかでもIL-1、TNF-α、IL-6、は血管内皮細胞を活性化して、接着分子を発現したり、透過性の亢進を引き起こしことで、白血球の炎症部位への移行を促進するところが重要です。特にTNF-αは血管拡張・透過性亢進作用が強く、感染症がひどくなると全身性にTNF-αが産生されることから、全身の血管が拡張し、血圧の低下(敗血症性ショック)を引き起こすことがあります。
また、炎症性サイトカインによって、血中の急性期反応物質が上昇します。急性期反応物質とは「炎症の惹起により肝臓で合成が促進されるタンパク」でその代表がCRP(C-reactive protein)、補体(c3・C4)、フィブリノーゲンなどです。
特に、CRP値は炎症のマーカーとして日常の臨床検査でよく使われています。CRP値が高いと、体のどこかで炎症がある証拠です。正常値は0.0、または(−)です。
また、関節リウマチの炎症を引き起こす原因であるサイトカインを抑制する作用を持つ薬がレミケード(インフリキシマブ)です。この薬は生物学的製剤で、上記TNF-αの働きを特異的に抑制するものです。リウマトレックス、免疫抑制剤(メトトレキサート)との併用が行われますが、点滴注入が必要で高価なので、関節破壊をくい止める必要性が高い患者に用いられています。
膝関節



ケモカイン
「ケモカイン」とはサイトカインのなかでも白血球を遊走させる働きのあるものをいいます。ケモカインが細胞を引き寄せるメカニズムは、非常に複雑でまだ分からない点も多いのですが,細胞はケモカインの濃度勾配にしたって濃い方に進む性質があります。
「ケモカインレセプター」ケモカインもサイトカインと同じく、そのケモカインに対するレセプター(受容体)を持つ細胞にしか作用しません。ただし、ややこしいのはサイトカインとサイトカインレセプターのように1対1の関係ではなく、1つのケモカインが複数のケモカインレセプターと結合することです。たとえば、IL-2は、IL-2レセプター(IL-2K)としか結合しませんが、好酸球を遊走させるRANTES(ラムテス)は、CCR-1、CCR-3、CCR-4、CCR-5という4つのケモカインレセプターに結合することが可能です。ところで、細胞と細胞の結合には、接着分子による結合があります。
しかし、接着分子は単なる「結合する細菌間のつなぎ目」ではありません。接着分子はもともと細胞表面上に顔を出している「表面発現している」ものだけでなく、普段は表面発現せずに、サイトカイン・ケモカイン、ケミカルメディエーターなどの刺激によって細胞が活性化することで表面発現するものもあります。さらに接着分子どおうしの結合力も、細胞が活性化することでその結合力が変化します。このように接着分子は、細胞の活性化に伴い表面発現が行われたり、その結合力が増強されたりすることによって、細胞の移動・遊走に深く関与しています。
接着分子は誰に対してもベタベタくっつくのではなく、決まった相手としか結合しません。その「結合する相手」のことを「リガンド」といいます。ただし浮気なことに、リガンドとの関係は1対1の関係と限りません。たとえば血管内皮細胞に発現する「Pセレクチン」・「Eセレクチン」はどちらも白血球(顆粒球・単球・リンパ球)が持つ「シリアルLewisX]という共通のタンパクがリガンドとなります。
また、気道上皮細胞や血管内皮細胞などに多く発現するICAM-1:アイカムーワンは、白血球各種に発現するLEA-1やMac-1といった複数のリガンドが結合します。炎症の多くは、マクロファージが炎症性サイトカインやケモカインを産生することから始まります。そしてこれらの炎症性サイトカインの多くは血管内皮細胞を活性化する作用を持っています。
これらの作用により拡張して太くなった血管の血流は、いつもより遅くなります。そして、血管内皮細胞はこれらの炎症物質により活性化すると。P/Eセレクチン、ICAM-1といた接着分子を表面発現し始めます。以上から、血管のなかを流れる好中球はスピードが遅くなり、血管内皮細胞に接着しやすい状態になります。
流れが遅くなった好中球がはじめに血管内皮に結合するには、好中球上のシリアルLewisXが血管内皮細胞上のPセレクチン、Eセレクチンに結合する必要があります。しかし、この結合はそれほど強い結合ではなく、結合というよりも、好中球がセレクチンにひっかかリながら流れる感じで、実際には血管内皮上をコロコロ転がっています。この状態を「ローリング」とよばれます。次に、転がりながら徐々にスピードが落ちた好中球は、LEA-1やMac-1といった接着分子を用いて、血管内皮にのICAM-1としっかりと結合します。ついに静止した好中球はケモカインの誘導により、血管透過性が亢進した血管内皮細胞の間隙から血管外へ抜け出ようとします。もちろん、この移動の時も接着分子が重要な役割を担っているのですが、そのメカニズムはまだ解明されていません。
血管内皮細胞の間を抜け出ようという過程は「トランスマイグレーション」といいます。血管を完全に抜け出た好中球は、ケモカインの濃度勾配にしたがって炎症局所に遊走していくわけです。このように細胞が移動するメカニズムは、サイトカイン、ケモカインおよび接着分子による複雑な共同作業により制御されています。
好中球の遊走のほかににも、T型アレルギーにおける好酸球の遊走。リンパ球のホーミング、ありいわ癌細胞の転移などすべての細胞の動きに対して、サイトカイン・ケモカイン、接着分子は常に重要な役割を担っています。
リンパ球のホーミングとは、リンパ組織から循環してもとのリンパ組織にもどることを、リンパ球の「ホーミング:homing]という。

免疫について
リンパ球には、B細胞、骨(Bone)由来と,T細胞、胸腺(Thymus)由来とがあります。B細胞の場合、骨髄の幹細胞から未熟B細胞が産生され、一方、抗原(自己あるいわ非自己)には抗原決定基、エピトープがあります、これは8個程度のアミノ酸からなる低分子タンパク質です。自己成分すなわち自分の体、あるいわ非自己すなわち病原体、ウィルス、花粉などの異物などがエピトープによって識別され、自己成分と結合した未熟B細胞は死滅します。
残ったB細胞は成熟B細胞となる。それが抗原に遭遇すると増殖し、それぞれの遭遇した抗原に対応した抗体産生細胞が作られます。クローン選択説と呼ばれています。そして、同じ抗原に遭遇すると、抗体産生細胞はその抗原にだけ反応する抗体を作ります。そして抗原抗体反応がおこります。花粉症やアレルギーなどがこれにあたります。さらに、自己と非自己を認識する中心的な役割をしているのが、主要組織適合抗原(major histocompatibility antigen:MHA)と呼ばれる一群の細胞膜上のたんぱく質である。MHAは移植片(移植された組織や臓器の総称)に対する拒絶反応の研究から発見されました。
ある個体のすべての、核をもつ細胞、有核細胞と言います。にはその個体に固有の構造のMHAを持ち、しかもそのMHAはどの細胞も同じ構造をしている。このMHA分子は1個体につき十数種類存在する。移植を受けた場合、受容者(recipient)の免疫システムによって提供者(donor)からの組織片はMHAの構造の違いから非自己と認識され、結果的に攻撃、拒絶されます。
例外として、さらに同種移植、人から人への移植でも拒絶反応が起こらない組織はある、その例外的な組織が眼の角膜で、角膜移植では拒絶反応が原則として起こらない。それは、角膜に血管がないので、免疫システムの細胞と隔絶しており、反応しないことによる。
同種移植が成功しないのは、次の理由による。ある個体のすべての有核細胞はその個体に固有の構造のMHAをもち、しかもそのMHAはどの細胞も同じ構造をしている。このMHA分子は1個体につき十数種類存在する。移植を受けた場合、受容者(recipient)の免疫シシテムによる提供者(donor)からの移植片はMHAの構造の違いから非自己と認識され、結果的に攻撃、拒絶される、MHAは拒絶反応でもっとも強く働く抗原群であるが、MHAのほかにも拒絶反応に関わる多くの抗原があり、それらは副組織適合抗原と総称される。ヒトのMHAは最初に白血球を用いて研究されたので、HLA(human leukocyte antigen)系の抗原と呼ばれる。これに対して、マウスのMHAはH-2系と呼ばれる。
なお、血液型を決める血液型物質なども拒絶反応に関わっているが、移植の際の抗原としての作用は弱い。以上のように、組織適合抗原はたくさん存在するので、同じ構造の抗原群をもつ同じ系統でない同種の二つの個体が存在する可能性は一万人に一人といわれ、その確立はきわめて少ない。
しかし、実際には、ヒトの同種移植はかなり成功している。とくに、近親者間で見られるように、MHAのいくつかの抗原が一致している移植片の提供者と受容者のあいだだけでの移植の成功率は、免疫抑制剤の使用によってかなり高くなっている。MHAの構造を支配する遺伝子群は、主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompatibility complex:MHCと略)と呼ばれる。なお、一般に主要組織適合抗原はMHCで現されるが、主要組織適合遺伝子群複合体とまぎらわしいので、ここでは前者をMHAで表し、後者と区別する。
いま、二つの異なるAとBの系統のマウスの、ある一つのMHAをコードする遺伝子をそれぞれAAとBB(両親に由来する2個の対立遺伝子があり、同型接合であるので、同じ対立遺伝子を一対もつ、(要するに染色体上では遺伝子はペアで存在するとお考えください)とすると、両系統のマウスの交配によって生まれる第一代雑種F1(子供)の遺伝子は、ABとなり、第二代雑種F2(孫)はAA:AB:BB=1:2:1の割合で現われる、これらの遺伝子をもつマウスの間で移植すると、次の法則が成り立つ。
(1)A系統とB系統間のように同じ系統のマウス間では移植は成功する。
(2)A系統とB系統間のように異なる系統のマウス間の移植は拒絶される。
(3)A系あるいわB系の親からF1への移植は成功する。しかし、F1から親への移植は拒絶される。
(4)F2からF1への移植は成功する。
(5)親からF2への移植は75%を超えて成功することはない。
これらの法則から、MHCは同じ動物種であっても拒絶反応を誘導するほど多様なMHAをコードし、古典的なメンデルの遺伝法則に従っていることが分かる。
また、F1すわち子供は、両親からの遺伝子をもっているので、両親からの移植片は受け入れることを示している。このことからMHCは子孫細胞に伝わると、その産物のMHAが常に細胞上に現われることのなる。すでに述べたように、1個体には多数のMHAがあるので、その数に対応するそれぞれ独立した組織適合遺伝子(座)をもつ。ヒトのHLA系の遺伝子群はMHCとして第6染色体上のD、クラスV、B、C、Aの五つの領域に存在する。これらの領域の遺伝子によってコードされる抗原たん白質はクラスT抗原とクラスU抗原があって、クラスV抗原は識別に関与しない。
クラスT抗原
ヒトのクラスT抗原は、B、C、A領域にある遺伝子が作り出す抗原分子であって、HLA−B,HLA−C,HLA−Aと呼ばれるポリペプチド鎖(H鎖)がβ2ミオグロビン(L鎖、β2m)と呼ばれるポリペプチド鎖(分子量:約12,000))と結合した複合体の糖たん白質として細胞膜上に存在する、ヒトでは、これらのクラスT抗原は赤血球、血小板、精子などの特別な細胞を除いた、ほとんどすべての細胞に存在する。、HLA−B,HLA−C,HLA−Aはいずれも分子量が約45,000の共通の基本構造をもつ。
しかし、これらのMHAをコード(3種の塩基配列でアミノ酸の組み合わせが決まる)する各遺伝子座の対立遺伝子のDNAの塩基配列の一部が個体によって異なるので。いずれのMHAも多型である。これまでにHLA−B,HLA−C,HLA−Aの遺伝子座(場所)には、それぞれ59、10、27個という多くの対立遺伝子が見つかっている。
これらのクラスT抗原は同じ基本構造をもつが、同じ動物種のほかの個体に対しては抗原として働く、いわゆる同種抗原性を示すのは、それぞれの対立遺伝子の塩基配列の差によるHLA分子の一部の違いを反映している。これに対して、ヒトのクラスT抗原を構成するもう一つのポリペプチド鎖であるβ2mは多型を示さない。そしてβ2m遺伝子はMHCに含まれず、第15染色体上に存在する。

クラスU抗原
クラスU抗原の基本構造はクラスT抗原と異なり、α鎖(分子量:約34,000)とβ鎖(分子量:約29,000)と呼ばれる2本のポリペプチド鎖からなると糖タンパク質として、細胞膜上に存在する。ヒトのクラスU抗原をコードする遺伝子はD領域(場所)に存在し、D領域にはDP、DQ、DRの亜領域があり、それぞれの遺伝子をコードする産物はHLA−DP,HLA−DQ,HLA−DR抗原と呼ばれる、DP抗原はα鎖とβ鎖の遺伝子のDPA1、DPB1によってそれぞれコードされ、DQ抗原はα鎖とβ鎖の遺伝子のDQA1、DQB1によってコードされる。
DR抗原は複雑で、そのα鎖の遺伝子はDRAの1庫であるが、β鎖の遺伝子にはDRB1、DRB3、DRB4、DRB5がある。
従ってDR抗原は、DRAの産物であるα鎖にDRB1、DRB3、DRB4、DRB5に由来するβ鎖のいずれかが結合した複合体として発現する。また、DRAとDRB4には、対立遺伝子が見つかっていないが、DPA1に4個、DPB1に19個、DQA1に8個、DQB1に13個、DRB3に4個、DRB5に4個の対立遺伝子が見つかっている。
このためいずれのクラスU抗原も著しく多型となり、ほかの個体に対して同種抗原性を示す。クラスU抗原は分布においてもクラスT抗原とは異なる。つまり、B細胞、一部のT細胞と上皮細胞、マクロファージ、樹状細胞などに限って発現するクラスU抗原は、抗原提示細胞が抗原を提示する際に必須の因子として働く。

胸腺の位置は、心臓の前部にあり新生児からあり青年期に一番大きくなり、老人になると萎縮してしまう扁平な組織体のことで、免疫系と深い関わりがある。
文書内へ
下図を見てください。
遺伝子座(場所)の図

クラスT、U分子


組織や臓器の移植はあくまで人為的な行為であり、正常な生活でほかの個体の組織にであうのは、妊娠のときぐらいである。胎児は母親由来の組織適合抗原のほかにも発現する。母親にとって胎児がもつ父親由来の組織適合抗原は異物なので、母親の免疫システムは胎児を排除しようとする。しかし、この働きを抑えるしくみが胎盤を中心とする組織に備わっているので。胎児に対す拒絶反応はまれにしか起こらず、ほとんど流産しない。それでは、MHAの存在と多型性は免疫システムにどんな働きをしているのだろうか。
この疑問はMHAのクラスTとクラスU分子が抗原エピソトープを結合してT細胞に提示すること、このためにMHAは免疫システムが自己と非自己を識別する機能に深く関わっていることから答えが得られる。
クラスT分子は細胞内にある抗原をT細胞に提示する
すでに示したように、MHAのクラスT分子は細胞外領域、細胞膜貫通領域、細胞内領域からなるH鎖とβ2mの複合体である,H鎖の細胞外領域はよく似た構造をもつα1、α2、α3とよばれる三つのドメイン(domain)からなり、α1とα2は細胞外側先端部にα3とβ2mは細胞膜近くに存在する。α1ドメインとα2ドメインはともに4個のβストランドとC末端側に(アミノ酸の-COOHのこと)αへリックス(αらせん)構造をもつ。これらの構造からβシート(βストランドが平行に並んだ構造)を底面とし、αヘトリックスを側面とする溝ができる。この溝に抗原由来のペプチド(抗原エピトープ)が結合する。
一般に、この溝は8〜9個のアミノ酸からなるペプチドを結合できる。多数のクラスT分子の構造を比較すると、α1ドメインとα2ドメインの二つのαヘリックスとβシートの部分にアミノ酸の変換が顕著に集中している箇所がある。
クラスT分子、クラスU分子の図


これらの箇所のアミノ酸の配列でクラスT分子が結合できるペプチドの構造が決まる。したがって、すべてのクラスT分子が同じペプチドと結合するのではなく、それぞれのクラスT分子によって結合できるペプチドの構造が異なるので、ある一つのクラスT分子は特定のペプチド(群)としか結合できない。たとえば、HLA-Aの一つであるHLA-A2分子に結合するペプチドはN末端(アミノ酸の-NH2のこと)から2番目の位置にロイシンを。9番目の位置にバリンをまたはロイシンをもたなければならない。これに対して、HLA-B27分子にペプチドが結合するのは、2番目がアルギニンで、9番目がアルギニンまたはリジンである必要がある。特定のMHA分子が結合できるペプチドのアミノ酸配列の特徴はモチーフ(motif)とよばれ、それぞれのクラスT分子によってモチーフは異なる。一般に、クラスT分子に結合するモチーフは、ペプチドの両端付近に位置しているという傾向が見られる。
モチーフの図


それならば、どんなしくみで抗原からペプチドが生じ、クラスT分子に結合するのだろか。一般に細胞質内の内在性タンパク質はプテアソーム(proteasone)とよばれるきわめて複雑な構造のプテアーゼ(タンパク質分解酵素)によって代謝され、ペプチドにまで分解される。ウィルスや細胞内寄生細菌に感染した細胞では、ウィルスや細菌のタンパク質の一部もペプチドまで分解される。
こうして出来た、ペプチドは抗原提示に働くペプチド転移因子などのタンパク質が働く複雑な過程で、細胞質側から小胞体の膜を通過して小胞体中に転送される、ペプチドは小胞体内で、生合成されて小胞体の膜に結合しているクラスT分子に結合し、クラスT分子とともに細胞膜上に運ばれる。こうしてクラスT分子を介して細胞上に提示されたペプチドをT細胞が認識して反応する。しかし、すべてのT細胞がペプチドとクラスT分子の複合体と反応できるわけではない。反応できるのは、あとで述べるCD8T細胞と呼ばれる、細胞群である。
このCB8T細胞は抗原レセプターを介してペプチドとクラスT分子の複合体を細胞表面にもつ標的細胞に結合して活性化し、破壊する。この働きから、CD8T細胞は細胞障害性T細胞ともよばれる。自己のタンパク質由来のペプチドと反応するT細胞は、前駆細胞から分化して成熟する過程で除かれる。したがってほかの個体や、感染微生物の非自己タンパク質由来のペプチドとクラスT分子の複合体と反応するCD8T細胞のみが存在することになる。
クラスU分子は細胞外抗原をT細胞に提示する
クラスU分子はα鎖とβ鎖と呼ばれるポリペプチド鎖が非共有結合した複合体で、細胞膜上に現われる。いずれも細胞外領域。細胞膜貫通領域、細胞内領域からなる。細胞外領域はα鎖でα1とα2の二つのドメインに、β鎖でβ1とβ2の二つのドメインに分けられる。クラスU分子をコードする遺伝子も多型であるので、クラスU分子も多型性を示す。この構造でアミノ酸の変換が顕著に集中している箇所は、DR分子ではβ鎖のβ1ドメインで、DQ分子とDP分子ではα1ドメインとβ1ドメインである。
クラスU分子も抗原ペプチドを結合できる溝を持っている。この溝はα1ドメインとβ1ドメインとから構成される。クラスU分子が結合できるペプチドの大きさはにはあまり厳密な制限がなく、8個から30個のアミノ酸からなるペプチドと結合する。しかし、クラスT分子と同様に、クラスU分子は特定のペプチド(群)のみを結合するという特異性をもっており、異なる対立遺伝子によってコードされるクラスU分子のあいだで、結合の特異性が異なる、クラスU分子の結合するモチーフは1〜2個のアミノ酸残基を介して飛石上に配列する3〜5個のアミノ酸残基からなるという傾向が見られる。クラスU分子は抗原提示細胞のみ存在する。クラス1分子と異なる大きな点は、クラス1分子は細胞内に潜む抗原を提示するが、クラスU分子は細胞外にある抗原を提示することである。


抗原提示細胞は外来の抗原を細胞内に取り込んで、次に示す複雑なプロセスによって抗原ペプチドを細胞表面に提示する。抗原は貧食作用や飲作用などによって細胞内へ取り込まれ、エンドソームとよばれる顆粒内でリソソームのプロテアーゼによりペプチドにまで分解される。一方、生合成されて小胞体に移動したクラスU分子はインバリアント鎖(invariant chain;li鎖と略)とよばれるポリペプチド鎖と結合しているので、抗原ペプチドとは結合できない。エンドソームが融合すると、li鎖が解離するので、ペプチドと結合できるようになる。ついで、ペプチドが結合したクラスU分子は細胞表面に移動して、ペプチドをT細胞に提示する。クラスU分子が提示するペプチドに反応するT細胞はCD4T細胞とよばれる細胞群で、CD8T細胞は反応できない。この点でもクラスU分子はクラス1分子と異なる。
なお、CD4T細胞の場合にも、自己の成分由来のペプチドと反応するT細胞は前駆細胞からの分化、生成の過程で除かれる。後で書きますが、このCD4T細胞は抗原と反応したB細胞の抗体産生細胞への分化・増殖をう内皮細胞を促したり、CD8T細胞の細胞障害性T細胞への活性化を促進するヘルパーT細胞として働く。また、抗原と反応して活性化すると、いろいろな活性物質をつくりだして、マクロファージなどを活性化して抗原の排除を促進する炎症性T細胞として働く。こうした多彩な働きからT細胞は免疫応答で中枢的役割をはたす。
MHAはなぜ多型であるのか
MHAは、動物が単細胞微生物から多細胞動物に進化する過程で、ほかの個体の細胞が紛れこまないように、自己の細胞とほかの個体の非自己の細胞とを識別する目印として現われたと考えられている。しかし、脊髄動物のMHAはそれ以上の機能をもち、抗原提示作用を介して免疫システムの働きの中枢に関わっている。しかも、多型であるMHAのうちいずれのタイプをもつかによって、免疫応答が左右されることが免疫応答現象とよばれる現象からわかってきた。これはある特定の合成ポリペプチドで系統の異なるマウスあるいわモルモットを免疫すると、系統によって抗体産生量が変化する現象である。ある系統のマウスでは、抗原に対して高応答性で、つくりだす抗体量は多いが、ほかの系統のマウスでは低応答性で、ほとんど抗体をつくりださないことがある。この高応答性と低応答性を決めるのがクラスU分子であることが証明されている。
つまり、ある個体が特定の抗原エピトープを強く結合できるクラスU分子をもっていれば、高応答性となり、弱くしか結合できないクラスU分子をもっていれば低応答性となる。もし、ある動物種のすべての個体が例外なくある一つの病原性微生物に同じように低応答性あるいは無応答性であるとすれば、すべての個体は死滅して、その種が根絶することになるだろう。このような事態を避けて生き残るためにMHAが多様性をもつようになったといわれる。
いずれにしても、MHAが現われたことで、
@)T細胞単独では見つけ出して認識しにくい細胞内の抗原を認識できるようにし、しかも、エピトープのレベルで認識を容易にする。
A)抗原ペプチドを結合することによってMHAの枠組み構造の一部を変えて非自己としてT細胞に認識させる、などのしくみを可能にしている。もし、自己の細胞がMHAを発現しなくなると、免疫システムはどう対応するだろうか、このようなことはある種のウィルスに感染したり、がん化の過程で一部の細胞で起こることがある。この事態に対応するために、免疫システムはナチュラルキラー細菌(natural killer cell:NK細胞と略)とよばれる細胞障害作用に強いリンパ球様細胞を備えている。このNK細胞はMHAに拘束されずにウィルス感染細胞やがん細胞を障害するが、自己のMHAクラスT分子を発現している細胞には作用しないといわている。
そうだとしたら、NK細胞は自己と非自己にかかわらず標的細胞を認識するレセプターを介して標的細胞を障害するが、標的細胞が同じ自己のMHAクラスT分子を発現している場合には、このクラスT分子に対するレセプターが働くので障害作用は抑えられる、したがって、非自己と認めたものには作用するT細胞と違い、NK細胞は自己と認めたものには作用しないことになる。
ナチュラルキラー細胞



感染細胞排除の実態
細胞性免疫による抗原排除
細胞性免疫の主役は炎症性CD4T細胞(Th1細胞)と細胞障害性CD8T細胞である。体内に侵入した細菌はマクロファージなどの貧食細菌によって貧食されて殺菌される。
しかし結核菌のような細胞内寄生細菌はマクロファージによって貧食されても、殺菌されずにマクロファージ内で生き続ける。このとき、Th1細胞が感染したマクロファージを活性化して、殺菌されて排除する。細胞障害性CD8T細胞はウィルスが感染した細胞を破壊して排除する。
これらのような細胞生免疫応答の特徴は、認識した標的細胞に限定して働くように抗原特異的な活性分子を放出していることである。
これは放出する活性分子が標的細胞に限定して働くように抗原非特異的な活性分子を放出していることである。これは放出する活性分子が標的細胞と自己を区別せずに働いて傷害するので、作用する相手を抗原だけにしぼり、からだを障障しないようにするメカニズムである。つまり、Th1細胞は、結核菌やライ菌などの細胞内寄生細菌や原虫に感染したマクロファージは主要組織適合抗原(MHA)のクラスU分子を介して提示する抗原エピトープを認識することで、感染マクロファージのみを活性化する。
また細胞障害性CD8T細胞はウィルス感染細胞にであったとき、MHAクラスT分子を介して提示される抗原エピトープを認識することで、感染細胞のみに働くよう細胞障害因子を放出して破壊する。しかし、こうしたしくみにかかわらず、細胞性免疫では宿主組織のある程度の破壊を代償としてともないやすい。その例が結核菌に免疫の人のツベルクリン反応で見られるような皮膚の発赤である。
一般に、細胞性免疫応答は体液性免疫応答と同時に起こり、協同して抗原を排除する。
たとえば、エイズ患者にとって致命的なカリニ原虫(Pneumocytis carinii)は正常人に感染すると、活性化されたマクロファージが原虫を細胞内に取り込んで破壊する。このとき抗体が産生されていれば、マクロファージに貧食作用を亢進し原虫の破壊が促進される。
体液性免疫による抗原排除
普通、マクロファージは活性化していない状態で存在する。この状態のマクロファージは糖鎖などの細菌成分に対するいろいいろなレセプターをもち、これらのレセプターを介して細菌を貧食して消化し、抗原ペプチドをMHAクラスU分子複合体としてCD4T細胞に提示する。
その結果、貧食した細菌に特異的に反応するCD4T細胞が増殖・分化して多数のエフェクターTh1細胞が生成する。このエフェクター細胞がマクロファージに働いて活性を増大させ、寄生している細菌を破壊する。また、活性化したマクロファージは細胞外の細菌にも作用し、容易に貧食して破壊する。
Th1細胞によるマクロファージの活性化は、Th1細胞が産生するIFN−γの作用による。また、Th1細胞の細胞膜上に発現する膜結合型のTNF-αがマクロファージの細胞膜上のTNF−αレセプターに結合して働くと考えられる。マクロファージが活性化すると、殺菌作用をもついろいろな酵素を含むリソソームが細胞に寄生している食胞と融合しやすくなり、殺菌を亢進する。
また酸素の作用で殺菌作用の強いスーパーオキシドアニオン(O2-)や一酸化窒素(NO)ができて殺菌に働く。もし、慢性的に細菌に感染するとマクロファージは活性化されない。このような場合には、Th1細胞が産生するリンホトキシン(lymphotoxin)が慢性感染に冒されたマクロファージを破壊する。破壊によって放出された細菌は新たなマクロファージが貧食して破壊する。

標的細胞の障害のしくみ
細胞障害性CD8T細胞は抗原を認識て、サイトトキシシン(cytotoxin)を含む分泌顆粒を放出して、標的細胞を破壊する。
細胞が標的細胞と反応すると分泌顆粒が細胞質膜と融合し、内容物を細胞外に放出する。放出されたサイトトキシンの一種のパーフォリン(perforin)はCa2+依存的に重合して円筒状構造の標的細胞の細胞膜上に形成し、これが細胞膜を貫通して膜に小穴をあける。その結果、この構造を通じて水が標的細胞内に入り込み、細胞質成分が細胞外に流出して死に至る。パーフォリンは標的細胞以外も破壊するので、その作用が標的細胞に限定して働くように、顆粒内のタンパク質が標的細胞とのすき間に分泌される。
分泌顆粒にはパーフォリンのほかに、グランザイム(granzyme)と総称される少なくとも4種類のプロテアーゼが含まれている。これらのプロテアーゼも標的細胞の破壊に働く。しかし、細胞障害性T細胞の作用をすべてパーフォリンの作用で説明できない。


この第二の機構としては、Fas-Fasリガンド系がアポトーシス(apotosis)を誘導することによる細胞死がある。補体系による細胞の障害などは、物理的あるいは化学的の損傷と同様に細胞の壊死を招く。これに対して、アポトーシスとよばれる細胞死はプログラム細胞死(programmed cell death)ともいわれ、多細胞生物の発生・分化の過程で必要な細胞の機能と考えらている。アポトーシスがはじまると、DNAの断片化、核の破壊、細胞の形態変化が起こり、細胞は死滅する。その特徴の一つは、核酸分解酵素の活性化による染色質(クロマチン)の約200塩基対からなるDNA断片への分解である。Fasとよばれるタンパク質はApo-1ともいい、多くの細胞に発現している。このFasに特異的な抗体を細胞に反応させると、細胞がアポトーシスによって死滅する。細胞障害性CD8T細胞のなかには、Fasリガンドをもつものがあり、Fasを発現している標的細胞にFasリガンドを介して結合すると、標的細胞はアポトーシスを誘導して死滅させる。細胞障害性CD8T細胞はIFN-γ、TNF-αなどのサイトカインも産生する。これらのサイトカインは細胞内の病原性微生物が増殖するのを抑え、拡散するのを防ぐ役割もはたしている。


拒絶反応について
 ある個体の組織(移植片)を同じ動物種のほかの個体に移植する同種移植で拒絶反応が起こる。一度移植片を拒絶した受容者は再び同じ提供者からの移植片を移植されると、最初の移植よりすばやく拒絶反応を起こす。この現象から拒絶反応が免疫システムの働きによることがわかる。拒絶反応は複雑な機構の反応であるが、おもに受容者のT細胞が提供者の組織のMHAを非自己と認識して破壊することによる。拒絶反応の強さは組織の提供者のMHAの違いの程度による。この程度を調べる方法に混合リンパ球反応がある。ある個体のリンパ球を放射線照射して、ほかの個体のリンパ球と混ぜて培養する。リンパ球中のT細胞には非自己の細胞を認識して増殖するという機能があり。一方の個体のリンパ球を放射線照射したのは、照射しないと、混ぜた他方の個体の細胞と反応して増殖するので、どちらの細胞が増殖したのかわからなくなるからである。そのために増殖できなくなるように放射線照射しておく。放射線照射していないリンパ球中のT細胞はMHAの異なる放射線照射した細胞には反応して増殖し、エフェクター細胞に分化する。この増殖にともなうDNA量の増加を測定すれば。拒絶反応の強弱を予測することができる。なお、拒絶反応の後期には、抗体が産生されて反応を加速する。とくに、受容者が輸血などによって提供者の同種抗原に対する抗体をもっているときには、拒絶反応は早期に起こる。
個体のT細胞の約1〜10%が同種異系の個体の細胞に反応する。このT細胞の同種異系のMHAとの反応は、自己MHA分子に結合した外来ペプチドに特異的であるTCRが交叉反応することによる。この交叉反応は非自己MHA分子に結合したさまざまなペプチドにTCRが結合する、あるいは非自己MHA分子の特定の構造部分にTCRが直接結合することのよるといわれる。(ここでは、ある抗原に特異的な抗体やリンパ球の抗原レセプターの構造が似ているほかの抗原と反応することをいう。)
 普通の拒絶反応は移植された組織に対して宿主の免疫システムが反応する。この場合、抗原は移植片であるので宿主移植片反応(host versus graft reactio:HVG反応と略)とよばれる。また、リンパ系組織を移植すると、移植片のなかの免疫能をもつ細胞は宿主の組織を抗原として認識して免疫反応を起こす。この反応は移植片対宿主反応(graft versus host reaction:GVH反応と略)とよばれる。


多くの場合、HVG反応のほうが優勢なのでGVH反応の影響は見られない。しかし、宿主が放射線照射を受けたりして、免疫能が低下しているときなどには、GVH反応が優勢になり障害を受けることになる。
 胎児は父親由来のMHAも発現する。このMHAは母親のMHAとは異なるが、母親の免疫システムは胎児を攻撃しない。拒絶反応が起こらないようにするしくみが備わっているからである。つまり胎盤が母親のT細胞の胎児への反応を防ぐことが考えられている。


また、胎盤の外層を形成し、母親の組織と接している栄養膜細胞はMHAを発現していないので、細胞障害性T細胞の標的にならない。ある種のサイトカインが細胞障害性T細胞の生成を抑制するしくみも考えられている。


B細胞の多様なクローンができるしくみ

B細胞のクローンの数は108と推定されている。では、このような膨大な数のクローンはどんなしくみでつくられるのだろうか、免疫システムは長い進化の道筋で、次の2つの過程からなる巧妙なしくみをつくりあげてきた。
@)B細胞は前駆細胞から分化するとき、抗原レセプターの遺伝子を再編成して、きわめて多型な抗原レセプターをもつ膨大な数の細胞クローンを生み出す。
A)ついで、この細胞クローンのプールのなかから自己成分と反応する抗原レセプターをもつ細胞を消失したり、自己成分と反応しても活性化しないようなしくみを用意する。
このしくみによれば、あらかじめ膨大な数の抗原レセプター遺伝子を用意する必要はなく、比較的少数の遺伝子の組み合わせでまかなうことができることができる、抗原レセプターの遺伝子に再編成が起こることを利根川 進によってはじめて証明され(1986年)、その後多くの研究者によってそのしくみの群細が明らかにされている。
1.特異的を決める抗原レセプター
B細胞の抗原レセプターはH鎖(Heavy chain,分子量:約60,000)とL鎖(Light chain,分子量:約23,000)が2本ずつ、計4本のポリペプチド鎖からつくられていて、2本のH鎖のC末端でB細胞の細胞膜と結合しており、IgMとよばれるクラスの抗体のサブユニットと同じ構造をしており

たがいにS-S結合と非共有結合で強く結合している。そして基本構造が免疫グロブリン
(immunoglobulin;Igと略)と同じなので、表面免疫グロブリンとよばれ、slg(surface Ig)で示される。
slgの特徴はH鎖とL鎖とも、N末端側の約110個のアミノ酸からなる部分の構造がB細胞クローンごとに異なる点である。そのため、この部分の構造は可変部(variable region;Vと略し、H鎖とL鎖の可変部をVHとVLで示す)と呼ばれる。VとVが組み合わさって、どの抗原と結合するか、などの抗原特異性を決める抗原結合部位の立体構造を形成する。
抗原結合部位の抗原特異性は高く、抗原エピトープとの結合は基質と酵素の結合によく似ていて、鍵と鍵穴との関係にたとえられる。
この抗原結合部位はH・L対あたり1個あるので、slgは同じ構造の抗原結合部位を2個もつことになる。可変部といっても、その可変性に規則性はあり、VHもVLもアミノ酸の配列があまり変動しない部分と著しく変動する部分とがある。前者は枠組み配列、後者は超可変部とよばれる。

VHとVLの抗原特異性が違ってもすべてのslgが類似した立体構造もつのは、枠組み配列があるためである。超可変部はVHとVLに3ヶ所ずつある。この超可変部は立体構造上それぞれが近接して存在し、抗原エピトープを特異的に結合する溝をつくり、抗原特異性を決めるうえで重要な働きをしている。

そのために超可変部は抗原特異性を決める領域という意味で相補性決定部
(complementarity determining region;CDRと略)ともいわれる。
H鎖とL鎖の可変部を除いたC末端は定常部(onstant region:Cと略、H鎖のものをCH、L鎖のものをCLで示す)とよばれ、slgの抗原特異性に関係なく一定のアミノ酸配列の構造をもつ。L鎖には定常部のアミノ酸配列が異なる2種類があり、χ鎖とλ鎖とよばれる。
B細胞上のslgのH鎖の細胞質内領域はごく少数のアミノ酸からなるので、slgの抗原結合部位への抗原の結合シグナルを細胞内には伝達できない。そのためにslgは細胞膜内でIgαとIgβと呼ばれるタンパク質と結合している。
このニつのタンパク質はslgの抗原特異性に拘束されずにslgへの抗原の結合のシグナルを細胞内に伝える重要な働きをする。また、IgαとIgβが存在しないと、B細胞はslgを細胞表面に発現できない。
2、B細胞は遺伝子を再編成する。
B細胞の抗原レセプターであるslgは、IgM抗体のサブユニットと基本的には同じ構造をもち、両者は同じ遺伝子によってコードされる。
この遺伝子は抗体遺伝子または免疫グロブリン遺伝子とよばれる。ここでは、この遺伝子を記述の順序から便宜上、slgの遺伝子ということにする。ヒトのB細胞のslgのH鎖の遺伝子は第14染色体にある。
また、L鎖の遺伝子は、χ鎖のものは第2染色体に、λ鎖のものは第22染色体にある。B細胞は骨髄中の多能性幹細胞とよばれる幹細胞から複雑な過程を経て分化してつくられる。この幹細胞や、まだ十分に分化していないB細胞の段階ではslgは発現していないが、そのDNAを調べるとH鎖とL鎖の遺伝子がみつかる。しかし、いずれの遺伝子も1個の完成された遺伝子として存在するのではなく、いくつかの、いくつかの遺伝子群としてDNA上に散らばっている。
未分化のB細胞におけるH鎖の遺伝子はVHをコードする遺伝子とCHをコードする遺伝子群(slgのH鎖の定常部をコードするCμ遺伝子のほかにIgM以外のクラスの抗体の定常部をコードする遺伝子群がある。CμはIgMのCHを表す)の二つのグループに分かれて存在する。

ヒトのVHをコードする遺伝子群(遺伝子断片群)ともいう)にVH遺伝子、D(diversityの略)、JH(joiningの略)遺伝子の三つがある。VH遺伝子群は100個以上のVH遺伝子からなり、いずれのVH遺伝子も約110個のアミノ酸からなる可変部全体をコードするのだはなく、N末端から90番目くらいまでのアミノ酸配列をコードし、VH遺伝子ごとにコードするアミノ酸配列が異なる。これに続く可変部の残りの約20個のアミノ酸配列は、VH遺伝子群とCμ遺伝子のあいだにある二つの遺伝子群のD遺伝子とJH遺伝子によってコードされる。
D遺伝子は数個のアミノ酸を、JH遺伝子じは十数個のアミノ酸配列をコードする。D遺伝子群は約30個、JH遺伝子群は6個の遺伝子を含み、それぞれのD遺伝子、J遺伝子はたがいに異なるアミノ酸をコードする。
なお、それぞれのVH遺伝子、D遺伝子、JH遺伝子のあいだにアミノ酸配列をコードしない塩基配列が介在し、たがいに隔てられて存在する。L鎖遺伝子も可変部をコードする遺伝子群と定常部をコードする遺伝子からなる。χ鎖とλ鎖の可変部はH鎖の可変部と違って、VL遺伝子とJL遺伝子の二つの遺伝子群によってコードされる。
このχ鎖の二つの遺伝子群はVχ遺伝子、Jχ遺伝子として、λ鎖のものはVλ遺伝子、Jλとして表す。χ鎖のVH遺伝子はN末端から96番目くらいまでのアミノ酸配列をコードし、Jχ遺伝子は可変部の残りをコードする。Vχ遺伝子群は200〜300個、Jχ遺伝子群は5個の遺伝子からなる。
定常部をコードするCχ遺伝子は1個である。λ鎖も、Vλ遺伝子群、Jλ遺伝子群、Cλ遺伝子によってコードされる。λ鎖の遺伝子群はχ鎖の遺伝子群と違い複数のCλ遺伝子をもち、またJλ遺伝子群が一つの集団として存在するのではなく、それぞれが対応するCλ遺伝子の上流に散在している。
マウスのslgのH鎖の遺伝子群は第12染色体上に存在し、VH遺伝子群、D遺伝子群、JH遺伝子群、CH遺伝子からなる。Lχ鎖遺伝子群は第6染色体、Lλ遺伝子群は第16染色体にあって、Lχ鎖は、Vχ遺伝子群、Jχ遺伝子群、Cχ遺伝子によってコードされ、Lλ鎖は、Vλ遺伝子群、Jλ遺伝子群、Cλ遺伝子によってコードされる。
B細胞の分化にともなう遺伝子の再編成
B細胞が骨髄中の幹細胞から成熟B細胞に分化・成熟する過程で、抗原レセプター(slg)遺伝子が再編成される。まず、H鎖のD遺伝子群とJH遺伝子群のなかから任意に選び出された1個ずつの遺伝子が、介在するほかの遺伝子群を切り捨てることで連結する。


ついで、このD-JH遺伝子に、選び出された一つのVH遺伝子が連結する。こうして、可変部全体をコードするVHーD-JH遺伝子が編成されて、Cμ遺伝子とともにRNAに転写され、mRNA前駆体を経てmRNAが合成される。
このmRNAを翻訳してslgのH鎖がつくられる。この再編成の過程でVH遺伝子、D遺伝子、JH遺伝子の組み合わせは細胞ごとにランダムに起こるので、B細胞のどれもが異なる可変部をもつslgのH鎖を合成するようになる。
VH遺伝子、D遺伝子、JH遺伝子の数をそれぞれ100個、30個、6個とすると、異なるH鎖を合成する100×30×6種類、計18,000種類のB細胞がつくられることになる。DとJH、VHとD-JHの連結は必ずしも正確には起こらないので、連結の位置がずれることがある。
また、連結点に遺伝子由来でない複数の塩基の挿入が起こることもある。そのために、H鎖の多様性がさらに増す。挿入された塩基配列はN配列とよばれる。
H鎖の遺伝子の再編成が終わった段階のB細胞はプレB細胞(preB細胞)とよばれる。H鎖の遺伝子の再編成は必ずしも機能的に完全な塩基配列を生み出すとは限らない。約3回に2回の割合で機能的に不完全な塩基配列を生じるという。
このようなときは、もう一方の染色体の遺伝子を利用して再編成が起こる。それでも機能的な塩基配列が生じないプレB細胞は消滅する。
完全なH鎖が合成されると、このH鎖は細胞表面に発現するが、そのためにはH鎖は代替L鎖(surrogate L chain)と結合しなければならない。代替L鎖はCλとよく似たλ6とよばれるタンパク質とVLによく似たVプレB(VpreB)とよばれるタンパク質からなる。


この代替L鎖のH鎖、Igα、Igβとの複合体が細胞膜上に表出すると、さらなるH鎖遺伝子の再編成を抑制し、今度は、χ鎖遺伝子の再編成を誘導する。
こうして、slgのL鎖の遺伝子の再編成がはじまり、L鎖が合成される。
図3-7


なお、L鎖の遺伝子の再編成では、N配列の挿入は起こらない。
合成されたL鎖は代替L鎖のかわりにH鎖と結合して、完成したslgが細胞表面に発現する。また、代替L鎖がL鎖に置換されると、さらなるL鎖遺伝子の再編成が抑制される。
Vχ遺伝子、Jχ遺伝子の数をそれぞれ20個、5個とすると、異なるχ鎖を合成する200×5種類、計1,000種類のB細胞がつくられる。slg抗原結合部位がVHとVLによって構成されるので、18,000×1,000種類、つまり1.8×107種類のslgがつくられる。
さらにH鎖でのN配列の挿入とλ鎖の存在を考えると、莫大な数のB細胞クローンがつくられることになり、無限ともいえる抗原の種類に十分対応できる。
L鎖には、χとλのタイプがあるが、それぞれのB細胞はχ鎖かλ鎖のいずれか一方のL鎖のみを合成する。まず、χ鎖をつくるためにχ遺伝子の再編成が起こる。この再編成に成功しないと、さらに再編成が繰り返される。
たとえば、最初のVLとJLの結合に参加したVL遺伝子とJL遺伝子をVL4とJL2とすると、JL2の下流のJL(たとえばJL3)遺伝子と未使用のVL(たとえばVL3)遺伝子のあいだで再編成が起こる。それでも成功しないと、λ鎖の遺伝子が再編成されて、λ鎖をつくるようになる。
一般に、遺伝子は父親と母親の両方から受け継ぐ、しかし、H鎖とL鎖の遺伝子は対立遺伝子排除といわれる機構によって、それぞれのB細胞はどちらか一方の遺伝子のみを発現する。
3 突然変異でさらに多様する抗原レセプター
slgの多様性は遺伝子再編成によって獲得されることを述べたが、多様性を増すもう一つのしくみがある。このしくみは体細胞高頻度突然変異とよばれ、遺伝子の再編成を終えた成熟B細胞が抗原と反応したときに限って起こる。
しかも、H鎖とL鎖の抗原との結合に関与する3ヶ所のCDR領域に集中してアミノ酸配列が変化するように塩基対が変異する。なお、H鎖とL鎖のCDR1とCDR2はどちらもV遺伝子によってコードされる。一方、CDR3は、H鎖ではV遺伝子、D遺伝子、J遺伝子れ連結部位に相当し、L鎖ではV遺伝子、J遺伝子の連結部位にあたる。
この突然変異の起こるしくみは不明であるが、親和性の成熟といわれる現象に関連していると考えられている。この現象は抗体の抗原に対する親和性が免疫応答が進むにつれて増大することをいう。
免疫応答の進行にともなってslg遺伝子に突然変異が起こり、より強く抗原に結合するslgをもつB細胞が選択される。
4 B細胞が自己と反応すると
slgの遺伝子の再編成や体細胞高頻度突然変異は当然ながら自己成分と反応するB細胞も生みだす。免疫システムはこれらのB細胞が自己成分の反応しないように制御するしくみをつくりあげている。このしくみによる無反応性をトレランス(tolerance)あるいは免疫寛容という。
トレランスとは正常状態では免疫応答を誘発するはずの抗原に対して、免疫応答が起こらない状態をいう。この状態は抗原特異性であり、ほかの抗原に対しては応答する。
トレランスの現象を最初に見つけたのはP.B.メグワーらである。彼らは1950年代に近交系Aの新生仔マウスに別の近交系Bのマウスの脾臓細胞を注射しておくと、生育後、A系マウスはB系マウスの皮膚移植を拒絶せずに受け入れることを見つけ、この現象をトレランスと名づけた。
最初は、トレランスは胎生期から新生期にかけて成立するといわれたが、成育マウスでも多量の抗原を注射することで起こるので、必ずしも胎生期に限らないことが分かった。細胞のような粒子状抗原でもトレランスを誘導するが、可溶性抗原のほうが容易にトレランスを誘導する。
トレランスはB細胞レベルでもT細胞レベルでも成立する。しかし、T細胞はB細胞に比べて、比較的少量の抗原でもトレランスとなり、トレランスは長期間持続する。
トレランスの機構には、その抗原に特異的に反応するリンパ球のクローン消失とアネルギー(anergy、不応答ともいう)とがある。
骨髄中でslgを発現したばかりの未熟なB細胞は発生環境中で抗原と反応すると、死滅したり、不活性化される。こうして自己抗原に反応するB細胞は除かれる。
この場合、B細胞が可溶性抗原に反応するとアネルギーとなる。一方、多数の同じ抗原分子を細胞表面上にもつ細胞などの粒子状抗原に反応すると、B細胞のslgが強く架橋されるので、クローン消失が起こる。


このクローン消失はアポトーシス(apoptosis)とよばれる機構による。
これらのトレランスのしくみとは別に、未熟な自己反応性B細胞が自己抗原とであうと、レセプターエデッティング(receptor editing)というしくみによって自己反応性を失う。
これは未熟なB細胞は再編成したばかりのslgが自己反応性をもつと、このslgのL鎖遺伝子を破壊して、新たなL鎖遺伝子を再編成し、自己反応性をもたないようにslgの抗原特異性を変えるからである。
この仕組みは図3-7に示したような再度のVK−JK連結の場合と同じである。こうして新たな可変部をもったL鎖がつくられるようになる。
一方、骨髄に存在しない自己抗原と反応する潜在的な自己反応性B細胞はトレランスにはならず、成熟すると骨髄からでていく、これらの成熟B細胞は自己抗原にあうと、からだを障害したり、ときには自己免疫疾患を発症させることもある。
しかし、自己反応性B細胞が自己抗原と遭遇しても、活性化して自己反応性抗体をつくるとは限らない。
成熟B細胞が抗原と反応して抗体産生細胞に分化・増殖するためには、ヘルパーT細胞の協同作用が必要だからである。このために、成熟した自己反応性B細胞が自己抗原と反応しても同じ自己抗原と反応するヘルパーT細胞がなければ、アネルギーになってしまい、自己反応性抗体はつくらない。
成熟B細胞が外来の抗原と反応する場合もヘルパーT細胞の働きがないと、アネルギーになってしまう。しかし、ヘルパーT細胞が働いても、抗原がたくさあるとアネルギーになる。後天的な外来の抗原に対するトレランスはこのしくみによる。


T細胞の多様性
1 分化するT細胞とその役割
 T細胞は骨髄中の幹細胞から分化する過程で、B細胞と同様に抗原レセプターの遺伝子を再編成して、抗原特異性の異なる莫大な数のT細胞クローンを生みだす。ついで、その集団のなかから自己成分と反応するT細胞クローンを消失する。しかし、いろいろなT細胞からなるきわめて複雑な細胞集団として存在する点でT細胞はB細胞と異なる。
T細胞にはα鎖とβ鎖からつくられる抗原レセプター(T cell receptor:TCRと略)をもつαβT細胞と、γ鎖とδ鎖からつくられるTCRをもつγδT細胞がある。また、主要組織適合抗原(MHA)のクラスT分子が提示する抗原エピトープを認識するCD8T細胞と、クラスU分子が提示する抗原エピトープを認識するCD4T細胞がある。したがって、T細胞は細胞表面のタンパク質分子と機能の違いから、いくつかのT細胞サブセット(T cell subset)とよばれるT細胞亜集団に分類される。このようなサブセットへのT細胞の分化と熟成の過程は胸腺内で進行する。胸腺は心臓の前面を覆うように存在する器官で、思春期に最大となり、それ以降は年齢とともに退縮する。胸腺が免疫システムの中枢的な器官であることは生後数時間以内のマウスの胸腺を摘出すると、病原性微生物に感染しやすくなり、異種の動物の赤血球などの抗原を注射しても抗体ができなくなることから証明された。また、ヌードマウスはその名前のとおり体毛がないほかに、先天的に胸腺を欠損している。
このマウスではB細胞の働きは正常であるが、T細胞が欠損しているために異種移植の拒絶反応が起こらず、ヒトのがん細胞を移植しても生着する。胸腺は活発に分裂・増殖している莫大な数のT細胞を含んでいるが、そのごく一部のみが成熟して胸腺を離れ、血流に乗って末梢組織を循環する。胸腺からでるときには、それぞれのT細胞の免疫システムでの役割が決まっている。
2 T細胞も遺伝子を再編成する
 それぞれのT細胞は1種類のTCRのみをもつ。すでに述べたように、TCRは、α鎖(分子量:45、000)とβ鎖(分子量:50,000)からなるTCRと、γ鎖(分子量:50,000)とδ鎖(分子量:45,000)からなるTCRの2種類である。これらのポリペプチド鎖はすべて可変部と定常部からなり、二つの鎖の可変部が組み合わさって抗原結合部位を形成する。定常部のC末端側には膜貫通領域と細胞内領域がある。
どのTCRもT細胞膜上でCD3で示されるタンパク質複合体と結合して、TCR複合体を形成している。ここで用いたCDというのはCD分類(cluster of differentiationの略)という、特異的な抗体を用いて同定された細胞膜上の抗原の分類法によってそれぞれの抗原に番号をつけて表示したものである。CD3はCD3γ、CD3δ、CD3εとよばれる3種類のポリペプチド鎖の複合体である。さらにζ、ηとよばれる2種類のポリペプチド鎖がζζまたはζηとしてCD3複合体の一部を形成している。このCD3複合体は、TCRの抗原エピトープとの結合シグナルを細胞内に伝達するのに働く。


TCR遺伝子のうちのα、β、γ鎖の遺伝子はそれぞれ第14、第7染色体上に存在し、δ鎖遺伝子群はα鎖遺伝子群のなかにある。マウスのTCRのα鎖とβ鎖の遺伝子はそれぞれ第13、第14染色体上にある。TCRの遺伝子はT細胞にのみ発現するが、その構造はB細胞の抗原レセプター(slg)遺伝子とよく似ている。

TCRのα鎖とγ鎖の可変部はV遺伝子群とJ遺伝子群によってコードされる。定常部はそれぞれに固有の一つまたは複数のC遺伝子によってコードされる。
TCR遺伝子の再編成もB細胞のslg遺伝子の再編成と基本的に同じしくみで行われ、同時に多様性を生みだす。


T細胞の前駆細胞は胸腺内で分化・成熟する過程で、遺伝子の再編成によってVーJ遺伝子またはV−D−J遺伝子を生じる。V遺伝子、D遺伝子、J遺伝子群中の各遺伝子は数が多く、これらの遺伝子が連結する際に、どの連結部にもN配列の挿入が起こるので、異なるTCRをもつ莫大な数のT細胞のクローンがつくられる。いずれのポリペプチド鎖もslgのH鎖とL鎖と同様に可変部の3か所に超可変部(CDR)があり、抗原レセプターとしての特異性を決める。

しかし、slgの遺伝子と違い、TCRの遺伝子では体細胞高頻度突然変異はおこらない。ヒトやマウスのδ鎖遺伝子群はα遺伝子群のなかにあり、α鎖遺伝子の再編成が起こるとδ鎖遺伝子群は欠失する。一方、δ鎖遺伝子の再編成が起こるとα鎖遺伝子の再編成は抑制される、したがって、α鎖とδ鎖が同じT細胞上に発現することはない。
3 抗原提示を介して相手を認識するT細胞
 主要組織適合抗原(MHA)のクラスT分子は、ウィルス感染細胞、がん細胞、ほかの個体由来の細胞などの細胞内抗原由来の抗原エピトープをT細胞に提示する。一方、それぞれのT細胞はクラスT分子とクラスU分子の提示するエピトープのどちらにでも結合できるわけではなく、どちらか一方のエピトープのみ結合するように決められている。これを決めるのがCD8とCD4で表示される細胞膜タンパク質である(図2-8参照)。CD8分子をもつCD8T細胞はクラスT分子が提示するエピトープに結合し、CD4分子をもつCD4T細胞は抗原提示細胞のクラスU分子が提示するエピトープに結合する。CD8はα鎖(分子量:30,000)とβ鎖(分子量:32,000)からなるタンパク質、CD4は分子量60,000のタンパク質である。

エイズへ戻る


CD8T細胞のTCRが抗原ペプチド・クラスT分子複合体に結合するときには、CD4分子が複合体中のクラスU分子のβ鎖のβ2ドメインに結合する。こうしてCD4分子とCD8分子はTCRを介する結合の補助レセプターとして働く。
CD8T細胞は血液中のαβT細胞の約30%を、CD4T細胞は約70%を占める。CD8αβT細胞は活性化すると細胞障害性T細胞となり、ウィルス感染細胞、がん細胞、ほかの個体由来の細胞を破壊する。CD4αβT細胞は活性化すると、B細胞の抗体産生への活性化やCD8T細胞の細胞障害性T細胞への活性化を促進するヘルパーT細胞として働いたり、炎症性T細胞として働く、なお、条件によって一部のCD8T細胞がヘルパーT細胞として働き、一部のCD4T細胞は細胞障害性T細胞として働くこともある。
γδ細胞は血液中ではT細胞の約3%とかなり少ないが、皮膚、小腸組織、生殖器では多い。αβT細胞とは異なり、これらの組織のγδT細胞の多くは胸腺外で分化・増殖する。γδT細胞は粘膜や皮膚などのからだの表層から浸入する病原性微生物を排除するのに働く。
4 胸腺は免疫システムの中心
T細胞の分化・成熟の道筋
 T細胞は胸腺内で、きわめて複雑なしくみによって定まった順序でTCRやCD4T、CD8などの多くの細胞表面分子を発現する。幹細胞から分化してT細胞となるように運命づけられた前駆T細胞はTCRのほかにCD4分子やCD8分子も発現していないので、CD4とCD8の両方をもたないという意味でダブルネガティブT細胞(double negative T cell:DN細胞と略)とよばれる。


DN細胞がγδT細胞とαβT細胞のどちらかに分化するかを決めるシグナルはあまりわかっていない。
また、このシグナルが胸腺内で与えられのか、それ以前に分化の方向が決められているのかも明らかではない。いずれにしても、胎生期に最初に胸腺に現われるのはγδT細胞で、その後αβT細胞が現われ、しだいにαβT細胞の割合が増大して、95%を占めるようになる。よく研究されているマウスでは、最初にあらわれるγδT細胞は同じVγ遺伝子、Vδ遺伝子、J遺伝子によってコードされるTCRをもち、直接小腸粘膜や皮膚などに移行する、一方、その後に生成するγδT細胞は多様なTCRを発現し、末梢リンパ組織に移動するようになる。
T細胞群の主流を占めるαβT細胞のDN細胞からの分化・成熟は胸腺内で複雑な過程を経て進行する。まず、DN細胞がβ鎖遺伝子を再編成する、続いてα鎖遺伝子を再編成してαβ型のTCRを合成し、CD3分子とともにTCRを細胞表面に現す。この表出の直前に、CD4分子とCD8T分子の両方が細胞表面に発現して、ダブルポジチィブT細胞(double positive T cell:DP細胞と略)になる。β鎖遺伝子とα鎖遺伝子の再編成に失敗したDN細胞はアポトーシスによって死滅する。
次にDP細胞は上皮細胞、マクロファージ、樹枝状細胞などの胸腺組織の支持細胞(ストローマ細胞:stroma cell)のMHAのクラスT分子、クラスU分子と反応してCD4あるいわCD8分子の一方を消失してシングルポジティブT細胞(single positive T cell:SP細胞と略)のCD8T細胞またはCD4T細胞となる。
このDP細胞からSP細胞への分化は次のようなしくみによると考えられている。
MHAのクラスT分子に相補的ではあるが、クラスU分子に相補的でないTCRをもつDP細胞が、ストローマ細胞上のクラスT分子に結合すると、CD8分子は結合に関与して残るが、関与しないCD4分子のほうは消失してCD8T細胞になる。


これに対して、クラスU分子に相補的なTCRをもつDP細胞では、ストローマ細胞上のクラスU分子と反応すると、CD4分子は残り、逆にCD8分子は消失してCD4T細胞となる。こうして生成したCD8T細胞とCD4T細胞は、次節で述べる正負の選択を受けてから胸腺を離れる。
T細胞の正の選択、負の選択
T細胞は自己のMHAのクラスT分子またはクラスU分子を介して抗原エピトープを認識するので、TCRは非自己である抗原エピトープと同時に自己のクラスT分子あるいはクラスU分子を認識しなければならない。胸腺にはこのようなTCRをもったT細胞を増やすしくみが備わっていて、正の選択(positive selection)とよばれる。またT細胞の場合にもB細胞と同様に、TCR遺伝子の再編成の際に自己反応性のT細胞も生成するので、この自己反応性T細胞を消去するしくみも備わっている。これが負の選択(negative selection)とよばれるしくみである。正の選択も負の選択も胸腺組織のストローマ細胞との反応によって起こる。
DP細胞はTCRを介してストローマ細胞上の自己のクラスT分子またはクラスU分子と自己成分由来のエピトープの複合体に結合する。
TCRはα鎖とβ鎖の可変部にそれぞれ3ヶ所のCDRをもち、そのうちのCDR1とCDR2はV遺伝子によってコードされ、クラスT分子あるいわクラスU分子に結合する。CDR3はV遺伝子、(D遺伝子)、J遺伝子の連結部によってコードされ抗原エピトープに結合する。DP細胞がTCRを介してストローマ細胞と反応するときに、まったく結合しない、弱くしか結合しない、強く結合する、の三つのケースが生じ、その後のT細胞の運命が決まる。


まったく結合できないT細胞は結合による増殖シグナルが得られないので、アポトーシスによって死滅する。これに対して、弱く結合できる細胞は増殖のシグナルを獲得して増殖する。これが正の選択である。一方、強く結合する細胞はアポトーシスによって死滅する。これが負の選択である。こうして選別されて増殖するT細胞というのは、自己のMHAによって提示される非自己のエピトープと結合できるTCRをもつ細胞だけになる。
これに対して、自己のMHAを認識できないT細胞や自己のMHAによって提示される自己のエピトープと強く反応してしまうT細胞、すなわち自己反応性T細胞は消去されることになる。胸腺内に入った前駆T細胞の大多数はこの過程で選別されて死滅してしまい。成熟して胸腺からでるT細胞の数は1%程度と推定されている。なお、胸腺で自己反応性T細胞の消去は中枢性トレランス(central tolerance)といわれる。また、胸腺以外の末梢組織で成熟T細胞が対応する抗原にであったときに、条件によってトレランスになることがある。このトレランスを末梢性トレランス(peripheral tolerance)といわれる。
上記の正と負の選択のしくみは親和性説といわれている。そのほかに、正と負の選択に関与する胸腺ストローマ細胞の種類が異なるとする説、正と負の選択に関与する抗原エピトープがことなるとする説などがある。しかし、親和性説を支持する研究が多い。最近の親和性説によれば、TCRのエピトープ・MHA複合体に対する親和性以外に、TCRのT細胞上の表面密度とエピトープ・MHA複合体のストローマ細胞上の表面密度が選択の方向の決定に関わっているという。これらの密度が低いと正の選択が起こり、高いと負の選択が起こると考えられている。


抗体について
T. 抗体の種類はいくつあるか。
B細胞は細胞表面の抗原レセプター(slg)を介して抗原と結合すると、活性化して抗体産生細胞となって、そのslgと同じ抗原特異的をもつ抗体をつくる。抗体は抗原と反応すると、特異的に結合して抗原を排除する。抗体が病原性微生物やその産生する毒素に結合すると、感染を抑制したり、毒素を中和する。しかし、抗体自身には抗原を分解する作用はないので、抗体は血液中の補体系とよばれる機能タンパク質の系や貧食細胞、肥満細胞などを活性化して、抗原を効果的に除去する。したがって、抗体は「抗原を認識して結合する働き」と「抗原を除去する系を活性化する働き」をもつタンパク質といえる。
補体系などを活性化する抗体の働きはエフェクター作用とよばれ、抗原と結合してはじめて現われる。しかし、すべての抗体が同じようにエフェクター作用を現すのではない。基本的な構造とエフェクター作用の違いから、抗体はいくつかのクラス(class)とサブクラス(subclass)とよばれる種類に分類される。
ヒトの抗体には、IgM、IgG、IgA、IgE、IgDの五つのクラスがあり、IgGはさらにIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の四つのサブクラス、IgAはさらにIgA1、IgA2のの二つのサブクラスに分類される。

表5-1 ヒトの抗体のクラス、サブクラスの性質
IgG IgM IgA IgD IgE
IgG1 IgG2 IgG3 IgG4 IgA1 IgA2
分子量(×3) 146 146 165 146 970 160 160 184 88
L鎖(分子量) いすれもχかλ(23)
H鎖(分子量) γ1(51 γ2(51 γ3(60 γ4(51 μ(72) α1(56 α2(56 δ(65) ε(74)
血清中濃度(r/ml) 9 3 1 0.5 1.5 3 0.3 0.03 0.00005

図5-1

マウスの抗体にもIgM、IgG、IgA、IgE、IgDの五つのクラスがあり、IgGにはIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3の四つのサブクラスがある。ウサギにはIgGのサブクラスはない。抗体のクラス、サブクラスの数は動物の進化とともに増えていく。
抗体が結合する抗原は多種多様であるが、同じクラス、サブクラスの抗体は抗原は違っても、同じエフェクター作用を現す。しかし、クラス、サブクラスの異なる抗体は、同じ抗原が結合しても異なるエフェクター作用を現す。つまり、クラス、サブクラスが同じであれば、抗体はそれぞれの抗原に特異的に結合する個別的な構造と、エフェクター作用を担う共通した構造をもつということである。抗体はB細胞のslgと同じ基本構造をもち、2本のH鎖と2本のL鎖の計4本のポリペプチド鎖からなるY字形またはT字形の構造の分子である。


H鎖とL鎖の可変部が組み合わさって抗原結合部位をつくり、この結合部位はY字形の構造の先端付近にそれぞれ1個ずつ存在する。H鎖の可変部を除いた定常部の構造はクラス、サブクラスによって異なる固有のものであり、それぞれのクラス、サブクラスがどのエフェクター作用を現すかを決めるのはこの部分である。

表5-2 ヒトの抗体のクラス、サブクラスと生物活性
生物活性
補体系の活性化
 古典経路 IgM IgG1 IgG2 IgG3
 第二経路 IgA
貧食細胞の貧食作用の亢進 IgG1 IgG2 IgG3 IgG4 IgA
肥満細胞の脱顆粒の誘発 IgE
胎盤通過性 IgG1 IgG2 IgG3 IgG4
外分泌液への分泌 IgA

IgM抗体
 IgM抗体はほかのクラスの抗体にくらべて分子量が大きい。哺乳類のIgM抗体は2本のH鎖と2本のL鎖からなるサブユニットがJ鎖(joining polypeptide)とばれ分子量12,000のポリペプチド鎖を介して重合した五量体である。カエルやナマズのIgMはそれぞれ6個と4個のサブユニットからなる。哺乳類のIgM抗体は免疫初期に微量しか産生されないが、異種の動物の赤血球や細菌で免疫すると、比較的多量のIgM抗体が産生される。IgM抗体は下等脊椎動物の唯一の抗体であるので、進化の過程で最初に出現した抗体のクラスであるといえる。IgM抗体の特徴は、抗原の赤血球や細菌を凝集させる作用と、補体系を活性化する作用が強いことである。貧食細胞の貧食作用を亢進する働きはなく、あっても弱い。輸血のときに問題となるヒトの血液型物質に対する抗体(A型やB型の赤血球に対する抗体)はIgM抗体である。
IgG抗体
 IgG抗体は以前にγグロブリンといわれていた抗体である。もっとも多量に血液中に含まれ、普通の免疫方法でもっとも多量に作られる。IgG抗体のエフェクター作用はサブクラスによって異なるが、貧食細胞の貧食作用を亢進する作用は著しく強い。
ヒトでは、IgG4抗体を除いたIgG抗体は補体系を活性化する。IgG抗体は胎盤を通過できる唯一の抗体で、母親のIgG抗体が胎盤をとおって胎児に移行し、胎児や新生児を防御する。
IgA抗体
 IgA抗体には、血液中に存在する血清型抗体のほかに、小腸粘膜などの粘膜外分泌液や出産直後の初乳中に多量に含まれる分泌型抗体がある。粘膜組織の免疫システムはいくつかの特徴をもつので、粘膜免疫システムとよばれる。その特徴の一つがもっぱら分泌型IgA抗体をつくることである。外分泌液中のIgA抗体は微生物が粘膜から浸入するのを防ぐ。初乳中のIgA抗体は新生児の防御に役立つ。
IgE抗体
 IgE抗体は花粉アレルギー、じんま疹、薬剤アレルギーなどのアレルギーの原因となる抗体である。花粉などのアレルギーを起こす抗原のアレルゲンが鼻粘膜からからだの中に入るとつくられる。その産生量はわずかであるが、アレルギーを発症させる活性がきわめて強い。この抗体は血液の周辺や結合組織に存在する肥満細胞や血液中の多形核白血球の一つである好塩基球に強く結合し、抗原と出会うと、これらの細胞からいろいろな活性物質が放出させる。すると、付近に炎症が起こって抗原の除去が促進される。しかしこの反応が過剰に誘発されると、アレルギーの病的症状があらわれる。
IgD抗体
 IgD抗体の血液中の濃度はきわめて低いので、そのエフェクター作用はあまり明らかではない。成熟したB細胞の細胞膜上の存在するので、抗原と反応したB細胞の分化・増殖に何らかの働きをしていると考えられる。
2 抗体の機能と構造
 IgM抗体は分子あたり10個、分泌型IgA抗体は4個の抗原結合部位をもつので、抗原と反応すると2分子の抗原に橋渡しするように結合する。水に溶けるタンパク質や多糖質などの可溶性抗原の場合には、大きく複雑な組成の抗原抗体複合体が生じ、不溶性となって沈殿する。


また、抗原が赤血球のような粒子状抗原の場合には、抗体は凝集して肉眼でも見られる大きなかたまりとなる。これらの反応が沈降反応と凝集反応である。抗体は大きな抗原抗体複合体をつくると、エフェクター作用を現し、抗原除去系を活性化して、抗原の分解を著しく促進する。
 この抗体のエフェクター作用はプロテアーゼで消化すると失われる。R.R.ポーターはウサギIgG抗体(分子量:150,000)をプロテアーゼのパパインで消化すると、分子量が約50,000の三つのフラグメントに切断されることを発見した(1959年)。そのうち二つをFab(antigen-binding-fragment)、残りの一つをFc(crystallizable fragment:低濃度で結晶化する)と名づけた。


つまり、抗体の構造は(fab)2Fcで表され、FabはH鎖のN末端側半分とL鎖からなり、FcはH鎖のC末端側半分が2本結合しあったのである。Fabは抗原とは結合できるが、抗原結合部位を1個しかもたないので、単独では抗原を沈降させたり、凝集させることはできない。
FabとFcを連結しているH鎖の部分はイミノ酸のプロリンと親水性の側鎖をもつアミノ酸が多く、外部に露出しているので、いろいろなプロテアーゼの作用を受けやすい。重要なことはこの部分の構造が柔軟なことである。
抗体が抗原の大きさや形状に拘束されずに、かなり自由に抗原間に橋渡しするように結合できるのは、この部分が”ちょうつがい(hinge)”のような構造をしているためである。
この性質から、この部分はヒンジ部と名づけられている。
ウサギIgG抗体をパパインのかわりにペプシンで消化すると、得られるフラグメントが異なり、分子量が約100,000のフラグメントを生じる。これを還元剤で還元すると、2本のH鎖を結びつけているS-S結合が切断されて、分子量が約50,000の2個のフラグメントに解離する。このフラグメントは前に述べたFabに対応するのであるが、含まれるH鎖のN末端側半分がFabのものよりアミノ酸残基が数個多いので、Fab'と表される。このペプシンの消化で得られたフラグメントは2本のH鎖を結合しているS-S結合の位置よりもC末端側でH鎖を切断することで生じたものであり、還元処理する前のものは2個のFab'がS-S結合で連結したF(ab)'2と表される。このフラグメントは抗原結合部位を2個もつので抗原と橋渡しするように結合でき、抗原を沈降させたり、凝集させることができる。しかし、この抗原複合体はエフェクター作用を示さない。つまり、Fcこそ抗体のエフェクター作用を担う構造部分であって、ヒンジ部を介して連結している二つのFabが抗原と結合すると、エフェクター作用を現すようになる。
抗体を形づくる多数のドメイン
 抗体のH鎖とL鎖はB細胞の抗原レセプターのものと基本的に同じ構造をもち、可変部(V)と定常部(C)からなる。L鎖のVLとCLは一次構造(アミノ酸配列)が異なるが両者とも約110個のアミノ酸残基からなり、そのうえ、1個のS−S結合によるループ構造をもつ点でたがいによく似た構造をしている。VとCはドメインとよばれ、この二つのドメインがL鎖を構成する構造単位である。IgG抗体のH鎖ではVを除いたCは、クラス、サブクラスが異なると、一次構造も異なる。
しかしいずれのH鎖も、ヒンジ部を除いた部分はCH1、CH2、CH3の三つのドメインに分けられる。どのドメインも約110個のアミノ酸残基からつくられ、1個のS-S結合によるループ構造をもつ。結局、IgG抗体のH鎖はVHを含む四つの構造単位のドメインとヒンジ部(H)からなり、VH−CH1-H-CH2−CH3で表される。同様に、IgA抗体、IgD抗体のH鎖(α鎖、δ鎖)はVH-CH1−H-CH2−CH3で表される。ヒンジ部の大きさやアミノ酸配列、とくに2本のH鎖を結びつけるS-S結合の数は、クラス、サブクラスによって異なる。IgM抗体、IgE抗体のH鎖(μ鎖、ε鎖)はヒンジ部のかわりにもう一つ別のドメインをもつので、VH−CH1−CH2ーCH3-CH4で表される。 
 抗体の高次構造をX線結晶解析で調べると、H鎖とL鎖の各ドメインはそれぞれ独立のポリペプチド鎖が密に折りたたまれた球状の高次構造をつくっていて、のびた短いペプチド鎖の部分で互いに連結しいているのが見られる。


さらに、いずれのドメインも抗体分子中では、2個ずつ対をなして結合している。VLとVHは非共有結合で密接に接触して抗原結合部位を形成する。CLはCHIと1個のS-S結合と非共有結合で強く結合し、FcをつくるCH2とCH3の二つのドメインはそれぞれ2個ずつ対をなして結合している。L鎖のCκとCλは一次構造は異なるが、類似した高次構造をもっており、いずれもH鎖のCH1に結合している。
VHとVLは抗原結合部位をつくり、CH1とCLは抗原結合部位とFcとのあいだのスペーサーの役割をする。このスペーサーがないと、抗原結合部位とFcとが近すぎて、それぞれの機能をはたすことができない。IgG抗体ではCH2は補体系を活性化する作用を担っている。CH3はIgG抗体がマクロファージや多形核白血球などのFcレセプターとよばれる膜タンパク質に結合する部位である。この結合によって抗原抗体複合体は容易に貧食作用を受けて細胞内に取り込まれて分解される。
3 特異性の高い結合部位
 B細胞の抗原レセプターを形成するH鎖とL鎖の可変部に相補性決定部(CDR)とよばれる超可変部がそれぞれ3ヶ所あり、立体構造上たがいに近接して存在して、抗原エピトープを結合する溝をつくっていることを述べた。この溝の存在は抗原特異性のわかっている均一な抗体のFabのX線結晶解析ではじめて発見された。普通の免疫方法で得られる抗体は、それぞれが抗原分子の異なる複数のエピトープのうちいずれか一つのエピトープと結合する多様な抗体分子の集団である。しかもこの集団はいくつかの異なるクラス、とくに異なるサブクラスの抗体を含んでいる。そのために、構造の群細な研究には用いられない。これに対して、研究に利用できる免疫グロブリンとしては骨髄腫タンパク質がある。このタンパク質は骨髄腫の患者の血液中に現われる免疫グロブリンで、一つの抗体産生細胞が悪性腫瘍化し、その細胞の異常増殖にともなって多量につくられ、血液中の免疫グロブリンの90%までも占めるようになる。またこのタンパク質は均一で、しかもなかには結合する抗原のわかったものもあるため、構造研究に用いられてきた。
ヒトの骨髄腫タンパク質NEW(NEWは患者名)はλ鎖をもつIgG1でビタミンK1のヒドキシル誘導体(ビタミンK1−OH)を結合させてからX線結晶解折で高次構造を調べると、L鎖の二つのCDR(CDR1、CDR3)とH鎖の三つのCDR(CDR1、CDR2、CDR3)が近くに集まり、16Å(長さ)×6Å(深さ)の浅い溝をつくっていて、そのなかにビタミンK1−OH)が埋もれているのが見られる。


同様に、ホスホリルコリンを特異的に結合するIgA抗体のマウス骨髄腫タンパク質MOPC603では、L鎖のCDR1とH鎖のc1、CDR2、CDR3が集まって20Å(長さ)×15Å(幅)×12Å(深さ)の溝を形成している。これらの溝の構造の研究から、抗原と抗体の結合反応の高い特異性が構造レベルで証明された。
4 クラススイッチの起こるしくみ
 slgは幹細胞からの分化の過程で遺伝子の再編成によってつくられることは前に述べた。この同じ遺伝子群が抗体の生成に用いられるので、一般に、slgの遺伝子は免疫グロブリン遺伝子あるいは抗体遺伝子といわれる。B細胞は抗原に反応し、同時にヘルパーT細胞のヘルパー作用を受けると、抗体産生細胞となって抗体をつくる。
この過程ではまず、CH遺伝子群の再編成が起こり、slgのかわりにIgM抗体を産生するようになる。ついで、産生された抗体は抗原特異性を変えることなく、IgMクラスからほかのクラスやサブクラスの抗体に変換される。この変換をクラススイッチとよぶ。このときIgMクラスからどのクラスやサブクラスの抗体に変換するかは、ヘルパーT細胞の産生するサイトカインとよばれる活性タンパク質の作用によって決まる。
 slgのH鎖の定常部の遺伝子の構造を詳しく調べると、μ鎖のCμ1、Cμ2、Cμ3、Cμ4の四つのドメインのアミノ酸配列をコードする四つの塩基配列(exon,エキソンとよばれる)からなり、それぞれのエキソンのあいだにアミノ酸配列をコードしない塩基配列(intron、イントロンとよばれる)が介在している。また、slgのH鎖(μ鎖)はこれと異なる構造をもつ、Cμ1〜Cμ4エキソンとは別に、このslgのμ鎖の膜結合部位はCμ遺伝子のDNAの3’末端側に離れて存在するMエキソンによってコードされる。
 B細胞が抗体産生細胞になる際に、このMエキソンがmRNAに転写されなくなり、そのかわりにCμ4エキソンに接して存在するSエキソンが転写されるようになる。その結果、つくられるμ鎖のC末端付近の構造が変わり、細胞膜に結合しないμ鎖が合成される。このμ鎖がL鎖と結合してH・L対をつくり、同じ細胞のつくるJ鎖を介して五量体を形成して細胞外に分泌される。これがIgM抗体である。
 ヒトのC遺伝子には、Cμ遺伝子のほかに、IgD、IgG3、IgG1、IgA1、IgG2、IgG4、IgE、IgA2の定常部をコードするCδ、Cλ3、Cλ1、Cα1、Cλ2、Cλ4、Cε、Cα2の8個のCH遺伝子がある。


これらの遺伝子も、各ドメインをコードするエキソンとエキソン間に介在するイントロンからなる。IgM以外の抗体の合成が起こる際には、VH−D−JH遺伝子がCμ遺伝子以外のCH遺伝子の前に移動して連結する

たとえば、VH−D−JH遺伝子がCλ3遺伝子に連結すれば、IgG3抗体のH鎖(VH−D−JH−Cλ3)が合成されるようになり、IgG3抗体がつくられて分泌される。このクラススイッチは次の遺伝子レベルでの変化で起こる。Cδ遺伝子以外の各C遺伝子の前に、S領域といわれる塩基配列がある。V-D-J活性遺伝子の次にCμ遺伝子があるので、まずIgM抗体がつくられる。次に、Cλ3遺伝子の前にあるS領域がCμ遺伝子の前のS領域に結合し、形成した輪状の部分が切断されると、Cμ遺伝子とCδ遺伝子を飛ばしてCλ3遺伝子がVーD−J遺伝子の次に結合し、IgG3抗体のH鎖をコードする活性型遺伝子がつくられる。(図8-8のb)。ただしIgM抗体からIgD抗体へのスイッチは例外であって、この機構によらず、RNAプロセッシングによるものである。図5-8のaに示したようにIgD抗体のH鎖をコードするCδ遺伝子はCμ遺伝子に近接して存在し、その前にS領域がない。V−D−J、Cμ、Cδ領域を含む長いRNAが合成された後で、Cμ領域のRNAが切除される。このRNAスプライニングといわれる段階でIgD抗体のH鎖の合成に必要なmRNAがつくられ、このmRNAを用いてIgD抗体のH鎖が合成される。一般に、抗体はまずクラスに分類されてから、さらにサブクラスに分類されるが、遺伝子レベルではクラスとサブクラスは同等である。クラスの異なる抗体間で見られる構造の違いがサブクラスの異なる抗体間の違いより大きいので、抗体をクラスまで分類し、ついでサブクラスに細分類している。
マウスのC遺伝子には、Cμ遺伝子のほかに、Cδ、Cγ3γ1、Cγ2b、Cγ2、Cε、cα遺伝子があり、この順に配列していて、IgD、IgG3,IgG1、IgG2b、IgG2a、IgE、IgAのH鎖の定常部をコードする。
5 抗体を得るには
広く用いられる免疫方法
 抗体は抗原の検出と定量のためにきわめて有用な試薬であり、生命科学の諸分野の研究のために必須である。抗体を得るには、抗原(免疫に用いられる抗原を免疫源という)を動物に非経口的に投与して免疫する。抗原を経口投与すると、大部分は消化管内で消化されてしまうが、ごく一部が消化管から吸収されることもある。この場合は、粘膜の免疫システムが働いて、分泌型IgA抗体は産生されるが、IgG抗体などの通常の抗体は産生されない。
 抗原を静脈内や筋肉内に注射してから、血液中に現われる抗体量を時間を追って測定すると、注射後4〜5日目に抗体が血液中に現われ、10前後にピークとなり、徐々に減少するのが認められる。


この最初の抗原注射による応答は一次免疫応答とよばれる。抗体の産生が減少してから、再び同じ抗原を注射すると、抗体が急激に現われ、しかも著しく多量に、長期間にわたって産生し続ける。この応答は二次免疫応答とよばれる。一時応答と二次応答のようすが異なるのは、リンパ球が最初にであった抗原を記憶していて、再び同じ抗原にであうと、迅速に反応して抗体をつくるからである。
より強い免疫応答を誘導したいときに用いられるのがアジュバント(adjuvant)である。動物を免疫する際に用いられるアジュバントにフロインド完全アジュバント(freund's complete adjuvant:FCAと略)がある。これは鉱物油や界面活性剤に結核菌の死菌を混ぜたもので、抗原の溶液や懸濁液と混ぜてエマルションにして注射する。J.T.フロインドらは結核菌に感染させた動物の病巣に抗原を注射すると、正常な動物よりも免疫応答が著しく高いことを観察して、このアジュバントを工夫した(1947年)。エマルションから抗原が徐々に長期間にわたって放出されて免疫システムの細胞を刺激するので、一次免疫応答と同時に二次免疫応答が起こる。しかも免疫担当細胞が注射した局所に集積され、増殖が亢進されるので、免疫応答が増強される。こうした細胞におよぼす作用は結核菌に含まれるムラミルジペプチドによる。


なお、FCAの作用は強すぎてヒトには用いられない。
 普通の免疫方法で産生される抗体はIgM抗体とIgG抗体である。一次免疫応答で産生される最初の抗体はIgM抗体で、ついでIgG抗体が産生される。二次免疫応答では、最初からIgG抗体が多量に産出される。この際には、IgA抗体はあまりつくられない。IgA抗体は、腸管などの粘膜組織の免疫システムが微生物などの抗原に反応する際に産出される。IgE抗体も特殊な免疫方法を用いないと産出されない。たとえば、タンパク質抗原を噴霧状にして鼻から吸入させるとIgE抗体ができる。また、FCAのかわりに、アジュバントとして水酸化アルミニウムと百日咳菌のワクチンを混ぜたものを用いると、IgE抗体ができる。ヒトや動物が寄生虫に感染するとIgE抗体産生が著しく高まる。これを利用して抗原で免疫してから線虫(Nippostrongylus brasiliensis)を感染させ、抗原に対する抗体を得る方法もある。
6 細胞融合で単クローン性抗体をつくる
 採血した血液を放置すると、凝固する。しばらくすると、凝固した血餅から黄色の透明な液体の血清が分離してくる。ある抗原で免疫した動物の血清を抗血清という。抗血清を電気泳動すると、血清タンパク質はアルブミン、α、β、γグロブリンの画分に分離される。抗体はおもにγグロブリンからβグロブリンの画分に広く分布する。


それぞれのクラスの抗体は固有の移動度で幅広いピークをなして泳動する。特定のクラスの抗体でも、結合するエピトープの異なる抗体分子の集合である。さらに、同じエピトープに反応する抗体でもそれらはいくつかの抗体産生細胞のクローンの産物であり、クローンによって移動度が異なるため、こうした抗体は幅広く分布する。
 このように、免疫で得られた抗体は多様な抗体分子の集団である。すでに述べたように、骨髄腫タンパク質は均一であるが、望む抗原に特異的な骨髄腫タンパク質を得るのは困難である。この限界を克服して一つのクローンの産物の単クローン性抗体(monoclonal antibody)を作製する方法がC.ミルシュタインとJ.EG.ケラーによって開発された(1975年)。これは目的の抗体を産生する細胞と試験管内で盛んに増殖する腫瘍細胞とをポリエチレングリコールを加えて細胞融合させる方法である。目的とする抗体をつくるような抗体産生細胞(形質細胞、plasma cellともいう)は終末細胞であり、増殖して多数の子孫細胞を生み出すことができない。また、この細胞はしばらく抗体を産生すると死滅するので、培養して多量の抗体を得ることもできない。しかし、抗体産生能をもつ細胞と増殖能をもつ細胞の2種類の細胞を融合させると、培養が可能で、しかも抗体を産生する融合細胞が得られる。一般に、2種類の細胞はポリエチレングリコールの介在のもとで細胞膜脂質の二重層がミセル状に融合し、同一細胞内で異なった二つの核をもったヘテロカリオンの状態になる。


この状態の細胞は1回分裂すると、二つの親の細胞の染色体を一つの核にもつ新たなシンカリオン、ゆわゆる雑種細胞(hybridoma)となり、融合された2種類の親細胞がもつ機能を保持する。単クローン性抗体をつくるには、目的の抗原で免疫したマウスの脾臓細胞と腫瘍細胞を融合させる。腫瘍細胞には、免疫グロブリンをほとんど産生せず、融合しない限り、次に述べる阻害剤を加えた特殊な培養液中では増殖しないで死滅するマウスの細胞株を用いる。広く用いられているマウスの腫瘍細胞株は核酸合成の二つの経路の一方の酵素を欠損しているので、他方の経路の阻害剤を加えると、DNAを合成できずに死滅する。しかし、融合する相手の脾臓細胞から欠損している酵素を獲得できれば、阻害剤が存在しても増殖できるようになる。このために、融合した細胞のみを増殖させて集めることができる。次に、融合させた細胞群のなかから目的とする抗体を産生する融合細胞を分離して単クローン性細胞を得る。この単クローン性細胞は1種類の均一な抗体を産生するので、パーネットが提唱したクローン選択説の正しさを証明している。この細胞融合法によって調整される単クローン性抗体は抗原の同定と定量のための優れた試薬である。とくに、あらかじめ抗原を精製しなくても望む抗原に特異的な抗体をつくることができる。B細胞やT細胞などのCD抗原の研究が可能となったのも、単クローン性抗体の利用のおかげである。
多量の単クローン性抗体がほしいときには、融合細胞を同系のマウスに移入して、増殖させ、多量の抗体をつくらせる。得られる単クローン性抗体のなかでもっとも多いのがIgGクラスの抗体である。ついでIgMクラス、IgAクラス抗体が続き、IgEクラスとIgDクラス抗体はなれにしか得られない。しかし、この得られる頻度はそれぞれのクラスの抗体をつくる細胞の個体内に存在する相対数を反映している。
 7 マウスの単クローン性抗体のヒト化
 さまざまな抗原に特異的な単クローン性抗体が得られるようになったので、ヒトの疾患の治療に利用できるかどうかが調べられている。多くの単クローン性抗体は、マウスでつくられいるため、ヒトにとって異種のタンパク質となる。そのため、これらの単クローン性抗体をヒトに投与すると、このタンパク質に対する抗体がつくられ、血清病などの副作用が起こったり、単クローン性抗体の活性を抑制してしまう。これを避けるためには、マウスの抗体の構造をヒトの抗体のものとできる限り同じにしなければならない。
 最初に、マウスの抗体のH鎖とL鎖の定常部を遺伝子操作の技術を用いてヒトの免疫グロブリンの定常部に置き換えた改変抗体がつくられた。


この抗体はキメラ抗体とよばれる。その後、可変部のCDR以外のすべての構造をヒトに対応する構造に置き換えて、抗原特異性を保持したヒト化抗体(humanized antibody)がつくられようになった。
8 抗体の抗体
 個体内で単クローン性抗体がある程度の量以上につくられたり、投与されたときに、抗イディオタイプ抗体(anti-idiotype antibody)とよばれる抗体ができることがある。この抗体は別の抗体の抗原結合部位または可変部を抗原エピトープとして認識して結合する。


二つのB細胞クローンがまったく同じ可変部をもつことはないので、可変部、とくにCDRのアミノ酸配列はそれぞれのB細胞クローンを認識するマーカーになる。この抗原エピトープをイディオトープ(idiotope)という。大部分の抗体のイディオトープは正常な状態での濃度がきわめて低いので、リンパ球はこれらのイディオトープに対してトレランスになっていないと考えられる。そして、ある一つの単クローン性抗体を投与したり、ある量以上が産生されてそのイディオトープの濃度が高くなると、リンパ球が反応できるようになり、抗イディオタイプ抗体がつくられるのであろう。


T細胞の分化
抗体産生応答とT細胞の働き
1 抗体産生はT細胞に依存するか
 B細胞は抗原レセプターを介してタンパク質抗原などの抗原に結合するが、これだけでは抗体産生細胞に分化・増殖できない。抗体をつくるには抗原刺激のほかに、ヘルパーCD4T細胞の協同作用が必要である。そのために、多くの抗原は胸腺依存性抗原(thymus dependent antigen)といわれる。しかし、細菌由来の多糖やリポ多糖などのように分子内に同じ構造(繰返し構造)の多数の抗原エピトープをもっている抗原はヘルパーT細胞の補助がなくてもB細胞を刺激して抗体を産生させる。これらの抗原は胸腺非依存性抗原(thymus independent antigen:TI抗原と略)といわれる。


TI抗原はさらにTI-1抗原とTI-2抗原に分けられる。TI-1抗原はグラム陰性細菌由来のリポ多糖(外膜の主成分)のように抗原特異性とは別にB細胞の分裂を誘導するB細胞マイトジェン(B cell mitogen)の作用をもち、これが高濃度に存在するとすべてのB細胞を活性化してしまう。実際の細菌感染では、TI-1抗原の濃度はそれほど高くないので、TI-1抗原と結合する抗原レセプターをもったB細胞のみが活性化される。この反応はヘルパーT細胞の増殖を待たずに迅速に起こるので、感染初期の防御反応に重要である。TI-1抗原に対する抗体産生応答では、産生される抗体はIgMクラスに限られ、クラススイッチは起こらない。
TI-2抗原は細菌の多糖のように同一分子上に同じ構造のエピトープが反復配列した抗原だが、B細胞マイトジェンとしての作用はない。TI-2抗原はB細胞上の抗原レセプターを架橋して、活性化する。できた抗体はIgMクラスであるが、ヘルパーT細胞が同時に働けばクラススイッチが起こり、ほかのクラスの抗体も産生される。
一方、胸腺依存性抗原の場合には、CD4T細胞は抗原提示細胞によって提示された抗原エピトープをT細胞レセプター(TCR)を介して結合して活性化する。活性化したヘルパーCD4T細胞はB細胞の活発な増殖を促し、ついで抗体産生細胞あるいは記憶B細胞(memory B cell)への分化を誘導する。この過程で活性化されたヘルパーCD4T細胞の働きによって産生される抗体のクラスが決まる。
こうしたヘルパーCD4T細胞の働きのしくみを考えてみよう。
2 細胞間のシグナル伝達のしくみ
 細胞接着分子
さまざまな免疫担当細胞が効果的に働くために特定の組織に遊走して定着したり、炎症局所へ遊走すること。また免疫担当細胞がたがいに作用しあうことは、免疫システムが有効に働くために不可欠である。T細胞に限っても、リンパ系組織への遊走と定着や、抗原提示細胞、B細胞、抗原細胞の排除にきわめて重要な役割をはたしている。細胞間の結合はT細胞表面の接着分子と標的細胞表面の接着分子(リガンド、ligando)との反応を介して起こる。リンパ球の接着に関与するおもな接着分子は、セレクチン(selectin)、インテググリン(integrin)、免疫グロブリンスーパーファミリー(immunoglobulin superfamily)、ムチン様血管アドレッシン(mucin-like vascular addressin)とやばれる四つのグループに分類される。

表6-1 リンパ球の接着に働く主な接着分子
グループ 名称
セレクチン L-セレクチン、E-セレクチン
インテグリン LFA-1
免疫グロブリンスーパーファミリー CD2,ICAM,LFA-3
ムチン様アドレッシン GlyCAM-1、MAdCAM-1



これらの接着分子が結合する標的細胞上のリガンドの分布から、ある細胞がどの器官、組織に定着するのか、どの細胞に接着して、たがいに作用をおよぼしあうかが決まる。接着分子とよく似た機能タンパク質のグループに補助刺激分子(o-stimulatory molecule)がある。補助刺激分子は相手の細胞表面のリガンドに結合して細胞を接着させるが、そのおもな働きは相手の細胞の分化・増殖を促したり、細胞機能を調節するシグナルを核に伝えて遺伝子の発現を制御することにある。
3 抗原提示する細胞たち
 前に書いたように、α鎖とβ鎖からなるTCRをもつCD4T細胞は抗原提示細胞上の主要組織適合抗原(MHA)のクラスU分子に結合した抗原エピトープをTCRを介して認識することで活性化し、増殖・分化する。このとき、、TCRが認識するエピトープは自己のMHAクラスU分子と結合していなければならず、これをMHA拘束性という。抗原提示細胞として働く細胞にはマクロファージ、樹枝状細胞、B細胞があり、これらはMHAクラスU分子を細胞表面に発現していなければならない。また、抗原提示細胞がT細胞を活性化するには, MHAクラスU分子のほかにT細胞に働く補助刺激分子を発現していなければならない。一般に、これらの分子を発現している細胞はプロフェッショナル抗原提示細胞という。これに対して、サイトカイン作用を受けるとクラスU分子を発現して抗原を提示するようになるが、補助刺激分子をもたない皮膚のケラチノサイト(keratinocyte)などの細胞をノンプフェッショナル抗原提示細胞という。
抗原提示細胞のうち、B細胞はヘルパーT細胞のヘルパー作用を受けて抗体産生細胞になるが、ほかにもあらかじめ抗原レセプターを介してタンパク質抗原を特異的にかつ効率よく捕捉し、抗原エピトープをT細胞に提示する機能ももつ、つまり、B細胞とT細胞はたがいに活性化しあうという相互作用で密接に関連している。


なお、B細胞がプロフェッショナル抗原提示細胞として働くためには、何かの刺激を受けて補助刺激分子を発現しなければならないといわれる。これに対してマクロファージは、正常なときはMHAクラスU分子も補助刺激分子も発現していない。しかし、マクロファージが細菌を取りこむと、これらの分子を発現してプロフェッショナル抗原提示細胞として働くことになる。また、樹枝状細胞はリンパ組織や皮膚などに存在し。その性質は存在する組織によって変動する。たとえば、指状突起細胞とよばれる樹枝状細胞はT細胞が多いリンパ節や脾臓に存在する。この細胞はMHAクラスT分子とMHAクラスU分子、補助刺激分子、接着分子のすべてを発現しているが、貧食作用がないので、もっぱらも感染したウィルスの抗原を提示するといわれる。また、皮膚の樹枝状細胞はランゲルハンス細胞(langerhans cell)とよばれ、皮膚から浸入した抗原を捕捉してリンパ節に運んで免疫応答をはじめる。
4 T細胞の活性化へのシグナル
 免疫応答は病原性微生物が感染した局所ではなく、リンパ系組織ではじまる。病原性微生物やその産生する毒素などは感染箇所からリンパ液によって近くのリンパ節に運ばれ、抗原提示細胞によって捕捉される。血液中に入った病原性微生物は脾臓で、小腸粘膜から浸入した病原性微生物は粘膜組織のバイエル板とよばれる組織で捕捉される。抗原と接触していないナイーブCD4T細胞(native CD4 T cell)は血管系、リンパ管系、リンパ組織のあいだを循環しながら、増殖せずに数年間にわたって存続する。ナイーブCD4T細胞がリンパ系組織内のプロフェッショナル抗原提示細胞にであうと、接着分子のLFA−1(leukocyte function-associated antigen-1の略)とCD2を介してプロフェッショナル抗原提示細胞の接着分子であるICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)、ICAM-2、ICAM-3、LFA-3などに結合する。


このとき、TCRを介してプロフェッショナル抗原提示細胞が提示する抗原エピトープを認識すると、細胞どうしの結合が強化されてナイーブT細胞の活性化の過程がはじまる。一方、対応するエピトープが提示されないときには、細胞どうしは解離し、T細胞は再びからだのなかを循環する。
CD4T細胞がヘルパー作用を現すエフェクターT細胞になるには、TCRとCD4分子が抗原提示細胞上の抗原エピトープ・クラスU分子複合体に結合するほかに、レセプターを介して同一の抗原提示細胞上の補助刺激分子に結合しなればならない。プロフェッショナル抗原提示細胞の補助刺激分子のうち、もっともよく知られている分子はB7-1(B7,CD80ともいう)である。B7-1のレセプターとして働くT細胞上のタンパク質はCD28である。CD28とB7-1が結合すると、T細胞は増殖をはじめる。この結合が起こらないと、CD4T細胞は増殖せず、かえってアネルギーの状態になる。この状態になったT細胞は再び同じ抗原と反応しても活性化しない。もう一つの補助刺激分子はB7-2(B76、CD86ともいう)で、これはB7-1と相同性のタンパク質でCD2に結合する。補助刺激分子としてB7-1とB7-2のいずれがより重要であるかは明らかではない。
ナイーブCD4T細胞はB7-1やB7-2のレセプターとしてCD28のみを発現している。また、活性化するとCTLA-4(cytolytic T lymphocyte associated antigen-4の略)とよばれるB7のレセプターを発現するようになる。このCTLA-4はCD28と相同性のタンパク質である。しかし、CTLA-4とCD28の役割の相互の関係は明らかではない。
 以上のように、プロフェッショナル抗原提示細胞のみがT細胞を活性化できる。自己反応性T細胞は胸腺で排除されるが、胸腺での負の選択を逃れた自己反応性T細胞もある。このようなT細胞が末梢組織の細胞の自己抗原を認識して活性化するとしたら、容易に自己トレランスの状態はこわれるであろう。この点、プロフェッショナル抗原提示細胞が抗原特異的シグナルと補助刺激シグナルの両方を同時に与えてはじめてT細胞が活性化するしくみは、免疫システムが自己のからだを破壊するのを防ぐために重要な役割をはたしていると考えられる。
5 免疫応答の方向性
 ナイーブT細胞は抗原特異的シグナルと補助刺激分子を受け取ると、増殖しはじめる。最初の4〜5日間は活発に分裂・増殖し、数日間で数千の子孫細胞のエフェクターCD4T細胞ができる。このナイーブCD4T細胞からエフェクターCD4T細胞への分化の過程で、CD4T細胞はエフェクター細胞として働くのに必要な膜タンパク質やサイトカインを合成する能力を獲得する。また、この分化したCD4T細胞は特異的に抗原を認識すると、補助刺激シグナルがなくとも作用を現す点で、ナイーブCD4T細胞とは異なる。この分化の際に、ナイーブCD4T細胞の一部は記憶T細胞になり、再び同じ抗原がからだのなかに浸入すると、迅速に反応してエフェクターT細胞となる。
ナイーブCD4T細胞は増殖・分化の過程で、まずT0とよばれる中間段階の細胞を経てT1とT2とよばれる二つのエフェクターCD4T細胞のサブセット(subset) のうちいずれかのエフェクターCD4T細胞になる。


表6−2おもなサイトカイン
名称 主な産生細胞 名称 主な産生細胞
T細胞調節 炎症性
IL-1(153、159) IFN-γ(143) T,NK
IL-2(133) T TNF-α
IL-10(160×2) T TNF-β T,B
IL-12(197、306のヘテロニ量体) 走化性
B細胞活性化 IF-3(133) T
IL-4(129) T IF-8(69〜79×2)
IL-5(115×2) T MCFA(76)
IL-6(184) T,Fb MIF(115) T,B
造血作用 そのほか
IL-3(133) T TGF-β(112×2) T
GM-CSF(127) T,Mφ
G-CSF(174)
M-CSF(149、214×2)
Mφ:マクロファージ Fb:繊維芽細胞
()内の数字は構成アミノ酸残基数を示す。また、×は2量体、×3は三量体を示す

このT1細胞とT2細胞のおもな違いは産生するサイトカインの種類が異なることである。T1はIL-2、インターフェロンγ (interferon-γ:INF−γと略)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor α:TNF−αと略)などの細胞性免疫に関与する細胞群の成熟や活性化を促すサイトカインをつくる。一方、T2細胞はIL−4、IL−5、IL−6、IL−10などの抗体産生を促進を通じて体液性免疫に関与するサイトカインをつくる。また、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macrophage colony-stimulating factor:GM-CSFと略)とIL-3はT1細胞とT2細胞の両方によってつくられる。この二つのサイトカインは骨髄細胞に作用し、造血機能を亢進し、マクロファージや顆粒球を供給するように働く。
このような働きから、T1細胞は炎症性T細胞、T2細胞はヘルパーT細胞ともよばれる。ここでいう炎症とは、局所での血流の増加、毛細血管の透過性の増大による組織への血流や体液の流出による発赤、腫張、発熱、白血球の蓄積、マクロファージの炎症局所への遊走などの徴候が見られる症状をいう。TH0細胞はTH1細胞とTH2細胞の両方のエフェクター機能をもつ細胞である。しかし、分化の中間段階の細胞としてのTH0細胞を考えることに否定的な研究もある。
ナイーブT細胞がTH1細胞とTH2細胞のいうずれかのエフェクターT細胞に分化することによって、その後の免疫応答に大きな影響を与える。その分化の方向は抗原の性質、投与量、投与方法に依存し、またよく研究されているマウスでは遺伝的バックグラウンドによって支配される。抗原提示細胞上の抗原エピトープの密度が高いとTH1細胞へ、密度が低いとTH2細胞に分化する経口が見られといわれている。しかし、分化を支配するしくみは明らかではない。一方、つくられるサイトカインがCD4T細胞の分化を制御こともわかっている。


CD4T細胞をIL-12とIL−γの存在で抗原刺激すると、TH1細胞に分化する。IL-12とINFーγはウィルスやリステリアなどの細胞内寄生病原体の感染の初期段階で、マクロファージやNK細胞によって産生されるので、TH1細胞が生成して感染防御に働く、これに対して、CD4T細胞をIL-4の存在下で抗原刺激すると、TH2細胞に分化する傾向が見られる。これはIL-4がTH2細胞への分化を促進し、TH1細胞の生成を抑制するからである。抗原が浸入する際に、どんな細胞が最初にIL-4を産生してTH2細胞の生成を誘導すかは明らかではないが、マウスでは、NK1、1+T細胞とよばれる細胞が最初にIL-4を産生するという。
また、一方のサブセットのCD4T細胞が分泌するサイトカインが他方のサブセットの活性化を抑制することも知られている。TH2細胞の産生する形質的転換増殖因子(transforming growth factor β:TGF-βと略)とIL-10はCD4T細胞と抗原提示細胞に働いてTH1細胞の増殖を抑制する。また、IL-10はマクロファージの抗原提示能も阻害する。これに対してTH1細胞の産生するINF-γとマクロファージの産生するIL-12は、TH2細胞の活性化を阻害する。
6 B細胞が分化・増殖するカギ
 繰り返して述べたように、抗原を特異的に認識したB細胞はヘルパーCD4T細胞の補助作用を受けて、抗体産生細胞へ分化・増殖する。このB細胞の抗体産生細胞への分化の段階で重要な働きをするのが、B細胞上のCD40分子と活性化したヘルパーT細胞上のCD40リガンドとの結合である。この結合によってB細胞は増殖をはじめる。


 すでに成熟したナイーブB細胞は、その表面に抗原レセプターのIgM抗体のほかにIgD抗体を発現している。このIgD分子の役割は明らかでない。成熟したB細胞は骨髄を離れてリンパ系組織を経て抗原にであうまで循環する。リンパ系組織で抗原にであうと、増殖してクラススイッチを起こし、抗体産生細胞や記憶B細胞になる。抗体産生細胞の多くは骨髄に移行して、活発に抗体を産生する。初期の抗体産生応答はもっぱらIgM抗体の産生である。そのあとで、IgG抗体やほかのクラス、サブクラスの抗体がつくられるが、おもにIgGがつくられる。IgE抗体は、量的にきわめて微量しかつくられないが、生物学的に重要な抗体である。ヘルパーT細胞はつくるサイトカインによって抗体のクラス、サブクラスのスイッチを制御する。産生されるサイトカインがそれぞれ特定のスイッチを誘導する。マウスでは、T2細胞の産生するサイトカインのIL−4がIgG1とIgEへのスイッチをTGFーβはIgAとIgG2bへのスイッチを誘導する。
また、T1細胞の産生するIFN−γはIgG3とIgG2aへのスイッチを誘導する。
B細胞は抗体産生細胞になると、抗原レセプターやMHAクラスU分子を消失する。生成した抗体産生細胞はB細胞の分化の終末細胞であり、数日あるいは数週間抗体を産生すると死滅する。抗原と反応したB細胞の一部は抗体産生細胞に分化せず、記憶B細胞に分化する。この細胞は同じ抗原による再刺激で迅速に活性化して抗体産生細胞になる。
クラス・サブクラスのスイッチとは別に、B細胞の活性化の過程で抗体の抗原親和性の成熟が見られる。すでに述べたように、これは免疫グロブリン遺伝子の体細胞高頻度突然変異と、それに続くより高い抗原親和性の抗原レセプターをもつB細胞の選択による。この変異はリンパ球組織の特別な環境のもとで起こる。


補体

1 抗体ができるまでの防御システム
 補体(complement)の発見のきっかけは、コレラ菌で免疫したモルモットの腹腔内にコレラ菌を注射すると、菌が壊れて消失する溶菌現象の観察であった。このモルモットからの分離したばかりの抗血清に、コレラ菌を加えて37℃に保つと、溶菌する、この作用は抗血清を56℃で30分間加熱すると消失する。これに免疫していないモルモットの血清を加えると、溶菌作用が回復する。
このことから、、抗血清の溶菌作用が働くにはコレラ菌に対する抗体のほかに、正常血清にも存在して56℃の加熱で失活するタンパク質が必要であることがわかる。このタンパク質が補体であり、多数の血清タンパク質から構成されているので、補体系と呼ばれている。
補体系は溶菌作用のはかに、抗体と結合した赤血球(感作赤血球とよばれる)を溶血させるなど、いろいろな抗原の細胞を壊す。また、タンパク質抗原に抗体が結合した複合体が生成すると、複合体に補体系が結合して活性化し、マクロファージなどの貧食作用による複合体の除去を亢進する。このように、補体系は抗体のエフェクター作用を受けてさまざまな活性を現す。
 補体系は活性のない状態で血液などの体液中に存在する。IgG抗体やIgM抗体が抗原に結合すると、補体系は活性化して抗原を攻撃する。この活性化した補体系は抗原とからだの組織の細胞とを区別せず攻撃するので、活性化した補体成分が抗体の結合した抗原にできいるだけ限定して働くようなしくみが備わっている。また、からだの組織の細胞自身にも自分の補体系の作用を回避するしくみがある。
このように、補体系は活性のない状態で血液などの体液中に存在する。IgM抗体が抗原に結合すると、補体系は活性化して抗原を攻撃する。この活性化した補体系は抗原とからだの組織の細胞とを区別せず攻撃する。この活性化した補体成分が抗体と結合した抗原にできるだけ限定して働くしくみが備わっている。また、からだの組織の細胞自身にも自分の補体系の作用を回避するしくみがある。
このように、補体系は抗体によって目印をつけらた抗原を攻撃するが、補体系自身にも異物を識別する機能がある。ヒトの血清にウサギの赤血球を加えると、抗体がなくても溶血させるるが、ヒトの血清にヒトの赤血球を加えただけでは溶血させない。
このことから、補体系は抗体がなくても赤血球が異種であれば溶血させるが、自己の赤血球であれば溶血させないことがわかる。
 そうならば、この補体系の自己と非自己の識別のしくみは、からだの防御にどのように働いているのだろうか。補体系は異種赤血球のほかに、酵母の細胞壁の多糖類やグラム陰性細菌の細胞壁のリポ多糖などの一群の異物と反応して攻撃する。この性質から補体系は、細菌に対する抗体産生以前の生体の防護に働くと考えられている。
この推定は補体系の成分が抗体をつくらない無脊推動物にも存在することからも支持される。しかし、この補体系の異物認識能は抗体の認識能にくらべて著しく劣り、限られた異物しか認識できない。また、抗体を介さない活性化能は抗体を介する活性化能より低い。
したがって、抗体が産生されると、補体系はもっぱら抗体を介して強力に活性化される。この抗体に依存する補体系の活性化は19世紀末に発見されたので、古典経路(classical pathway)とよばれている。抗体に依存しない活性化は1970年代に発見され、そのしくみは古典経路とは異なるので、第二経路(alternative pathway)とよばれる。
2 補体系が異物を除去するしくみ
 古典経路のしくみを溶血反応を例にとって説明しよう。抗体と結合した赤血球の溶血反応に働く補体系のタンパク質はC1からC9の記号で示される9種類で、赤血球の表面に結合したIgM抗体とIgG抗体(IgG4を除く)にC1が結合し、ついでC4,C2,C3,C5,C6,C7、C8,C9の順に反応して、赤血球を溶血する。


C1はC1q,C1r、C1sで示される3種類のタンパク質がCa+2を介して結合した複合体で、C1q(C1r・C1s)2で示される組成をもつ、抗体が抗原に結合すると、C1はC1qを介して抗原に結合した抗体のFcに結合する。C1qは6本の枝状の構造の先端部分で、抗原に結合した1分子のIgM抗体のC3・C4ドメイン間に橋渡しするように結合する。

表8-1 補体系の古典経路のタンパク質
タンパク質(分子量×103 活性化の際の生成物(分子量×103
C1q(410) 抗体に結合
C1r(83) C1rプロテアーゼ(83)
C1r(83) C1sプロテアーゼ(83)
C4(206) C4a(8):アナアフィラトキシン
C4b(195):貧食の亢進
C2(107) C2a(73)→C4b2a:転換酵素
C2b(34)
C3(180) C3a(9):アナフィラトキシン
C3b(170)→C4b2a3b:C5転換酵素
C5(180) C5a(11):アナフィラトキシン
C5b(170)
C6(128)
C7(121)
C8(153) C5b6789:膜侵襲複合体
C9((75)


これに対しIgG抗体では、C1qは抗原に結合した2分子にIgG抗体のC2間に橋渡しするように結合する。
こうしてC1qが結合すると、C1qに結合しているC1rが自己触媒的に自己のポリペプチド鎖を切断して、C1rプロテアーゼに活性化する。ついで、このC1rプロテアーゼがC1sに作用してC1sプロテアーゼに活性化する。


活性化したC1sプロテアーゼはC4をC4aとC4bに切断する。C4から生じた直後のC4bは、C1sプロテアーゼが結合している抗体や、すぐ近くの赤血球表面に結合する。この結合は次のしくみによる。C4分子の内部にシステイン残基とチオエステルをつくっているグルタミン酸残基が埋もれている。

C1sプロテアーゼによってC4が切断されると、このチオエステル結合がC4b分子の表面に露出する。その結果、チオエステル結合をつくっているグルタミン残基のCOOH基は、ごく近くの抗体や赤血球表面のOH基やNH2基と反応して、共有結合する。
チオエステル結合は水と反応すると急速に加水分解するので、Cb4は遠く離れたOH基やNH2基とは反応できず、近くのOH基やNH2基にのみ結合する。結合しなかったCb4は失活し、遊離した状態で残る。
このような性質のために、補体系は活性化した部位から離れた生体の細胞に結合して攻撃できない。
抗体や赤血球に結合したC4bは次にC2と非共有結合し、その結合したC2はC1sプロテアーゼによってC2aとC2bに切断される。生じたC2aはC4bと結合して複合体C4b2aを形成する。この複合体を形成したC2aはC3をC3aとC3bに切断するプロテアーゼ活性を示すので、複合体はC3転換酵素といわれる。C4b2a複合体は不安定でC2aが解離しやすく、解離したC2aはただちに失活する。
生成した直後のC3bはC4bと同じ機構で近くのOH基やNH2基に共有結合する。このようにして、C4b2a複合体の接してC3bが結合してC4b2a3bの複合体が生成すると、C2aはC3のかわりにC5をC5aとC5bに切断するC5転換酵素となる。
C5から生成したC5bは赤血球に吸着し、これに順次C6,C7、C8,C9が会合して、管状の膜襲撃複合体を細胞膜上に形成する。
この複合体はC5b6789で表される複雑な構造をつくり、多数のC9分子が筒状に重合している。この重合体が細胞膜の脂質二重層の中に次第に沈んで細胞膜を貫通するので、これを通じて水とイオンが自由に出入りしたり、細胞内の成分が細胞外に溶出して、細胞が破壊される。補体系の作用で溶血した赤血球の細胞膜を電子顕微鏡で観察すると、月のクレーターのような穴ができているのが見られる。
 以上が補体系が抗原細胞を障害するしくみである。抗原が細菌でも、補体系は同じしくみで溶菌する。しかし、細菌が多糖質の細胞壁をもっている場合は、作用をうけにくい。
生物活性をもつフラグメントの生成
 補体系が順次活性化して、最終生成物の膜襲撃複合体を生成する過程で、さまざまな生物活性をもつ中間生成物ができる。その一つのグループはC4a、C3a、C5aで、動物の皮内に注射すると炎症を起こすので、アナフィラトキシン(anaphylatoxin)と名づけられた。
アナフィラトキシンには、好中球を誘引する走化性(chemotaxis)、肥満細胞の脱顆粒によるヒスタミンの遊離やロイコトリエンなどの合成を誘導させる作用、平滑筋を収縮させる作用がある。これらの作用によって血管の透過性が増大し、血液中のタンパク質の血管外への浸出や、好中球と単球の血管外への遊走が起こって炎症部位に集まる。

アナフィラトキシンのうちでC5aの作用がもっとも強く、その平滑筋収縮作用はC3aの約100倍、C4aの約1、000倍である。走化作用もC5aがもっとも強い。
中間生成物のもう一つの生物活性は貧食細胞が異物を貧食するのを亢進させる作用がある。この作用は微生物の排除の点で溶菌作用より重要である。
貧食作用の亢進は貧食細胞に補体レセプターがあって、このレセプターを介してC4bやC3bを結合した異物を結合することによって起こる。抗原抗体複合体はIgG抗体がFcを介して貧食細胞のFcレセプターに結合して貧食させるが、抗原抗体複合体にC4bやC3bが結合すると、さらに貧食作用を受けやすくなる。
補体系の制御
 補体系の反応では、1分子のC1が抗原抗体複合体上で活性化すると、数百分子のC3bが生成する。制御機構がないと血液中のすべてのC3分子が消費しつくしされてしまう。この過剰な活性化を防いだり、からだの細胞が補体系の攻撃を受けないようにするため、いろいろな制御機構が備わっている。C1インヒビター(分子量:110,000)は活性化したC1rプロテアーゼとC1sプロテアーゼが過度に作用しないように、C1rプロテアーゼとC1sプロテアーゼがある程度働くと、それぞれの活性部位に結合して阻害する。そのほかC3転換酵素やC5転換酵素を失活させたり、形成を阻害するしくみもある。血清中のC4b結合タンパク質(C4b binding prtein,分子量:540,000)はC3転換酵素の形成を阻害したり、C4bからのC2bの解離を促進し、また、血清中のI因子(分子量90,000)とよばれるプロテアーゼによるC4bの分解も促す。

自己の細胞上のC3転換酵素やC5転換酵素を制御するタンパク質に、メンブランコファクタープロテイン(membrane Cofactor protein:MFPと略、分子量:45,000〜70,000)、decay accelerating factor:DAFと略、分子量:70,000、CR1で表される補体レセプター1(complement receptor 1,分子量160,000〜250,000)がある。DAFはC4bからC2aを解離させ、MCPはT因子によるC4bやC3bの分解を促進する。CR1はC4bやC3bに結合してC2aを解離させたり、I因子によるC4bやC3bの分解を促進する。
そのはか、自己の細胞上にCD59で表される(homologous restriction factor:HRFと略、分子量:18,000)ともよばれる膜タンパク質は、自己の補体系による膜侵襲複合体の形成を阻害するが、異種の補体系の膜侵襲複合体の形成は阻害しない。このために、ヒトの補体系はウサギの赤血球を溶血するが、ヒトの赤血球は溶血しないのである。
 3 自立して働く補体系ー第二経路
補体系は抗体が働いていない正常な状態でも自発的に活性化する性質をもつ。前に述べたように、C3分子内にはチオエステル結合がある。
一般の血清タンパク質と同様に、C3分子は徐々にコンホメーションが変わり、代謝される。C3の場合、この過程でチオエステル結合が分子表面に現れて、水と反応して加水分解され、C3としての活性を失ったC3(H2O)となる。このC3(H2O)はB因子とよばれる血清タンパク質と結合して、C3(H2O)B複合体を形成する。

補体系の第二経路のタンパク質
タンパク質(分子量×103  活性化の際の生成物(分子量×103
C3(H2O)(180) B因子に結合
B因子(93) Ba(32)
Bb(60)→C3(H2O)Bb:初期C3転換酵素
D因子 B因子を限定攻撃
C3(180) C3a(9):アナフィラトキシン
C3b(170)→C3bBb::増殖性C3転換酵素
      →C3(H2O)nBb複合体
C5、C6、C7、C8、C9 古典経路と共通



これにD因子(分子量:23,000)とよばれるプロテアーゼが働くと、B因子がBaとBbに切断され。C3(H2O)Bb複合体を生じる。この複合体は弱いながらもC3転換酵素の作用を示すので初期C3転換酵素とよばれる。しかし、C3から生じる微量のC3bには血清中のH因子(分子量:155,000)が結合し、H因子に結合したC3bはI因子によって分解される。
また、初期C3転換酵素によって生成した微量のC3bが自己の細胞に結合しても、DAFなどの制御系によって失活する。
一方、グラム陰性細菌のリポ多糖などの第二経路の活性化物質が存在すると、初期C3転換酵素によって生じたC3bがこの活性化物質に結合する。結合したC3bは活性化物質に制御系がないので、存続してB因子を結合する。この複合体にD因子が働き、C3bBbが生成する。
C3bBbは増幅性C3転換酵素といわれ、強いC3転換酵素活性を示す。この酵素の働きでC3よりC3bが生じ、その近くに結合して(C3b)Bbとなって、C5転換酵素として働く、その結果、C5からC5aとC5bを生じ、最終的に膜侵襲複合体を生成して抗原細胞を破壊する。C3bBbと(C3b)Bbはそれぞれ古典経路のC3転換酵素のC4b2aとC5転換酵素のC4b2a3bに対応し、C5b以降の補体成分の反応機構は両経路とも同じである。以上が第二経路の大略である。

抗原の排除

1 抗原を排除する細胞たち
 抗体は抗原と結合すると、抗体や補体系に協力して抗原の排除に働く細胞群を活性化する。
このような細胞には多形核白血球、マクロファージ、単球、肥満細胞がある。血液中のおもな抗原排除細胞は多形核白血球で、アニリン色素による細胞内顆粒の組織化学的な染色性から好中球、好塩基球、好酸球に分類される。

表9−1 血液中の白血球
細胞
好中球 65〜70
好酸球 3
好塩基球 0.4
単球 5
B細胞 6
T細胞 20
白血球数:5000〜8000mm3

もっとも数が多いのは好中球で、好塩基球がもっとも少ない。血液中の白血球には、ほかに単球、リンパ球がある。白血球の数は1mm3あたり5、000〜8,000で、赤血球数の約1、000分の1である。。
血液中の単球が脾臓やリンパ節に定着して成熟したのがマクロファージで、肝臓、肺、結合組織に定着したものはそれぞれクッパー細胞(Kuffer cell)、肺胞マクロファージ、組織球と呼ばれる。肥満細胞は血管の周辺などの組織中に存在していて、好塩基球に似ている。
これらの細胞はすべて骨髄中の多能性幹細胞から分化してつくられる。


まず、この多能性幹細胞はリンパ球系幹細胞と骨髄系幹細胞とに分化し、前者からT細胞とB細胞が、後者から単球、あるいはマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、肥満細胞、血小板、赤血球がつくられる。それぞれの細胞への分化はそれぞれに固有のサイトカインによって誘導される。
2 貧食による防御
 ウィルス、細菌、寄生虫などの病原体がからだのなかに侵入すると、免疫応答が誘導されて、それらは効果的に排除される。しかし、抗体の産生やエフェクターT細胞の生成には、数日かかる。そのために、宿主は免疫応答による感染防御が成立するまでは、自然防御機構あるいは非特異的防御機構といわれるしくみで感染を防御する。
生体の皮膚、消化器、呼吸器、泌尿器など外界と接する体表面は上皮で覆われており、病原体の侵入を防ぐバリアーとなっている。この上皮層は病原体を殺したり、増殖を抑制する物質もつくっている。そのため、けがややけどで上皮が破壊されると、感染しやすくなる。病原体がこのバリアーをとうりぬけると、まず、自然防御機構が働き出す。この機構のおもな因子が補体系とマクロファージである。
 細菌に感染すると、血液中のいろいろな機能的タンパク質の作用で炎症反応が起こる。とくに補体系が第二経路を活性化して攻撃する。細菌が上皮層をとおりぬけると、上皮層の下の結合組織中のマクロファージが反応して貧食し、同時にいろいろなサイトカインを分泌しT細胞に抗原を提示する。分泌されるサイトカインにはIL−1,IL−6,IL−8、IL−12,TNF−αなどがある。IL−1とIL−6は体温の上昇と急性期タンパク質とよばれる一群のタンパク質を産生を誘導する。


急性期タンパク質は炎症の初期に産生されて感染の抑制に働く。IL−12はT細胞やNk細胞に作用してIFN−γを産生させる。TNF−αは局所の血管に作用して、透過性を亢進させる。また、TNF−αはIL−8とともに働いて、血液中の単球や好中球などの白血球の血管外への移行を誘導し、感染局所に集積させる。
また、ウィルス感染の場合には、感染した繊維芽細胞はIFN−βを産生し、感染した白血球はIFN−αを産生して感染を防御する。なお、IFNはウィルス感染細胞が産生し、ウィルス増殖を抑制する活性物質としてはじめて見つかった。産生する細胞によってIFNはα、β、γの三つのタイプに大別される。


このうちIFN−γはT1細胞でつくられる。免疫応答によってウィルスや細菌の感染からの防御に働く。
白血球の感染局所への動員
 マクロファージの産生するTNF−αとIL−8による白血球の感染局所への動員は、白血球の血管内皮細胞への接着、血管内皮細胞間のとおりぬけ、炎症局所への遊走、の二つの段階からなる。


最初の段階は白血球の内皮細胞層上でのローリングと接着である。TNF-αの作用を受けると、内皮細胞はP−セレクチンとE−セレクチンとよばれる接着分子を発現しはじめ、白血球の糖タンパク質に結合する。このために、白血球は内皮細胞層に弱く結合しながら内皮細胞層上をローリングする。次に、内皮細胞はTNF−αの作用によってICAM−1を発現し、白血球上のLFA−1などの接着分子を介して白血球を結合する。この結合はマクロファージのつくるIL−8の作用で強くなり、白血球は内皮細胞層に強く接着し、内皮細胞のあいだをとうりぬけるようになる。こうして血管外へ遊走した白血球は、IL−8などの走化性因子の作用によって感染局所に移動して、抗原を攻撃する。 
 この白血球の動員には、補体系のアナフィラトキシンのC5aや内皮細胞などがつくる走化性因子も働く。一般に、貧食細胞に作用する走化性因子はケモカイン(chemokine)とよばれる。つまり、IL−8は好中球に作用するケモカインであるといえる。単球とマクロファージに働くケモカインには、マクロファージ遊走因子(MCF)やMCAF(monocytechemotactic and activating factor)などがある。
3 からだのなかの掃除屋  貧食細胞
マクロファージと好中球
 マクロファージと好中球は代表的な貧食細胞である。好酸球も貧食作用を示すが、その作用は弱い。これらの細胞はIgG抗体のFc部分と特異的に結合するFcγレセプターを細胞表面にもっている。このFcγレセプターにはFcγRT、FcγRU、FcγRVの3種類がある。


それぞれのレセプターはIgGのサブクラスに対する親和性の点で互いに異なる。Fcγレセプターは遊離しているIgG抗体とは弱くしか結合しないが、抗原に結合したIgG抗体とはFc部分を介して強く結合する。また、貧食細胞は補体レセプターをもっている。補体レセプターにはCR1からCR4の4つの種類があり、そのうちの3種類が貧食細胞にある。
これらのレセプターはCb4とC3bあるいは補体系の制御因子のT因子の作用によってC3bから生成したフラグメントに結合する。
抗原抗体複合体や異物によって補体系が活性化して、C4からC4b,C3からC3bが生成して抗原抗体複合体や異物に結合すると、補体レセプターを介して貧食細胞に結合される。
こうして免疫複合体が貧食細胞の表面に結合すると、貧食細胞は貧食作用や殺菌作用を発揮して免疫複合体を殺菌したり、分解する。Fcγレセプターや補体レセプターに免疫複合体が結合すると、貧食細胞はその周囲に偽足をのばして取り込み、偽足の先端がたがいに融合する。


こうして免疫複合体を細胞内に取り込んだファゴゾームが形成される。ついで、ファゴゾームにリソソームが融合してファゴリソソームを形成する。リソソーム内部のpHは低いので、ファゴリソソームの内部も酸性になる。
また、リソソームは殺菌作用をもつリゾチームなどの酵素や、細菌のいろいろな構成成分を加水分解する酵素を含む。酸性条件やこれらの酵素の作用で殺菌、消化、分解が進むのである。
 一方、免疫複合体が食細胞にくらべて大きすぎて貧食できないときには、リソソームのほうが細胞膜のほうに移動して融合する。その結果、リソソームの内容物が細胞外に放出される脱顆粒反応が起こる。こうして放出されたリソソームの酵素が細胞外で殺菌したり、免疫複合体を消化、分解する。
また、マクロファージと好中球は免疫複合体と反応すると、殺菌力の強い活性酸素のスーパーオキシドアニオン(O2)と一酸化窒素(NO)を作り出して、抗原を殺す。
つまり、これらの貧食細胞がFcγレセプターや補体レセプターを介して免疫複合体と結合した場合、NADPHオキシダーゼとよばれる酵素が活性化されて、NADPHを利用して酸素分子を一電子還元しO2を生成する。
また、NO合成酵素も活性化されて、L−アルギニンからNOを生成し、こうして生成されたO2とNOはともに複雑な機構で細菌を作用して殺菌する。
NK細胞
 NK細胞は非T細胞・非B細胞系の特殊なリンパ球で、試験管内である種の腫瘍細胞を殺すことから見つかった。NK細胞をIFN−αとIL−12で処理するとIFN−γを産生して、細胞障害作用が数十倍上昇する。NK細胞はウィルス感染の防御や腫瘍細胞の排除に働く。
また、NK細胞は抗体に協力して抗原の排除にも働く。この細胞はFcγRVをもち、抗体が結合した抗原細胞に結合すると、抗体依存性細胞障害反応とよばれる反応で抗原細胞を障害する。この場合、抗原細胞はNK細胞の放出するパーフォリンとグランザイムの作用で死滅する。

4 アレルギーを引き起こす肥満細胞
 好塩基球は血液中の多形核白血球に属する細胞である。肥満細胞は特有の顆粒を細胞質にたくさんんもつ細胞で、顆粒内にはヒスタミンなどの血管作動性アミンが含まれる。この細胞は腸管や気道などの体腔表面下の粘膜細胞や、血管壁に沿った結合組織に存在する。
粘膜細胞にあるものと結合組織にあるものの性質は一部に違いは見られるので、粘膜肥満細胞と結合組織肥満細胞とに分けられる。
肥満細胞と好塩基球はIgE抗体を介して抗原と反応すると、複雑な過程を経てアレルギーを引き起こす。
この過程は、IgE抗体の肥満細胞と好塩基球の細胞表面のFcγレセプターへの結合、Fcγレセプターに結合しているIgE抗体への抗原の結合、細胞の活性化にともなう脱顆粒反応やいろいろな活性物質の産生と細胞外への放出、活性物質による炎症の発症の諸段階からなる。


なお、好塩基球の作用機構の郡細は肥満細胞ほど明らかではない。
脱顆粒反応のはじまり
 肥満細胞や好塩基球の細胞膜上のFcγレセプターはIgE抗体のFc部分に対してきわめて高い親和性をしめすので、高親和性Fcγレセプター(FcγRI)とよばれる、図9-5参照。
FcγRIはIgE抗体以外のクラスの抗体とは結合しない。また、IgE抗体以外のクラスの抗体に対するレセプターが肥満細胞と好塩基球にないので、IgM抗体、IgG抗体、IgA抗体は脱顆粒反応を起こさない。
ただし、マウスとモルモットのIgG1抗体はマウスとモルモットにそれぞれアレルギーを引き誘導する活性はIgE抗体にくらべて著しく弱い。肥満細胞と好塩基球のFcγRIに強く結合したIgE抗体に抗原が反応して、抗原が2分子のIgE抗体間に橋渡しするように結合すると、そのシグナルに応答して顆粒が細胞膜に向かって移動して融合する。その結果、顆粒の内容物が細胞外に放出する脱顆粒反応が起こる。
アレルギーにともなう炎症反応
 肥満細胞と好塩基球は結合したIgE抗体分子の抗原による架橋によっていろいろな活性物質をつくりだす。
このしくみは肥満細胞で群細に研究されている。肥満細胞が活性化した場合、数秒以内に脱顆粒が起こり、顆粒内に貯蔵されていたヒスタミンやセロトニンなどの血管作動アミンが放出される。これらのアミンの作用で局所的な血流と血管透過性の増大が起こり、血液中のタンパク質や白血球などが血管外へ流出する。こうして、炎症局所へ短時間のうちに抗体や肥満細胞が動員される。
 ヒスタミンやセロトニンは速やかに分解されるが、脱顆粒後に肥満細胞は別の血管作動因子のロイコトリエンなどを生成して、炎症反応を持続する。


ロイコトリエン類はアラキドン酸代謝経路の活性化によってアラキドン酸から生成する。ロイコトリエン類のなかでロイコトリエンC444が炎症反応を持続させるように働く。これらの物質のほかに、アラキドン酸代謝経路の活性化でトロンボキサンチン、プロスタグランジンなどが生成して、血管や気管支平滑筋の収縮、白血球の活性化に働く。また、肥満細胞は活性化すると、IL−4やTNF−αなどのサイトカインを合成して分泌する。
肥満細胞と好塩基球の抗原排除のしくみ
 こうした働きにによって肥満細胞がIgE抗体を介して抗原と反応すると、アレルギーが発症する。アレルギーが日常生活で注目をあつめているが、その本質は肥満細胞がからだのなかにおける抗原の拡散や排除を容易にする状況をつくりだすように働くためである。
肥満細胞の作り出すヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエンなどのは平滑筋を収縮させて、抗原の侵入や拡散を防ぐためにも働く。たとえば、消化器で肥満細胞が活性化すると、腸管内容物を放出させるために下痢や嘔吐が起こる。また、気管で活性化すると、粘液の分泌が亢進し、咳がでて、抗原を洗い流そうとする。
好酸球は肥満細胞の活性化にともなう抗原排除に重要な役割をはたしている。
好酸球はFcγレセプターのほかに、高親和性のFcεRIとは異なる低親和性Fc2レセプター(FcεRU)をもち、好酸球はこのレセプターを介してIgE抗体の結合した抗原に働く。
そのために、この細胞は寄生虫などのIgE抗体を産生しやすい病原体の排除に働く。IgE抗体によるアレルギーが起こると貧食細胞、とくに好酸球が反応局所に集まり、反応後時間がたつと、集積した好酸球の貧食作用や脱顆粒にともなう炎症反応が起こる。


アレルギーの分類

1 アレルギーの原因と機構
免疫システムは抗原を排除して、からだを守るために働く。しかし、こがシステムが本来無害な抗原に働いたときに、からだを障害して病気の原因となることがある。この障害反応は一般にアレルギーとよばれるが、過敏症あるいはアナフィラキシーともいう。アレルギーは”変化した生体の反応能力”を意味する言葉で、過敏症は無害な抗原に対する過敏な反応を意味する。
また、アナフィラキシー(anaphylaxis)は保護(prophylazis)の反対を意味している。20世紀の初頭にアレルギーによる疾患が発見されたとき、免疫システムの理解に混乱が起こったが、今日ではアレルギーはからだを守るという本来の免疫システムの概念と矛盾なく理解できるようになっている。
 アレルギーは抗原と接触して起こるが、症状として現れるためには、以前にその抗原と接触して免疫状態になっていることが必要条件である。
アレルギーは抗原と接触してから発症するまでの時間によって、即時型アレルギーと遅延型アレルギーの二つのタイプに分類される。
 即時型アレルギーは抗原と反応してから短時間で障害反応が現れる。即時型アレルギーの中心的な反応はIgE抗体を介した反応で、アトピー性(atopic allergy)またはアトピー(atopy)として知られている。IgE抗体が抗原と反応すると、2〜3分というきわめて短時間のうちに障害反応が現れ、十数分で反応の強さが最高になる。
一方、遅延型アレルギーは抗原と反応してから数時間たってようやく障害反応が現れはじめ、最高の強さになるのに24〜48時間かかる。この違いは、即時型アレルギーは抗体の作用によるものであり、遅延型アレルギーはエフェクターT細胞によるためである。また、アレルギーは発症の機構から次のTからWの四つの型に分けられる。

T型アレルギー:IgE抗体の抗原との反応による障害
U型アレルギー:からだの細胞に特異的なIgG抗体やIgM抗体による障害
V型アレルギー:IgG抗体の免疫複合体が多量に生成し、強い生物作用による障害
W型アレルギー:エフェクターT細胞による抗原排除にともなう障害
 このうち、T、U、V型アレルギーが即時型アレルギーで、W型アレルギーが遅延型アレルギーである。

表10-1
抗体または細胞 補体系の関与 代表的な反応
即時型アレルギー
T型 IgE 花粉アレルギー、じんま疹
U型 IgG、IgM + 血液型不適合による障害
V型 IgG + 血清病
遅延型アレルギー
W型 エフェクターT細胞 - ツベルクリン反応、接触過敏症

2 一番身近なアレルギー  T型アレルギー
 多くの人たちにまったく無害な物質が、少数の人たちにとってはT型アレルギーを引き起こす。このアレルギーの原因となる抗原はアレルゲンとよばれる。アレルゲンとなるものは多種多様である。
目や鼻の粘膜をとおってからだのなかに入ったり、呼吸によって気管に吸い込まれたてアレルゲンとして作用するものに、スギやブタクサの花粉、室内のほこり、動物のフケや毛などがある。
また、食物として口から入るアレルゲンには、サバ、卵、ソバなどがある。医薬品では、からだのタンパク質や細胞に化学的に結合しやすいペニシリンなどがある。
同じ環境で生活していて同じアレルゲンと接触してもアレルギーを発症する人としない人があり、発症するのは一部の人に限られる。発症するかどうかは遺伝的な個人差による。
 T型アレルギーの症状は抗原の侵入経路や量によって変わり、からだの特定の部分に限定された局所的反応として現れたり、全身的反応として現れたりもする。
代表的な局所的アレルギーとして花粉症がある。花粉が目や鼻の粘膜に触れると、花粉に含まれるタンパク質が粘膜下に拡散し、粘膜下の特異的IgE抗体を結合している肥満細胞に反応して炎症を引き起こす。そのために、目や鼻がかゆくなり、涙や鼻汁の分泌を亢進し、くしゃみがでる。これらの症状は抗原の粘膜からの侵入を防ぐために働いているのである。
また、ブタクサの花粉のアレルギーは、ごく微量で発症に至るもので、その暴露量は1年を通じて1μg以下の微量であると推定される。粘膜組織の抗原提示細胞は皮膚のランゲルハンス細胞と似た細胞で、花粉のアレルゲンを近くのリンパ節に運ぶ。この細胞には貧食作用は弱いが、補助刺激作用が強く、IL−12を産生しない。
このためにナイーブCD4T細胞に抗原を提示してIL−4を産生するCD4T細胞(T2細胞)の生成を誘導するので、IgE抗体が産生されやすい。もし、IFN−γを産生する炎症性T細胞(TT細胞)が生成すると、IgE抗体の産生が抑制される。花粉症に悩む人の数は先進国では全人口の10〜20%前後と推定される。
 ぜんそくは気管支などの呼吸器系のアレルギーで、気管が詰まったり、呼吸困難の発作を起こす。これは、アレルゲンが気管の粘膜下の肥満細胞にIgE抗体を介して反応した結果である。抗原吸入後の最初の発作が治まっても、3〜8時間後に再び気道閉塞が起こるのが一部の患者で見られる。この反応は遅発型反応(アレルギー)とよばれ、肥満細胞やT2細胞などがつくりだす好酸球走化因子によって好酸球が浸潤し、炎症を誘導する。
 食餌アレルギーや薬剤アレルギーでは、アレルゲンの経口摂取によって2種類の症状が現れる。その一つは消化管粘膜の肥満細胞が放出する活性物質が消化管に作用して起こす下痢や嘔吐である。この働きによって腸管のアレルゲンを含む内容物が排出される。
もう一つは、吸収されて血液で運ばれたアレルゲンが皮膚の深層の肥満細胞を活性化して、皮膚にかゆみをともなう発赤や発疹を生じるじんま疹である。
食餌アレルギーの患者数は花粉症患者にくらべて少ない。
 全身的なアレルギーは薬剤の注射や、毒物をもつハチなどの昆虫に刺されたときに起こる。たとえばペニシリンを注射されると、その一部がからだのタンパク質や細胞に結合して抗原として働き、抗ペニシリン抗体が産生され、人によってはIgE抗体が産生される。


こうしたIgE抗体をもつ人が再びペニシリン注射を受けると、全身性のアレルギーが起こり。ショック症状(アナフィラキシー・ショック)として危険な状態になる。
具体的には、血液中の好塩基球が全身の血管と関連した結合組織中の肥満細胞が活性化され、全身の平滑筋の収縮、気道閉塞、血液循環系の障害などの全身症状が現れる。激しいときには、数分以内に死亡することもある。
同じような症状が昆虫アレルギーで見られる。これは昆虫の毒物に対するIgE抗体をもつ人が、同じ昆虫に刺されて毒物が体内に入った場合に起こる。
3 自己免疫疾患も引き起こす U型アレルギー
 もっとも一般的なアレルギーはIgE抗体によって起こるが、IgG抗体やIgM抗体によってもおこる。U型アレルギーはからだの細胞に反応するIgG抗体やIgM抗体が移入されたり、生成したときに起こる障害反応である。抗体が細胞に結合すると、細胞が補体系やマクロファージと多形核白血球によって破壊されたり、貧食される。


これにともなってU型アレルギーが発症する。その代表的な反応が血液型不適合による溶血反応で輸血反応や胎児赤芽球症がある。
 輸血反応は血液型の異なる血液を誤って輸血してしまったときの障害反応である。


たとえば、A型の人に誤ってB型の血液を輸血すると。輸血を受けたA型の人は血液中にB型赤血球に特異的に反応するIgM抗B抗体をもつので、これが輸血されたB型赤血球に結合して凝集させる。同時に、補体系によって溶血したり、貧食細胞によって攻撃される。
そのために、輸血を受けた人に重い症状がでて、危険な状態になる。輸血反応で働く抗A抗体や抗B抗体はIgM抗体であって、血液型物質の構造によく似た物質が細菌などに広く存在するので、これらの物質を含む食物の摂取などによって産生されると考えられる。
 胎児赤芽球症はRh血液型不適合によって新生児に起こる疾患である。この疾患はRh抗原を持たない母親すなわちRh(-)の母親が、父親から遺伝されたRh抗原をもつRh(+)の赤血球をつくる胎児を妊娠したときに現れる。
このRh(+)赤血球は胎盤を通過できないので、母親のほうに移行しにくい。しかし、分娩時には、胎児のRh(+)赤血球のごく一部が母親に移行する。そのために、母親はRh抗原に対するIgG抗体を産生するようになる。
この母親が2度目にRh(+)の胎児を妊娠すると、妊娠末期に抗Rh抗体の産生量が増大する。この抗体はIgG抗体であるので、胎盤を通過して胎児に移行し、胎児のRh(+)赤血球を破壊する。胎児は赤血球を補給するために盛んに幼若な赤血球をつくり、結果として、赤芽球症となる。
そして出生後、新生児は溶血した赤血球を自分自身では十分に除去できないので、黄疸症状を起こす。この胎児赤芽球症は、最初の分娩の直後に母親に抗Rh抗体を注射して、子供由来のRh抗原を除去させると、免疫が誘導されないので予防できる。
以上のRh血液型不適合による胎児の障害を考えると、O型の母親がA型あるいわB型の子供を妊娠したときに、ABO血液型不適合によって胎児に障害を受ける可能性が問題となるだろう。
O型の母親は抗A抗体や抗B抗体をもっているが、これらの抗体はIgM抗体であるので、胎児を通過できず、胎児のほうに移行しない。また、A型抗原やB型抗原は赤血球以外の組織にもたくさん存在するので、抗体が胎盤を通過したとしても、組織によって吸収されてしまう。そのため、ABO型不適合による胎児赤芽球症はまれにしか起こらない。
 ある種の薬剤は細胞膜に結合し、この薬剤に対するIgG抗体がつくられる。この抗体が薬剤を結合した赤血球に反応して溶血させて、障害することがある。一方、U型アレルギーによる障害の大きな問題となるのは、自己免疫疾患である。
正常な人は自己抗原に対する免疫応答は起こらないが、自己の細胞や組織に対する抗体を産生する人がいる。その一例が自己免疫疾患の自己免疫性溶血性貧血である。この疾患は自己の赤血球に反応する自己抗体が産生されて、赤血球が破壊されて発症する。
4 免疫複合体によるアレルギー  V型アレルギー
 V型アレルギーはからだの可溶性タンパク質に対するIgG抗体が移入させたり、生成し、多量の免疫複合体が生じるときに発症する。



免疫複合体がからだを障害する程度はその大きさに依存する傾向がある。大きな免疫複合体は補体系を活性化して、C5aなどのアナフィラトキシンを生成したり、好中球の脱顆粒反応を招いたりして、炎症反応を引き起こす。
しかし、一般に大きな免疫複合体は貧食細胞によって比較的容易に処理される。一方、抗原が抗体に比べて過剰な状態では、小さな免疫複合体を生じる傾向が見られる。このような免疫複合体は血管壁や組織に沈着しやすく。補体系や好中球が沈着した複合体に反応して、組織を障害する。
 外来の抗原を多量に静脈内に注射すると、V型アレルギーが起こることがある。血清病はジフテリアや破傷風などの治療のためにウマにつくらせた抗血清を注射する血清療法の際に起こる障害反応である。たとえば、ジフテリア患者にウマ抗血清を注射すると、含まれる抗体の作用によってジフテリア菌の増殖や毒素の毒作用が抑えられて、患者は回復する。
しかし、ウマ抗血清中の抗体などのタンパク質は患者にとっては異物であるので、時間がたつにつれてこれに対する抗体が産生されてくる。抗体が産生されたあとで、ウマのタンパク質がからだに残っていると、抗体と反応して免疫複合体が生じる。そのため、発熱、関節痛、タンパク尿、じんま疹などを発症する。この症状は抗血清を繰り返し注射すると激しくなる。V型アレルギーもU型アレルギーと同様に自己免疫疾患の原因になる。
5 T細胞依存の遅延型過敏症 W型アレルギー
 W型アレルギーにはツベルクリン反応、接触過敏症などがある。接触過敏症は塩化ピクリルやジニトロフルオロベンゼンなどの反応性に富む化学薬品を溶媒に溶かして皮膚に塗布してから、数日後に同じ物質を再び塗布すると現れる反応である。湿疹様の皮膚反応が現れ、48時間後に反応が最大になる。ウルシによるかぶれはウルシに含まれるペンタカテコールが原因物質である。いずれの場合も、化学物質が皮膚組織のタンパク質に結合してこれを修飾する。この修飾タンパク質を抗原提示細胞がT細胞に提示して、エフェクターT細胞がつくられる。


再度の抗原との接触で、エフェクターT細胞が活性化して、細胞を障害したり、炎症性サイトカインの放出によって炎症反応が始まるので、W型アレルギーが現れる。
 W型アレルギーはCD4T細胞とCD8T細胞のどちらかでも起こる。しかしおもなエフェクターT細胞はCD4T細胞から生成する炎症性CD4T細胞(T1細胞)である。これは遅延型反応性T細胞とよばれていたT細胞と同じものである。
炎症性CD4T細胞は抗原提示細胞のMHAクラスU・抗原エピトープ複合体を認識して炎症性サイトカインを放出し、血管の透過性を亢進させ、組織に体液成分やタンパク質を滲出させたり、マクロファージなどの貧食細胞を刺激する。
 前にに述べたように、U型アレルギーとV型アレルギーは自己抗体の産生で起こる。同様に、自己反応性T細胞は正常では活性化しないように制御されてはいるが、活性化してエフェクターT細胞になることもある。自己反応性T細胞が活性化された場合、W型アレルギーと本質的に同じ機構でからだを障害して自己免疫疾患を発症さえる。また、自己応答性のヘルパーCD4T細胞の生成も自己抗体の産生に関与している。



粘膜免疫システム
 からだの表面は皮膚か粘膜である。皮膚は角質の層で覆われていて、微生物の侵入から守られている。粘膜には角質がないので、皮膚に比べて微生物が侵入しやすい。そのかわりに、眼、鼻、口、のど、腸管、気管、気管支、生殖器などの粘膜には、特別な防御のしくみが備わっている。
粘膜の表面は粘膜の細胞が分泌する粘液で覆われ、粘液は絶えず流れており、微生物や有害な化学物質の接着を阻止したり、洗い流す。また、粘液はいろいろな抗菌作用をもつ物質を含んでいて、微生物による汚染を防いでいる。
こうして非特異的防御機能のほかに、粘膜組織は抗原の生体内への侵入を阻止し、組織の障害を防ぐために、より強力かつ効果的な独自の免疫システムを備えている。その一つがIgA抗体の選択的産生である。
 また、粘膜で覆われた器官は呼吸や食物の消化や吸収などのそれぞれにおいて固有の生理機能をはたしている。もし、粘膜の免疫システムがこれまで述べてきたしくみによって絶えず接触している微生物などの抗原を排除するなら、粘膜組織に炎症が起こることは避けられず、生理機能が影響を受けるだろう。
それを回避するために、粘膜組織はいくつかの点で全身系の免疫システムとは違った特有の免疫システムを備えている。
腸管、気管、鼻咽頭の免疫組織はそれぞれ腸管関連リンパ組織、気管関連リンパ組織、鼻咽頭関連リンパ組織とよばれる。
また、これらの組織はIgA抗体の産生などを通じて相互に関連して働くので、共同粘膜免疫システムと総称される。粘膜免疫はからだの表面をとおりぬけて侵入してしまった抗原に対して働く全身免疫とは違った特徴をもつ免疫中枢組織として働くので、局所免疫とも呼ばれる。
 粘膜免疫システムの特徴のを代表的な腸管関連リンパ組織で見てみよう。
ヒトの粘膜はテニスコートと同じくらいの表面積をもち、その約80%を消化管が占める。
消化管の粘膜面は粘液層に覆われているので、消化管のプロテアーゼの作用を受けにくく、また抗原から非特異的に保護されて、さらに、粘膜組織は抗原特異的な防御反応を発揮し、分泌型IgA抗体を産生したり、病原体に感染した細胞を細胞障害性反応によって排除する。
ヒトが産生する抗体のうちで粘液リンパ組織が産生する分泌型IgA抗体がもっとも多く、IgG抗体産生量の約2倍であり、約3gずつが毎日つくられ、粘膜表層に分泌されている。
一方、摂取した食物タンパク質の大部分は消化されてから吸収されるが、食物タンパク質のうちの10-4〜10-2が消化されずに粘膜を経てからだのなかに吸収される。
この吸収される量は全身免疫を誘導するのに十分な量である。しかし、正常なヒトでは、未消化のまま吸収されたこれらのタンパク質に対して全身性の免疫応答をを示さない。むしろ、抗原として働くものが食べてから数日後に同じ抗原を注射すると、免疫応答が起こらなくなる。この現象は経口トレランスとよばれ、粘膜免疫システムの大きな特徴の一つである。



2 複雑な腸管免疫と細胞
 腸管関連リンパ組織は独自な構造の免疫システムを発達させている。一般に腸管粘膜の免疫組織は、腸内抗原の刺激によって免疫応答を誘導する免疫誘導組織と、分化・成熟したT細胞とIgA抗体産生細胞が働く免疫実効組織の二つの領域に分けて考えられている。



誘導組織はバイエル板とよばれるリンパ小節と腸管膜リンパ節からなる。実効組織は上皮細胞間リンパ球が散在する粘膜上皮細胞層と、IgA抗体産生細胞、B細胞、T細胞、マクロファージ、肥満細胞が存在する粘膜固有層とよばれる二つの組織からなる。
バイエル板の被覆上皮細胞層には、腸内抗原を取り込むM細胞(microfold cell)がある。上皮細胞層に覆われた組織には、B細胞、CD4T細胞、樹枝状細胞、マクロファージなどの細胞が存在する。上皮細胞間リンパ球はおもにT細胞である。
このT細胞には、ほかの粘膜や皮膚の組織と同様に、γδT細胞が多く、全T細胞のうち約40%を占め。残りがαβT細胞である。これ対して、固有層のT細胞大部分はαβT細胞ですでにエフェクターT細胞に分化・成熟しているものが多い。
固有層には、これまで述べてきた通常のB細胞とは違った種類のB細胞が存在する。このB細胞はCD5+B細胞またはB−1細胞とよばれ、CD5で示される膜タンパク質を細胞表面に発現している。この細胞は抗原刺激に対する応答性などの点で、通常のB細胞(これはB−2細胞ともよばれる)とは異なる。
3 外来抗原に対応するIgA抗体
 分泌型IgA抗体の構造
IgA抗体には、血清中の血清型IgA抗体と、母乳、唾液、涙、小腸や気管支などの外分泌液中の分泌型IgA抗体がある。血清型IgA抗体には、単量型のIgA抗体(二本のH鎖と二本のL鎖からなるH22)のほかに、単量型IgA抗体がJ鎖によって連結された(H222Jで表される二量体のIgA抗体がある。
これらの血清型IgA抗体の大部分はリンパ節、脾臓などの全身系リンパ組織のIgA抗体産生細胞でつくられる。一方、分泌型IgA抗体は(H222Jにさらに分子量が65,000〜75,000の分泌片(secretory component::SCと略)とよばれるタンパク質が結合した構造をもち、(H222J・SCで表される。


分泌型IgA抗体の産生
 免疫誘導組織で腸内抗原を取り込みと抗原提示が行われる。バイエル板の被覆上皮細胞層中のM細胞が、粘膜表面に付着した抗原を細胞内に取り込み、バイエル板に輸送する。輸送された抗原は抗原提示細胞によって抗原エピトープ・MHAクラスU分子複合体としてCD4T細胞に提示される。
slgM+B細胞というナイーブB細胞は抗原による刺激と、活性化したヘルパーCD4T細胞が産生するTGF−β、IL−4IL−10などのサイトカインの作用によってクラススイッチを起こして、膜結合IgAレセプターを発現したslgA+B細胞となる。このslgA+B細胞は腸管膜リンパ節、胸管を経て全身血液循環系に入り、ついでバイエル板の高内皮性小静脈から粘膜固定層に戻る。



このような特定の組織へのリンパ球の移行はホーミングとよばれる。粘膜固有層にホーミングしたslgA+B細胞はヘルパーCD4T細胞の産生するIL-5やIL-6の作用を受けて最終的にIgA抗体産生細胞となり、IgA抗体を産生する。
 B細胞が抗原刺激を受けた局所のバイエル板でIgA抗体産生細胞にはならず、全身循環系に入ってから再び粘膜固有層にホーミングしてIgA産生細胞になる現象は、粘膜全体の防御にとって重要なしくみである。このしくみによって腸管の1か所で抗原刺激を受けて生じたslgA+B細胞は、腸管全体の粘膜組織や眼、気管支などほかの粘膜組織にもホーミングするので、からだ全体の粘膜組織でIgA抗体を産生できるようになる。
分泌型IgA抗体の分泌のしくみ
 腸管の粘膜固有層のIgA抗体産生細胞は、単量体IgA抗体とともにJ鎖も合成するにで、IgA抗体は(H22)Jとして細胞外に分泌される。この二量体IgA抗体は粘膜上皮細胞の基底部に発現しているポリIgレセプターと結合して上皮細胞内に取り込まれる。



上皮細胞はIgA抗体とレセプターの複合体を細胞内輸送小胞として、腸管腔側へ輸送し、細胞表面に出現させている。
こうして細胞表面に出現したIgA抗体とポリIgレセプターの複合体は、細胞膜付近でレセプターがプロテアーゼによって切断されて、遊離の(H22)J・SCとなり、分泌型IgA抗体として腸管腔へ放出される。これが分泌型IgA抗体の分泌機構の概略である。
 IgM抗体もJ鎖を介して重合したポリマー型の抗体であるので、ポリIgレセプターに結合できる。粘膜固有層で産生されたIgM抗体は、分泌型IgA抗体と同様に外分泌液中に分泌される。IgA抗体を産生できない選択的IgA欠損症では、分泌型IgM抗体がかわりに増加して、粘膜免疫システムの機能を代替する。
IgA抗体のエフェクター作用
  IgA抗体には、IgA1とIgA2の二つのサブクラスがあるが、どちらも同じエフェクター作用を示す。血清型IgA抗体は抗原と結合すると、第二経路で補体系を活性化する。
マクロファージと好中球、好酸球には、IgA抗体のFcαに対するFcαレセプターがあり、IgA抗体の抗原複合体を貧食し、消化し、分解して除去する。
 一方、分泌型IgA抗体はもっぱら粘膜保護に働く、分泌型IgA抗体は二量体であるので、抗原間を橋渡しするように結合しやすい。
そのために、微生物の運動や粘膜面への付着が効果的に抑制される。また、分泌型IgA抗体は細菌の産生する毒素タンパク質に結合して毒性を中和する。
分泌型IgA抗体は消化管中のプロテアーゼや細菌の産生するプロテアーゼによって消化されにくい。とくに、分泌型IgA2抗体は分泌型IgA1抗体にくらべてプロテアーゼの消化に抵抗性を示すので、下部消化管に多く存在する。
 新生児では、免疫システムが未完成であるので、胎盤を通じて移行する母親のIgG抗体と母乳中の分泌型IgA抗体が感染防御に働く。分泌型IgA抗体は母乳の主要な抗体で、新生児の腸管の粘膜表面に吸着して感染を防御する。
4 経口トレランスは治療の糸口となるか
 胸腺依存性抗原を一度に多量、もしくは少量を長期間にわたって動物に経口投与してから数日後に普通の免疫方法で免疫しても、粘膜組織での同じ抗原に対するIgA抗体産生応答は維持されるが、全身系リンパ組織での免疫応答は抑制される。
この現象を経口トレランスあるは経口免疫寛容である。たとえば、マウスに1日おきに1mgの卵アルブミンを10日間にわたって経口投与したり、25mgを1回経口投与してから10日後に、卵アルブミンをアジュバントとともに注射して免疫すると、遅延型アレルギーや全身系の抗体産生応答が抑制される。一般に、遅延型アレルギーのほうが抗体産生よりも経口トレランスに対する感受性は高い。対応抗原の摂取によって自己免疫疾患を治療する目的から経口トレランスはよく研究されている。
 経口トレランスの状態では、ヘルパーCD4T細胞(T2細胞)が炎症性CD4T細胞(T1細胞)にくらべて優位である。
経口トレランスの機構はまだ明らかでないが、全身免疫経系でのT細胞、とくにT1細胞のトレランスまたはアレルギー、あるいは調節性T細胞の作用によると考えられている。
調節性T細胞としては、TGF−βを産生するCD4T細胞とCD8T細胞が重視されている。TGF−βのほかに、IL−4IL−10などのサイトカインも経口トレランスに働くといわれる。
 粘膜細胞でのIgA抗体の産生を増強し、同時に経口トレランスを解除して全身系の抗体産生を誘導することができれば、有効な経口ワクチンが開発できる。
他方、経口トレランスを増強する経口アジュバントが開発できれば、アレルギー、自己免疫疾患の治療に有効となるだろう。このようなワクチンやアジュバントは開発されていないが、コレラ毒素が動物モデルで強い経口アジュバントとして働く。コレラ毒素は、コレラ菌が産生する細菌外毒素で、コレラに感染した際の脱水をともなう激しい水様下痢の原因毒素である。
その分子量は約84,000で経口されると強い抗原性を示し、また強いアジュバントとして作用する。抗原を少量のコレラ毒素と混ぜて経口投与すると、分泌型IgA抗体の産生が増大するとともに、血清中にIgA抗体とIgG抗体をつくりだす。
5 粘膜の感染防御
γδT細胞
 腸管上皮細胞間リンパ球は大部分がT細胞である。上皮細胞間T細胞の特徴はαβT細胞のほかにかなりの比率でγδT細胞が見られ、その大部分はCD8T細胞であるということにある。
このγδT細胞はαβT細胞の感染防御機能が働く前の感染初期に、感染防御に働くと考えられている。すでに述べたように、胎生期の胸腺で最初に出現するのはγδT細胞で、表皮内へホーミングして表皮樹枝状細胞となる。
次に出現するγδT細胞は生殖器へホーミングする。この二つのγδT細胞群はそれぞれの群に固有のVγ遺伝子、Vδ遺伝子、J遺伝子からなる単一もT細胞レセプターを発現している。

表11-1 マウスのγδT細胞のγ鎖とδ鎖の発生過程での変動
胎生期 γ鎖とδ鎖 移行組織
15日 γ5−jγ1−Cγ1 皮膚
δ1−Dδ2−Jδ2−Cδ
17日 γ6−Jγ1−Cγ1 生殖器官
δ1−Dδ2−Jδ2−Cδ
成熟期 多様性 腸管、ほかのリンパ組織

固体発生が進むとαβT細胞群が圧倒的に多くなり、95%を占めるようになる。また、この結果γδT細胞は抗原特異性の異なる多様なTCRを発現するようになる。そのほとんどが末消リンパ組織に存在する。
 このように、体表面の上皮組織のγδT細胞は多様性に乏しい細胞集団として存在し、病原体に感染した細胞が発現する自己タンパク質を認識して細胞障害性反応で排除し、感染を防ぐと考えられている。


一方、γδT細胞のなかには、ミコバクテリア菌の熱ショックタンパク質や菌体の非タンパク質成分などに反応するものがある。
熱ショックタンパク質は環境温度が上昇すると、細胞が合成をはじめる一群のタンパク質の総称である。熱ショックのほかに、病原体の感染、紫外線、ある種の化学物質などによっても熱ショックタンパク質の合成が誘導されるので、ストレスタンパク質ともよばれる。
熱ショックタンパク質は、原核生物から高等真核生物まで広く生物界に分布しており、その構造もよく似ている。
 上皮組織のγδT細胞の多くは、CD8T細胞であるが、、通常のCD8分子がα鎖とβ鎖のヘテロ二量体であるのに対してこのCD8分子はα鎖のホモ二量体であるものが多い。γδT細胞は固体発生の初期に生成し、その抗原特異性は限られていて体表面の防御に働くことから、次に述べるCD5+B細胞ととに、免疫システムの発生の過渡的な段階の原始免疫系の細胞である可能性が大きい。
CD5+B細胞
 腸管関連リンパ組織のB細胞には、バイエル板由来の通常のB細胞と、腹腔と共通のプールを形成している粘膜固有層のCD5+B細の二つの系統が存在する。すでに述べたように、通常のB細胞は抗原刺激を受けるとIgA抗体を産生するようになる。
CD5+B細胞は固体発生の初期に幹細胞から出現し、体腔内に移行する。ところが、固体が成長すると骨髄幹細胞から生成しなくなり、自己複製で増殖するようになる。
CD5+B細胞の抗原レセプターは膜結合IgMであるが、その抗原特異性は通常のB細胞のものにくらべると著しく低い。CD5+B細胞は抗原刺激を受けると、ヘルパーCD4T細胞に依存せずにIgM抗体を産生する。
この抗体は細菌の多糖類や二本鎖のDNAなどに対してつくられるが、抗原特異性は低く、複数の抗原エピトープに結合する他特異性を示す。
 CD5+B細胞はいくつかの点でγδT細胞に似ている。ともに固体発生の早期に出現し、多様性の少ない抗原レセプターは発現し、末梢組織で自己複製する。

表11-2 二つの粘膜免疫システム
特徴 原始免疫システム 高度免疫システム
細胞 γδT細胞 αβT細胞
B−1細胞 B−2細胞
T細胞の起源 胸腺外 胸腺内
B細胞の起源 骨髄外 骨髄内
B細胞の自己増殖性 + -
B細胞の反応性 多特異性、低親和性 特異性、高親和性

したがって、両者とも進化の過程で最初に原始動物に出現し、γδT細胞は体表面の防御に、CD5+B細胞は体腔の防御に働くのであろう。
実際に、通常のB細胞は両生類以降にしか見られないが、CD5+B細胞は魚類からすでに存在する。この考えによれば、消化管には二重の免疫システムがあり、”原始免疫システム”と”より高度に発達した免疫システム”の二つのシステムが機能していることになる。


病原体による免疫の変調
1 免疫システムに抵抗する病原体
 ヒトを含めた動物は病原体の侵入に対して、抗原非特異的および抗原特異的防御反応によって防御する。この防御が効果をあげると、病原体は排除されて不顕性感染に終わるが、たとえ発病しても治癒する。
しかし、古代から人類は病原体による感染症に悩まされてきた。伝染力の強い細菌の大流行によって、その地方の人口の半数近くが犠牲になったことも珍しくない。しかし、19世紀後半になると多くの伝染病の原因病原体が分離・同定されるようになった。
これにともなって、多くの研究者によって免疫機能の存在が見つけられ、この機能を利用した伝染病の阻止手段が効果をあげてきた。
さらに、化学療法剤や抗生物質がみつかるにつれて、感染症を克服したかのように思えた。
たしかにジフテリア、コレラなどの毒力の強い伝染病の予防と治療には成功したが、宿主側の防御因子を障害したり、その作用を回避する病原体による感染症の予防と治療が現在解決すべき課題となっている。とくに、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染による後天性免疫不全症候群すなわちエイズなどの新たな感染症の対策を立てることが免疫学の使命となっている。
 病原体のなかには正常な免疫システムが働いても持続感染したり、有効な免疫応答を誘導しないものがある。そのなかには、頻繁に抗原を変異して免疫システムによる排除を回避する病原体や、宿主の免疫システムの働きが低下するまで増殖を停止して持続感染する病原体がある。また、宿主の免疫システムに抵抗したり、かえって攻撃するものもある。一方、免疫システムの働きが発病に直接かかわるものもある。このような病原体の感染の予防と治療には、病原体の生態や毒力と宿主の防御力との関係を明らかにしなければならない。
2 抗原を変えて逃げまわる
 病原体が宿主の免疫システムの監視を逃れて感染して増殖する手段の一つは、自分自身の抗原特異性を変えることである。
抗原変異による宿主の免疫システムからの回避の例はインフルエンザウィルスで見られる。
このウィルスは表面抗原タンパク質の抗原特異性の変異は、このタンパク質をコードする遺伝子の点突然変異による。この抗原変異は抗原ドリフト(antigenic drift)とよばれ、このために宿主はすでにもっている抗体が作用できず、新たな変異ウィルスに感染する。



さらに悪いことには、インフルエンザの大流行の際には、抗原シフト(antigenic shift)とよばれる、点突然変異により大きな変異が表面抗原タンパク質に起こる。この大流行では、ヒトと動物のインフルエンザウィルスが同一の動物宿主に二重感染して、ウィルス間に遺伝子の組換えが起こり、新しい遺伝子をもつウィルス人間界に出現すると考えられている。この新ウィルスはもとのウィルスに体する抗体と反応しないので、重い感染症が流行する。 
 極端に抗原特異性を変えるしくみを備えているために、免疫システムにとって難敵となるのはトリパノソーマである。
この原虫はおもにアフリカの睡眠病の病原体である。昆虫に寄生し、ヒトに感染すると睡眠病を引き起こす。トリパノソーマは変異型特異的糖タンパク質とよばれる単一の糖タンパク質で覆われている。これに感染すると、この糖タンパク質に対する抗体が産生されて排除される。しかし、残った一部の原虫は変異型特異的糖タンパク質の抗原型を変化させて増殖して再発を繰り返す



つまりトリパノソーマは100種類以上の変異型特異的糖タンパク質の遺伝子をもっているので、次々と異なる遺伝子を発現して、抗原構造の異なるタンパク質をコードし、抗原特異性を変えることができる。そのために、この病原体は免疫システムによって排除されにくい。
3 ずる賢いウィルス
 一般に、急性ウィルス感染症を引き起こすウィルスは急速に増殖するので、感染細胞はT細胞によって容易に認識される。これにより、新たな細胞への感染を抑制する抗体や感染細胞を障害するCD8T細胞が生成してウィルスの増殖を阻止する。
しかし、持続性ウィルス感染症を引き起こすウィルスのなかには、遺伝子の転写が不活発であり、潜伏状態となるものがある。この状態では、ウィルスは症状を誘発しないが、排除されないので感染が持続する。そして宿主の生理的状態が変化すると、増殖を開始して病気を発症させる。このようなウィルスにヘルペスウィルスがある。
 顔面ヘルペスの原因である単純ヘルペスウィルスは上皮細胞に感染し、ついで感染領域を知覚神経へ伝播する。免疫応答によって上皮細胞の感染が抑制されると、ウィルスは知覚神経細胞に潜伏状態で感染を持続する。宿主の生理的状態が変わると、ウィルスは再活性化して知覚神経軸索を移行し、上皮細胞に再感染する。こうして、ウィルスの上皮細胞での再感染と阻止が何回も繰り返される。
知覚神経細胞に感染したウィルスが排除されないのは知覚神経細胞の主要組織適合抗原(MHA)クラスT分子の発現量がきわめて少ないことと、ウィルスが神経細胞中では無活動であってウィルスタンパク質をほとんどつくらないことによる。このためにCD8T細胞が感染細胞を認識して排除するのが難しい。
 B型肝炎ウィルスは、感染細胞が免疫システムによってなかなか排除されず、感染細胞が排除されるときに肝炎が発症する。輸血などでB型肝炎ウィルスの感染を受けた人はウィルスを速やかに排除するが、一部の人は60日以上の潜伏期の後に急性肝炎を発症する。B型肝炎ウィルスは増殖しても肝細胞をあまり障害しない。
肝炎はウィルスの作用による肝臓の障害ではなく、ウィルス感染細胞を認識した細胞障害性T細胞による障害が主体なのである。したがって、感染肝細胞の犠牲によってウィルスは排除されることになる。
しかし、この障害反応が不十分であると、ウィルスの持続感染または慢性肝炎になる。逆に障害反応が激しいと、劇症肝炎とよばれる重い症状が現れる。持続感染の母親から生まれ、出生時の産道によって感染した新生児では、標的組織となる肝臓でウィルスは増殖するが、感染幼児は無症状である。そして何らかの変化でウィルス感染細胞に対する細胞障害性T細胞の生成が誘導されると、肝炎の症状が現れる。
現在では、抗体とワクチンの投与が治療に効果を挙げている。
 4 病原体は免疫システムを乱す
 病原体のなかには正常な免疫システムの働きを障害するものもある。この障害反応の因子に、スーパー抗原(superantigen)やグラム陰性細菌の内毒素などがある。これらの毒素は免疫学の研究の有用な試薬となっている。
スーパー抗原
MHAクラスU分子はペプチドを結合する溝に抗原エピトープを特異的に結合してCD4T細胞に提示する。一方、細菌、ウィルスなどの抗原のなかにはスーパー抗原とよばれる抗原を産生して、CD4T細胞の働きを変えて、免疫システムを撹乱するものがある。
スーパー抗原は通常の抗原エピトープのペプチドと異なる機構でクラスU分子とT細胞レセプター(TCR)に結合する。このとき抗原提示細胞による処理を受けることなく、クラスU分子のペプチドを結合する溝から離れた外側の部分と、TCRのβ鎖の相補性決定部(CDR)から離れたV領域(Vβ)に橋渡しするように結合する。


すなわち、その特異性はTCRのα鎖のV領域やβ鎖のDJ結合部とは無関係でVβによって決まる。しかも、ある一つのスーパー抗原は複数のVβに結合できる。そのために、1種類のスーパー抗原が全CD4T細胞の2〜20%を活性化できる。その結果、スーパー抗原を産生する病原体に感染すると、病原体に特異的な免疫応答は起こらず、活性化した多数のCD4T細胞による多量のサイトカインの産生のために全身の障害と特異性免疫応答の抑制が起こる。
また、活性化したCD4T細胞は増殖した後でアポトーシスを起こして消滅するため、スーパー抗原は多くのCD4T細胞を消滅させることによっても全身性の免疫抑制えお誘導する。スーパー抗原には、ブドウ球菌の腸管毒素やA群連鎖球菌の外毒素などがある。
グラム陰性細菌の内毒素
グラム陰性細菌の細胞壁成分のリポ多糖は内毒素とよばれ、多彩な生物作用を示し、毒素として働く。

表12-1 内毒素(リポ多糖)の作用
生体 細胞
致死作用(ショック) B細胞の活性化
発熱 マクロファージ、多形核白血球の活性化
急性期タンパク質の産生 血管内皮細胞の障害、活性化
アジュバント作用 補体系の第二経路による活性化
血液凝固 血小板凝集

内毒素の構造は菌の種類によって異なるが、基本的にO多糖、Rコア、リピドAとよばれる三つの部分からなる。

内毒素の毒性や活性はリピドAの作用による。内毒素はさまざまな細胞に作用するが、とくに単球とマクロファージに働いてサイトカインを産生させ、B細胞を活性化する。内毒素を微量投与すると、マクロファージを活性化して感染に対する防御効果を非特異的に高めたり、一緒に投与した抗原にたいする抗体産生を増強する。
また、内毒素は補体系を活性化したり、急性期タンパク質の産生を誘導して炎症を引き起こす。このように、内毒素は宿主に有利に働くこともある。
 しかし感染症では内毒素は障害的に働く。多量の内毒素にさらされたからだは過剰のIL−1やTNF−αなどのサイトカインを産生し、補体系や血液凝固系を著しく活性化するので、激しい炎症や血管凝固が起こり、内毒素(エンドトキシン)ショックなどの危険な状態を誘発する。とくに、内毒素が血流に乗って全身に広がると、全身のマクロファージからTNF−αが分泌され、血管拡張と血管透過性の亢進が起こってショック状態になる。米国では、年間30万人が敗血症にかかり、その40%前後がショックに陥るという。
 なお、グラム陰性細菌は感染だけに限らず食物中に混入したり、消化管などに常在していて、生体防御系と複雑に絡みあって平衡状態にある。
しかし、グラム陰性細菌になかには、消化管内の内毒素のほかに強力な毒素を細胞外に産生して伝染病や著しい感染症の病因になるものがある。
その代表的なものが集団食中毒の原因細菌のO157血清型病原性大腸菌と法定伝染病の赤痢菌である。大腸菌には病原性因子をもつ菌株や病原性のない、からだのなかに常在する菌株などいろいろなものがある。O157血清型病原性大腸菌は血清型(抗原型)からO157と分類された。ベロ毒素を産生する菌株である。この毒素は志賀毒素様毒素ともよばれ、志賀潔が世界ではじめて発見した赤痢菌である志賀赤痢菌が産生する志賀毒素とよく似ている。そして出血性大腸炎と溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こす。
5 抑えられた免疫応答
 ある種の病原体は宿主の免疫応答のタイプを偏向させて持続感染する。ライ菌によるライ病には、類結核型、ライ腫型とよばれる二つの病型がある。類結核型ライ病では、活性化マクロファージによる細胞性免疫によって感染した細胞は完全に排除されないが、感染は抑制される。一方、ライ腫型ライ病では、細胞性免疫は低下し、多数のライ菌の感染が見られ、いろいろな抗原に対する免疫応答が抑制される。また、類結核型ライ病ではT1細胞が優勢で、IL−2、IFN−γの産生が盛んであるが、ライ腫型ライ病ではT2細胞が優勢で、IL−4、IL−5、IL-10が産生される。しかし、このようにT1細胞とT2細胞の一方が優勢になる機構や個体によって応答が異なる理由はまだわかっていない。

難治病の原因は何か?

自己免疫疾患の例
疾患 自己抗原 症状
臓器特異性疾患
自己免疫性溶血性貧血 赤血球 補体系や貧食細胞による赤血球の破壊
グレーブス病(バセドウ病) TSHレセプター 甲状腺機能亢進
原発性粘液水腫 TSHレセプター 甲状腺機能低下
重症筋無力症 アセチルコリンレセプター 進行性脱力
インスリン抵抗性糖尿病 インスリンレセプター インスリンの作用不全
リウマチ熱 心筋とA群溶連菌の共通抗原 心筋炎
インスリン依存性糖尿病 β細胞の抗原 β細胞の破壊
多発性硬化症 ミエリン塩基性タンパク質 まひ
全身性疾患
全身性エリトマトーデス DNA、ヒストン、リゾソーム 糸球体腎炎、血管炎、関節炎
慢性間接リウマチ 滑膜抗原 関節炎、関節破壊
強直性脊椎炎 関節、脊椎の組織抗原 関節炎、脊椎炎

上の表にあるように糖尿病も自己免疫疾患なのです。さらに、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)も自己免疫疾患なのです。

自己免疫応答とは自分のからだの構成成分に対する免疫応答であって、結果として自己反応性のエフェックターT細胞や抗体が生成する。自己反応性抗体の一部は破壊された細胞や組織の処理に生理的役割をはたしているという考えがある。しかし、多くの自己免疫応答は重い自己免疫疾患を発症することから認識されている。
免疫学の発足してまもない頃、P.エーリリッヒは正常な個体では自己成分に対する免疫応答は起こらず、もし起これば重いからだの障害を招くとして自己中毒忌避説(horrorautotoxicus)を提唱した。自己免疫疾患は自然発症し、緩慢に進行するので、発症の引き金は明らかではなく、いろいろな説が提案されている。
実験動物では、アジュバント(抗原と混合して投与すると免疫応答を増強する物質)を用いて自己の組織やタンパク質で免疫すると、実験的自己免疫疾患が発症するので、自己免疫疾患が自己抗原に対する免疫応答によって起こることを示している。
難冶病といわれていた疾患の多くが原因の解明とともに自己免疫疾患であることが分かり、50種以上の自己免疫疾患が見つかっている。欧米では成人の数%が自己免疫疾患を発症し、その3分の2が女性であるといわれる。
本来、免疫システムは自己成分に対する免疫応答を誘発しないように制御されているはずであるが、このしくみが変調をきたすと、自己免疫疾患が発症する。この変調の原因として、正常な環境では活性化しない、いわゆる免疫学的無視(immunological ignorance)の状態にあるリンパ球のうち、とくにT細胞が状況の変化によって活性化すると自己免疫疾患が発症すると考えられている。自己免疫疾患と裏腹の関係にあるのががん(腫瘍)免疫である。
体の中では、絶えず細胞が分裂・増殖しており、この細胞分裂でエラーが起こり、変異した異常な細胞が出現する危険に常にさらされている。この異常な細胞を排除するのも免疫システムが働くという。この考えによれば、免疫システムの生体監視機能の監視の目をくぐり抜けたり、打ち勝って増殖したのががん細胞であることになる。
一方、メラメーマ(悪性黒色腫)などの一部のがんでは、正常な細胞にも発現している抗原タンパク質に対する細胞障害性T細胞が作られ、がん組織に浸潤していることが証明されている。この反応は広い意味で自己免疫応答である。
しかし、がん細胞に対する免疫応答が起こってもがん細胞を完全には排除できないので、結果的にはがん細胞の持続的増殖を許すこととなる。
自己免疫疾患はT細胞の自己抗原との反応から始まると考えられている。そしてT細胞とマクロファージの過剰の活性化が組織の障害を招き、ヘルパーT細胞の活性化が組織を障害する抗体を作り出す。細胞を障害するエフェクターT細胞と抗体のどちらかが病態の亢進に働いているのか明らかでない疾患が多い。
自己免疫疾患は臓器特異的自己免疫疾患と全身性自己免疫疾患に大別される。臓器特異性自己免疫疾患では、T細胞またはB細胞が反応する自己抗原が特定の臓器に限定されて、病変はおもにその臓器にのみ起こる。
全身性自己免疫疾患では、いろいろな臓器や組織にある自己抗原にT細胞やB細胞が反応して、多くの臓器や組織に病変が起こる。障害の機構の面から見ると臓器特異性自己免疫疾患は、特異的な抗体あるいは細胞障害性T細胞による細胞または組織の障害であって、U型あるいはW型アレルギーと同じ仕組みで発症する。
一方、全身性自己免疫疾患の多くは生成した自己抗原の免疫複合体が臓器や組織に沈着して障害し、V型アレルギーと同じ仕組みで発症する。なお、この2つのグループの中間的な性格の疾患もあり、複合型自己免疫疾患と呼ばれる。

自己反応性抗体による臓器特異的疾患の例
自己免疫性溶血性貧血は自己の赤血球上の抗原に対して抗体が産生されて、赤血球が破壊されることによって発症する。
グレーブス病(Graves'disease)はバセドウ秒の別名で、甲状腺細胞上の甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone;TSHと略)レセプターに対して自己抗体が産生され、レセプターを絶えず刺激して過剰の甲状腺ホルモンをつくらせる。

甲状腺ホルモンはフィードバック機構によって過剰につくられないように制御されているが、自己抗体によって刺激されると、この制御機構が働かないので甲状腺機能亢進症を発症する。また、同じTSHレセプターに対する自己抗体ではあるが、TSHのTSHレセプターへの結合を阻害する自己抗体が産生される症例がある。この場合には、原発性粘液水腫とよばれる甲状腺
機能低下症を発症する。
 
重症筋無力症は神経節結合部にあるアセチルコリンレセプターに対する自己抗体の産生で発症する。

筋肉はそのアセチルコリンレセプターに神経末端から分泌されるアセチルコリンが結合することによって収縮する。このレセプターに対する自己抗体が産生されると、アセチルコリンの結合の阻害、レセプターの細胞内への取り込みの促進、レセプターの貧食細胞による破壊などが起こり、神経伝達が遮断される。そのため、進行性の脱力が起こる。
 インスリン抵抗性糖尿病はインスリンを注射しても高血糖を下げることができない糖尿病である。これは脂肪細胞などの表面にあるインスリンレセプターに対する自己抗体が産生され、インスリンとレセプターとの結合を阻害するので、インスリンが作用できない疾患である。
 自己反応性T細胞による臓器特異的疾患の例
インスリン依存性糖尿病は膵臓のランゲルハンス島(膵島)のインスリン産生β細胞が特異的T細胞によって選択的に破壊されるために発症する。この破壊はCD8T細胞によると考えられている。ただし発症の際に、血中に膵島細胞の原形質や細胞表面の抗原に対する抗体もつくられので、抗体も一部発症に関与するものといわれている。
 多発性硬化症は脳や脊髄の神経細胞軸策を取り囲んでいる随鞘の構成成分のミエリン塩基性タンパク質に対する特異的T細胞が生成して、脳や脊髄を障害する疾患である。
全身性疾患の例
 全身性エリトマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLEと略)は代表的な全身性自己免疫疾患である。この患者では、細胞の核のいろいろな構成成分に対する自己抗体の存在が証明されている。この自己抗体は抗核抗体と総称されるが、抗原はDNA、ヒストン、リポ核タンパク質などである。一般に、細胞の破壊にともなって遊離される抗原に自己抗体が結合して生じる免疫複合体は、Fcレセプターや補体レセプターを介して貧食細胞によって排除される。しかし、全身性自己免疫疾患では、大量の免疫複合体が持続的に生成するので、排除されずに腎臓の糸球体や関節の小血管壁などに沈着して腎炎、関節炎、血管炎などの全身的な障害を引き起こす。
 慢性関節リウマチは炎症性CD4T細胞による自己免疫疾患と考えられている。自己反応性CD4T細胞が関節内抗原と反応して炎症性サイトカインを産生し、関節の腫張、多形核白血球やマクロファージの浸潤、軟骨への障害、関節構造の破壊を誘発する。しかし、この病因はきわめて複雑で、リウマチ因子とよばれる自己抗体も関与する。リウマチ因子は変性した自己にIgGに対する抗体であり、IgM、IgG、IgAクラスのものがあるが、とくにIgM抗体が多い。また、障害の一部は免疫複合体の生成が原因となる。
 3 発症感受性を左右する因子
 自己免疫疾患は自己成分に対するT細胞の反応によって誘発されるとすれば、自己免疫疾患の発症感受性は遺伝因子、とくに主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の遺伝型に相関することが考えられる。ある特定のMHCをもつ系統のマウスは特定の自己免疫疾患を自然発症する頻度が高く、また実験的自己免疫疾患を発症しやすい。また、ヒトの多くの自己免疫疾患の発症が主要組織適合抗原(MHA)と相関するおとが認められている。

表13-2 HLA遺伝型と自己免疫疾患の感受性との相関
疾患 HLA型 相対危険度 女;男の比
強直性脊推炎 B27 90 0.3
多発性硬化症 DR2 4.8 10
グレーブス病 DR3 3.7 4〜5
重症筋無力症 DR3 2.5 1
全身性エリトマトーデス DR3 5.8 10〜20
インスリン依存性糖尿病 DR36,DR4 3.2 〜1
慢性関節リウマチ DR4 4.2 3

もっとも高い相関が見られるのは強直性脊椎炎とよばれる慢性関節リウマチに似た疾患で、関節や脊椎の障害と強直が生じる。この疾患の発症感受性はMHAクラスT分子のHLA−B27ときわめて高い相関を示す。患者の80〜90%がHLA−B27をもっているが、健康な人でのHLA−B27の出現頻度は欧米で4〜8%、にほんは約1%しかない。HLA−B27には、7種の抗原型があり、そのうちの一つのHLA−B2703を除いた6種の抗原型と発症感受性が相関する。相関を示すHLA−B27の構造をほかのHLAクラスT分子のものと比較すると、特徴的なアミノ酸残基の存在が認められる。抗原ペプチドを結合する溝のなかに存在するLys70、Asn97とHis9,Glu45、Cys67、Ala69,Ala71の共通した7残基があり、この共通した構造が発症に関わる抗原ペプチドを結合して、特異的CD8T細胞に提示し、発症を誘発すると推定されている。

 ラットにヒトのHLA−B27とβ2ミオグロビン(β2m)の遺伝子を導入して、ヒトHLA−B27とβ2mからなるクラス1分子を発現させた遺伝子導入ラット(transgenic rat)のなかに強直性脊椎炎によく似た症状を自然発症するものがいる。すべてのラットが発症するわけではないので、ほかの因子の関与も否定できないが、HLA−B27がこの発症感受性に関与する因子である可能性を支持している。
 4 免疫システムの働かない場所
 免疫システムと隔離されたからだの部分は免疫特権部位とよばれ、眼や脳などがある。免疫特権部位の抗原は隔離抗原ともよばれる。これらの部位に器官に特有な抗原が、外傷やウィルス感染などによって免疫システムに露出されると、自己免疫応答がはじまり、発症することがある。たとえば、交感性眼炎という眼の病気がある。片眼が物理的襲撃によって破裂したり、傷ついたりすると、眼のタンパク質に対してT細胞が応答するので、他方の眼にも病変を誘発する。ここで働くT細胞は健康人にもあるが、抗原と隔離されているため発症しない。 多発性硬化症も免疫特権部位の脳や脊髄にあるミエリン塩基性タンパク質(myelin basic protein:MBPと略)に対してT細胞が応答
することから発症する。この病変は中枢神経系の白質中の血管のまわりへのT細胞やマクロファージなどの浸潤と組織の変性が見られ、神経機能の欠陥をともなう。また、MBPに特異的な活性化T細胞が患者に存在することも認められている。この疾患は、多発性硬化症によく似た動物疾患モデルの実験的アレルギー性脳髄膜炎(experimental allergic encephalomyelitis:EAEと略)で発症のしくみが群細に研究されている。EAEは狂犬病の予防接種の副作用として、まれに脳脊髄炎が起こることから見つかった。最初は狂犬病ウィルスによると考えられたが、ワクチンの製造に用いられた異種動物の神経組織っがワクチンに含まれていて、それに対する免疫応答が原因であって、MBPが抗原として働くことが証明された。
MBPはミエリンの構成成分で、ミエリン膜内に埋もれており、約170個のアミノ酸からなる塩基性の強いタンパク質である。動物種が異なってもMBPの構造はきわめてよく似ている。動物をフロインド完全アジュバントを用いてMBPで免疫すると、EAEを発症する。EAE発症感受性は動物種や系統によって異なり、MBPのEAEを発症させるペプチドすなわち起炎エピトープも動物種や系統によって異なる。


このことは、EAEの発症がMHAクラスU分子の遺伝型などの遺伝因子に相関することを示している。ヒトの多発性硬化症では、MHAクラスU分子のDRとDQに相関が見られる。
 MBPあるいはその起炎ペプチドで免疫したマウスから得られるMBP特異的CD4T細胞を同じ系列の正常マウスに移入すると、EAEを発症する。このT細胞のクローンはT1タイプの炎症性CD4T細胞であり、MBP特異的T1細胞が抗原刺激によって活性化して発症しはじめ、マクロファージを活性化して障害すると考えられる。ナイーブT細胞は血液と脳を隔離している血液脳関門を通過できないが、活性化T細胞は通過できるので、活性化したMBP特異的CD4T細胞は脳へ移行してミエリン膜に作用して障害する。


これらの研究からMBP特異的CD4T細胞は正常動物にも存在するが、免疫学的無視の状態にあると推定される。
 EAEの病態の進行にともなってMBPのいろいろなエピトープに対してT細胞が応答するようになる。マウスをMBPの特定の一つの抗原エピトープのペプチドで免疫してEAEを発症させると、MBPのほかの抗原エピトープに対しても別のT細胞が応答できるようになり、脳組織の障害を亢進する。


この現象は分子内エピトープ拡散とよばれる。ある一つのT細胞クローンが自己抗原分子の一つに応答して活性化すると、同じ抗原分子上のほかのエピトープに反応するT細胞が免疫学的無視の状態から脱して応答できるようになると説明できる。このような現象は異なる抗原分子間でも認められ、分子間エピトープ拡散とよばれる。MBPで免疫して発症したEAEでも、同じミエリン膜の構成成分であるプロテオリピドタンパク質に特異的なT細胞が、しだいにこのタンパク質に反応できるようになって活性化され、障害するように働く。この二つの現象のために、自己免疫疾患の発症を始動するT細胞とその特異的抗原エピトープを同定することはきわめて困難となる。
一方、すべてのT細胞がMBPの起炎ペプチドに特異的なT細胞レセプター(TCR)を発現するように、このTCRの遺伝子を導入した遺伝子導入マウスがつくられた。このマウスを無菌状態で飼育すると、EAEは発症せず、MBPで免疫するとEAEを発症する。しかし、無近状態ではなく通常の環境で飼育すると、MBPで免疫しなくてもEAEを自然発症するようになる。このことから、免疫学的無視の状態にあるMBP特異的CD4T細胞がEAEの発症を誘発するには、抗原との反応以外にほかの環境因子も関与することがわかる。
 多発性硬化症では、免疫学的無視の状態にあるMBP特異的CD4T細胞は、どんな機構で活性化して脳へ移行して障害するのだろうか、このT細胞の活性化は、脳からわずかな量のMBPが血液中に漏れ出して免疫システムにとって認識される、あるいは、微生物感染によるスーパー抗原やMBPの起炎ペプチドによく似た構造をもつ抗原との接触によって活性化するなどの機構が考えられる。自己抗原が免疫応答を始動するには、そのものが存在する組織の局所にある抗原提示細胞によって提示されなければならない。脳では小膠細胞(microgliql cell)とよばれるマクロファージ系の細胞が、MHAクラスU分子を発現している。また多発性硬化症の炎症部位には、補助刺激分子のB7−1やB7−2が発現しているので、脳内に移行したMBP特異的CD4T細胞は脳組織に反応してエフェクター細胞となって炎症を引き起こすことができるのであろう。
 5 補助刺激分子の必要性
 前述したように、補助刺激分子を発現しているプロフェショナル抗原提示細胞のみが、T細胞の活性化や増殖を開始させることができる。補助刺激がないと、抗原を認識してもナイーブT細胞はアネルギーとなる。したがって自己免疫応答は、補助刺激分子をもつ抗原提示細胞が組織特異的抗原を取りこみ、抗原として提示することからはじまると考えられる。
 インスリン依存性糖尿病では、膵臓のインスリン産生β細胞が細胞障害性CD8T細胞によって破壊されているので、このT細胞が認識する抗原は、β細胞だけに発現しているタンパク質と考えられる。リンパ球性脈絡髄膜炎ウィルスの核タンパク質の遺伝子を導入して、β細胞に選択的に核タンパク質を発現させた遺伝子導入マウスをつくっても、糖尿病にはならない。しかし、ウィルスを感染させると、遺伝子導入マウスは糖尿病になる。これはβ細胞に発現している核タンパク質は特異的CD8T細胞を活性化できないが、ウィルスの構成成分としてのプロフェショナル抗原提示細胞によって提示されると、細胞障害性CD8T細胞をつくってβ細胞を破壊するからである。
6 病原体が自己免疫疾患を引き起こす。
 自己免疫疾患を発症しやすい人が何らかの微生物に感染すると、感染が糸口となって自己免疫疾患が発症することがEAEの研究によって推定される。これとは別に、分子凝態(molecular mimicry)とよばれるしくみが考えられる。これは病原体に対して反応した抗体やT細胞が病原体の抗原とよく似た構造の自己抗原と交叉反応して、自己免疫反応を起こすことがある。たとえば、A群β溶血性連鎖球菌に感染した後で、リウマチ熱を発症することがある。これは溶連菌の抗原に対して産生された抗体が、心筋組織の成分と交叉反応することによって発症すると指摘されている。また、ウィルス感染自体が自己免疫疾患の発症を誘発するともいわれている。たとえば、レトロウィルスなどのウィルスは宿主側のいろいろな遺伝子の活性化を引き起こすことがあり、自己免疫疾患の原因や修飾因子として働く可能性が指摘されている。
7 SLEでの自己抗体群の産生
SLEでは、ヌクレオソームやリボソームの多くの構成成分に対して抗体がつくられる。なお、ヌクレオソームは染色質(クロマチン)の繊維状構造を構成する。直線状につながったビーズ状の単位構造体をいい、DNAやヒストンと複合体をつくっている。SLEでは、どんなしくみで自己の細胞粒子を構成する多数の成分に対して一群の自己抗体がつくられるのだろうか。これは次のように考えられている。もし、これらの細胞粒子の多数の構成成分のうちの一つの成分分子の特定の抗原エピトープに特異的な自己反応性ヘルパーCD4T細胞さえ存在すれば、多数の構成成分に特異的な一群の自己反応性B細胞の分化・増殖を誘導でき、一群の自己抗体をつくることができる。つまり、B細胞の抗原提示細胞として抗原粒子を取りこんで抗原エピトープを提示するならば、B細胞は自身のsIgの抗原特異性にかかわらず、抗原粒子のすべての抗原エピトープをT細胞に提示できるのである。


たとえば、ある患者にヌクレオソームの一つのエピトープAに特異的なヘルパーCD4T細胞が存在すれば、ヌクレオソーム複合体に存在する抗原エピトープを認識するB細胞群はそれぞれの抗原エピトープ特異性にかかわらずに、すべてがこのCD4T細胞にエピトープAを提示し、活性化する。こうして活性化されたCD4T細胞はエピトープを提示したすべてのB細胞を活性化して抗体を産生させる。したがって、一つの自己反応性ヘルパーT細胞クローンがヌクレオソーム複合体と反応すると、その構成成分に反応する多様な自己抗体がつくられることになる。
8 自己免疫疾患に関わる因子
 自己免疫疾患の発症の引き金と病態を形成するしくみに関するいくつかの説を述べたが、その他に多くの説が提案されている。MHC以外の遺伝的素因が自己免疫疾患の発症にかかわることが、自然発症する実験動物のゲノム(DNAからなる完全な1セットの遺伝子)の解析から示唆されている。たとえば、インスリン依存性糖尿病を発症するマウスでは少なくとも2個の非MHC遺伝子が、またSLEを発症するマウスでは数個の非MHC遺伝子が、発症感受性に関与すると推定されている。遺伝的素因とはいえないが、自己免疫疾患の患者には女性が男性にくらべて著しく多い。これは女性ホルモンが発症感受性を高めることを示している。
 また、多発性硬化症でのMBPのような隔絶抗原とは別に”隠れたエピトープ(cryptic epitope)”の説がある。このエピトープは隔絶抗原を含めた一般の自己抗原のエピトープであって、正常な抗原提示の過程では提示されないとする。この隠れたエピトープが免疫応答をはじめる機構としては、次のような可能性が指摘されている。正常な場合は免疫応答を誘導するほど十分な量で提示されないエピトープが多量に提示されるようになる。普通は抗原を提示しない細胞がMHAクラスU分子や補助刺激分子を発現して抗原を提示するようになる。抗原提示細胞中のプロテアーゼが変化して新たなペプチドを提示するようになる。自己抗原の構造が変化する。そのほかに、スーパー抗原による自己反応性T細胞の活性化、CD4T細胞のTH1細胞とTH2細胞への活性化のバランスの変動、アポトーシスの変調による自己反応性T細胞や自己反応性B細胞の生成などの可能性がある。
9 がんんと免疫
 がん細胞に免疫応答は起こるだろうか。もし起こるならば、なぜふがん細胞は増殖し続けるのだろうか。この疑問に答えるために、がん細胞の抗原性が研究されてきた。まだ十分な回答は得られていないが、いくつかのがん細胞は抗原エピトープとして働くペプチドが見つかっている。マウスのLwewis肺がん細胞を障害するCD8T細胞が分離されている。この障害反応で認識される抗原エピトープは8個のアミノ酸からなり、正常細胞のコネキシン37とよばるタンパク質の52番から59番までのペプチドに相当する。ただし、54番目のシステイン残基がグルタミン酸残基に変異していて、変異していない正常細胞由来のペプチドは抗原を提示するMHAクラスT分子には結合しない。これは突然変異によって新たに生じたエピトープに対して免疫応答が誘導された例である。
 あるHLA−A2のメラメーマ患者のがん組織に浸潤したCD8T細胞のなかの一つのクローンは、HLA−A2メラメーマ細胞上の抗原エピトープを認識して細胞障害活性を示す。このエピトープはgp100とよばれるタンパク質の457番から486番までのペプチドである。gp100をコードする遺伝子はメラメーマ、メラノサイト、網膜にのみ発現する。この細胞障害性CD8T細胞の活性化の機構は明らかではないが、このT細胞とIL−2を同じ患者に投与すると、メラメーマの退縮がみられるので、がん細胞拒絶抗原であると考えられている。
 このようにがん細胞に対して免疫応答が認められる例もあるが、それにもかかわらずがん細胞は増殖する。おそらく、がん細胞がいろいろなしくみで免疫システムの攻撃を回避するためだろう。


免疫不全とモデル動物
1 免疫不全とは
 免疫不全とは免疫システムの複雑なしくみのいずれかの過程に欠陥があって、免疫システムがうまく働かないことをいう。免疫不全は免疫不全症とよばれる疾患を発症する、免疫不全症は多種多様な症状を表す一群の疾患であるが、その特徴の一つは感染症にかかりやすいことである。また、免疫不全の人や動物は、がんの発生率が高く、自己免疫疾患を発症しやすいといわれる。免疫不全症は遺伝的欠陥から生ませつき免疫システムに障害がある原発性(先天性)免疫不全症と、もともと免疫システムは正常であったが、その後障害を受けて発症する後天性(続発性)免疫不全症の二つのグループに分けられる。放射線被爆による障害やエイズは後天性免疫不全症に含まれる。
 免疫不全はマウスで群細に研究され、ヒトの免疫不全症の病因の研究とともに免疫システムの解明に貢献している。そのため、さまざまな免疫不全症を発症するマウスの系統が確立されている。さらに、特定の遺伝子を生殖細胞に導入して遺伝子導入(トランスジュニック)マウスを作製したり、反対に特定の遺伝子を選択的に破壊する遺伝子ターゲティング(gene-targeting)によって遺伝子ノックアウトマウスが作製されている。これらも広い意味で免疫不全マウスであり、免疫システムや免疫不全症の研究には不可欠な存在となっている。
2 遺伝子の欠陥による免疫不全
免疫システムのどの過程に遺伝子欠陥があるかによって、原発性免疫不全症は原発性特異免疫不全症、原発性貧食機能異常症、原発性補体欠損症などがあげらる。原発性特異免疫不全症には、B細胞−体液性免疫系の欠陥、T細胞−細胞性免疫系の欠陥、あるいはその両方の欠陥による不全症がある。

表14--1 原発性免疫不全症の例
疾患 原因
原発性特異免疫不全症
重症複合免疫不全症 T細胞、B細胞の欠損または障害
伴性劣性無γグロブリン血症 B細胞欠損
胸腺無形成症 T細胞欠損
高IgM症候群 クラススィッチ障害
選択的IgA欠損症 IgA欠損
原発性貧食機能異常症
慢性肉芽腫症 2-生成障害
原発性補体欠損症
遺伝性血管神経性浮腫 C1インヒビター欠損
発作性夜間血色素尿症 CD59欠損

伴性無γグロブリン血症(Bruton型無γウロブリン血症)は伴性劣性遺伝病で、男子のみ発症する。多機能幹細胞からのB細胞の分化の過程に欠陥があるので、すべてのクラスの免疫グロブリンをつくることができない。ただしT細胞は正常である。この疾患の原因はブルトン・チロシンキナーゼとよばれるタンパク質リン酸化酵素をコードする遺伝子の変異である。このために、プレB細胞の抗原レセプターから核内へのシグナルを伝達できないので、それ以後の分化・増殖ができない。結局、この疾患は抗体うを産生できないので、化膿菌に感染して、肺炎、敗血症などを反復感染する。胸腺無形成症は胸腺の欠損によってT細胞がつくられない不全症で、B細胞は正常である。T細胞が欠損するので、ウィルス感染細胞を排除できず、マクロファージによる細胞内寄生細菌の殺菌もうまくいかないので、ウィルスや肺結核などの感染症が重症化する。
また、B細胞とT細胞の発生が障害されたために両者を欠損した不全症に重症複合免疫不全症がある。この不全症はIL−2レセプター、核酸の分解にかかわるアデノシンデアミナーゼ、主要組織適合抗原(MHA)クラスU分子などのいずれかの欠損による。そして体液性免疫と細胞性免疫の機能が不全であるので、もっとも重い不全症の一つといわれる。
そのほかに、B細胞の成熟や機能が不全である疾患に、IgM抗体は産生できるがIgG抗体やIgA抗体を産生できない高IgM症候群、IgA抗体のみを産生できない選択的IgA欠損症などがある。高IgM症候群の一つであるX染色体連鎖型の不全症では、活性化T細胞に発現するCD40リガンドの遺伝子が変異したために、B細胞が抗体を産生するためのクラススイッチが起こらずIgM抗体のみがつくられる。
抗体が正常につくられても、抗体と協同して抗原を排除する系が働かなければ、細菌に感染しやすくなる。この機能の不全による疾患に原発性貧食機能異常症と原発性補体欠損症がある。原発性貧食機能欠損症の一つの例が慢性肉芽腫症である。この患者の好中球はNADPHを利用して分子状酸素を一電子還元し、殺菌性の強いスーパーオキシドアニオン(O2)を生成するNADPHオキシダーゼを欠損している。そのために殺菌力が低下して、繰り返し重い感染症にかかる。
患者に肉腫の生成が見られるので、慢性肉芽種症とよばれる。原発性補体欠損症の一つに遺伝性血管神経性浮腫がある。この不全症では、補体系の活性化の初期の段階で働くC1プロテアーゼを制御するC1インヒビターを欠損しているために、補体系が過大に活性化してしまうので、組織に体液がたまり、呼吸困難などの症状が現れる。
発作性夜間血色素尿症は自己の細胞が補体系の作用を受けないように働く制御因子であるCD59が、細胞上に発現しないために起こる疾患である。そのために自己の細胞が補体系の作用を受けるようになる。その特徴的な症状は血管内での赤血球の発作的な溶血による血尿である。
3 研究で活躍しているマウスたち
免疫不全マウスは多くの系統が確立しており、そのなかには免疫不全症を自然発症するものもある。代表的なマウスの例をあげる。
ヌードマウスは原発性胸腺欠損マウスで、体毛のほかに胸腺も欠損している。B細胞は正常で、NK細胞やマクロファージの機能は亢進している。T細胞は加齢とともにわずかに現れるが、ほとんど機能していない。
SCIDマウス(severe combined immunodeficiency mouse)はB細胞とT細胞の抗原レセプター遺伝子の再編成に関与するレコンビナーゼとよばれる酵素に欠陥があるために、これらの細胞の分化が障害されているマウスで、ヒトの重症複合免疫不全症のモデルである。lpr変異マウス(lprはlymphoproliferationの略)は全身のリンパ節にT細胞系の細胞の異常増殖が起こるマウスである。
正常マウスでは、発生・分化の過程で不適切なT細胞はアポトーシスによって死滅する。しかし、lprマウスでは、アポトーシスが起こらないので、自己反応性の抗核抗体やリウマチ因子などが産生されて、全身性エリトマトーデス(SLE)様症状を呈する。これによく似たマウスにgld変異マウス(gldはgeneralized lymphoproliferation diseaseの略)がある。このマウスは、Fasのリガンドが変異したためアポトーシスが起こらず、lprマウスと同じような症状を示す。
NODマウス(non-obese-diabetic mouse)は非肥満糖尿病マウスといわれ、インスリン依存性糖尿病を自然発症する。膵臓のランゲルハンス島へのT細胞の浸潤が見られ、インスリンを産生するβ細胞の障害によって発症する。
(NZB×NZW)F1マウスはNZB(New-Zealand Black mouse)とNZW(New-Zealand White mouse)とを交配した第1代雑種である。NZBマウスは自己免疫性溶血性貧血などを自然発症するが、NZWマウスは自己免疫疾患を発症しない。
(NZB×NZW)F1マウスはNZBマウスよりもSLEによく似た症状を自然発症するので、SLEの疾患モデルとして研究されている。
4 遺伝子操作されたマウス
 ある遺伝子またはそのコードする機能タンパク質の研究は、マウスのゲノムにその遺伝子を注入する遺伝子導入や相互組換えによる遺伝子ノックアウトの技術を駆使できるようなって飛躍的に発展した。遺伝子導入マウスを用いた研究の例はすでに紹介した。遺伝子ノックアウト(遺伝子ターゲティングともいう)はクローニングされた遺伝子を利用してつくられる。ある一つの遺伝子が個体発生にきわめて重要であれば、胎生期に死亡してしまう。そうでないときに、一つの遺伝子のノックアウトが予想以上の形質変化をもたらし、新たな機能が見つかることがある。
また反対に、一つの遺伝子のノックアウトがほかの分子の機能で代償されて、形質変化として見られないこともある。これまでに多くの研究成果が得られ、B細胞やT細胞の分化や機能のしくみなどが群細に解析されている。ここでは、サイトカインの遺伝子をノックアウトした例を紹介する。
 IL−2の遺伝子をノックアウトすると、4〜9週のあいだに約50%が死亡し、残りの50%は炎症性腸疾患を発症する。しかし、無菌状態で飼育すると、炎症性腸疾患が見られなくなるので、IL−2の欠損が腸内細菌に対する粘膜免疫システムの働きを著しく低下させる。また、IL−2の欠損によって血中のIgE抗体とIgG1抗体が増加し、T2細胞がT1細胞に比べて優位になるのが認められる。
IL−4の遺伝子をノックアウトすると、IgE抗体とIgG1抗体が低下し、とくにIgE抗体の産生は見られなくなる。ほかのクラスとサブクラスの抗体の産生は変わらないので、IgE抗体とIgG1抗体へのクラススイッチがIL−4に依存することを示している。IFN−γの遺伝子をノックアウトすると、細胞内寄生細菌に対する抵抗力が著しく低下する。TGF−β1の遺伝子のノックアウトマウスでは、その約50%が胎生期に死する。残りの生存マウスは生後3週までは発育し、この生育にはTGF−β1のノックアウトの影響は認められない。しかし、その後に死亡する。その際には多くの臓器に顆粒球やリンパ球が浸潤し、組織の壊死が認められ、ヒトの自己免疫疾患に似た症状になる。



免疫システムの系統発生と年齢による機能の変動

1 無脊椎動物 の免疫
 20世紀初頭に、E.メチニコフはヒトデの幼虫にバラのとげを刺すと、体内を動き回っていた細胞がバラのとげを取り囲んで貧食するのを観察した。この観察から、異物の排除の主役は貧食細胞であって、貧食作用が原始的な生物の防御反応であると考えた。これが免疫システムの一面を担う細胞性免疫を指摘した最初である。その後、ヒトデ、カイメン、ホヤなどで、自己や同じ株のあいだの移植は成立し、異なる株の移植片を拒絶することから、無脊椎動物が非自己成分を自己成分から識別する機能をもつことが明らかになった。
 この無脊椎動物の拒絶反応に関わる細胞の性質は明らかではないが、脊椎動物のリンパ球とは違ったしくみで働く細胞であろうといわれている。この細胞はNK細胞のように、次の二つのレセプターをもつとする説がある。同種と異種に関わらずにすべての組織細胞を認識するレセプター(たとえば、細胞表面の糖鎖などの普遍的に存在するリガンド認識)と、自己の主要組織適合抗原(MHA)様分子を認識するレセプターとである。この細胞は前者のレセプターを介して標的細胞を破壊する。一方、この細胞障害作用の発現は後者のMHA様分子に対するレセプターが自己のMHA様分子に結合した場合は、抑制されると考えられる。このしくみでは、細胞障害性細胞が自己のMHAを認識できるレセプターを発現していればよいことになる。したがって、自己と非自己を識別するためには特異性の異なる莫大な数の細胞クローンの存在を必要とせず、少数の細胞クローンがあればよい。想定したこの細胞は自己を認識できない標的細胞のみを排除するので、非自己の細胞を積極的に非自己として認識して排除する脊椎動物のリンパ球にくらべると、原始的な細胞と考えられよう。無脊椎動物の免疫担当細胞の一層の研究が待たれる。
2 高等動物ほど進化する免疫
 魚類は脊椎動物のなかで最下等に位置し、もっとも早く出現した顎をもたないヤツメウナグやメキラウナギなどの円口類、サメやエイの軟骨魚類、大部分を魚の属する硬骨魚類に大別される。ヤツメウナグやメキラウナギはIgMに類似した”原始的な抗体”を産生するといわれる。軟骨魚類以上のすべての脊椎動物はIgMに相当する抗体を産生する。

表15-1  いろいろな動物の抗体のクラスとサブクラス
動物 クラスとサブクラス
ヒト IgG1,IgG2,IgG3,IgG4 IgM IgA1,IgA2 IgD IgE
マウス IgG1,IgG2a,IgG2b,IgG3 IgM IgA IgD IgE
ラット IgG1,IgG2a,IgG2b,IgG2c IgM IgA IgD IgE
モルモット IgG1,IgG2 IgM IgA IgE
ウサギ IgG IgM IgA IgE
ウマ IgG2a,IgG2b,IgG2c,Ig(T) IgM IgA
鳥類 IgY(IgN) IgM
爬虫類 IgN(IgY) IgM
両生類 IgN(IgY) IgM
軟骨魚類 IgN IgM
円口類 "IgM"
これまで見つかっているクラス、サブクラスを示す。鳥類、爬虫類、両生類は種類によって
IgY,IgNの存在が変わってくる。


この抗体は分子量が約120,000で、H鎖は3個のドメインからなる。爬虫類や鳥類の一部にもIgNが存在する。両生類と爬虫類の一部と鳥類には、IgGに似たIgNが存在する。両生類と爬虫類の一部と鳥類には、IgGに似たIgYと呼ばれる抗体を産生す
るIgYはニワトリの血清中にもっとも多量に存在する抗体で、分子量や約170,000である。
哺乳類になると、IgG抗体が現れ、抗体のクラスとサブクラスの数がしだいに増加する。ヒトとマウスでは、IgM、IgG、IgA、IgD、IgEの五つのクラスがある。さらにIgGには四つのサブクラスがある。ウサギの場合はIgGにサブクラスがなく、IgDの存在も証明されていない。動物種によって免疫中枢として働く組織に違いが見られる。ニワトリの消化管は肛門の手前で尿管とつながっていて。尿と糞は一緒に総排泄腔から排泄さっる。

この総排泄腔からファブリキウス嚢(bursa of Fabricius)と呼ばれる嚢状の突起が背中のほうにでている。孵化直後のニワトリのファブリキウス嚢を摘出すると、細胞性免疫能は低下しないが、抗体産生が著しく低下するので、この器官でB細胞が分化・増殖して多様性を獲得することがわかった。したがって、ニワトリではT細胞は胸腺で分化・増殖し、B細胞はファブリキウス膿で分化・増殖するというように免疫システムは二つの免疫中枢組織によって支配されている。ファブリキウス嚢は鳥類に特有のリンパ組織で、ほかの哺乳類には存在しない。しかし、ウサギでは、盲腸の尾部にある虫垂が、ヒツギでは消化管のバイエル板がファブリキウス嚢に対応していて、B細胞の分化・増殖する中枢組織であるといわれる。ヒトやマウスでこれに対応する器官は見つかっていない。
 抗体の抗原特異性の多様性の獲得も、免疫システムの進化特異的ともに変化している。ヒトやマウスの抗原特異性の多様性は抗体のV遺伝子、(D遺伝子)、J遺伝子の数、これらの遺伝子の再編成の際の結合位置のずれとN配列の付加、H鎖とL鎖の組合わせによって増大し、抗原刺激後の体細胞高頻度突然変異によっても増大する。これに対して、軟骨魚類のサメの抗体遺伝子はV遺伝子、D遺伝子、J遺伝子とC遺伝子が一つの単位を形成し、この単位が数百回も繰り返されて存在する。

細胞分化の過程でのこれらの遺伝子の再編成は単位内でのみ起こり、ほかの単位内の遺伝子とは再編成は起こらない。そのためサメの抗体はヒやマウスの抗体にくらべて多様性に乏しい。
 ニワトリの抗体遺伝子の再編成によってわずかに1〜12種類の抗体しかつくれない。これはJ遺伝子にもtっとも近い1個のV遺伝子のみが再編成に参加し、ほかの多くのV遺伝子は偽遺伝子として挙動するためである。
 その後、再編成を終えたB細胞はファブリキウス嚢内に偽V遺伝子とのあいだの遺伝子変換を何回も行って多様性を獲得する。

ウサギのB細胞はヒトやマウスのB細胞と違い、大部分はCD5+B(B−1)細胞であるといわれる。ウサギの抗体遺伝子もニワトリで見られるようにV遺伝子、D遺伝子、J遺伝子の再編成の際にきわめて少数のVのみが利用される。再編成終了後のB細胞は虫垂で遺伝子変換と突然変異によって多様性が増し、抗原刺激によってさらに多様性が増大する。ヒツギの抗体遺伝子では、多様性獲得がおもに体細胞高頻度突然変異によるといわれる。ニワトリ、ウサギ、ヒツギのB細胞が消化管関連組織の支配のもとで分化・増殖して多様性を獲得することは、抗体産生による体液性免疫の系が消化管での抗原排除と密接に関連して発達してきたことを示唆している。
 3 老化と免疫
 系統発生に見られる免疫システムの進化は、高等動物での免疫システムの個体発生の過程に反映されるといわれる。二つの抗原特異的抗原排除機構のうち、細胞性免疫機構が体液性免疫機構に先行して現れる。ヒトの個体発生でも細胞性免疫機構が体液性免疫機構に先行して現れる。マクロファージを活性化して殺菌させるT細胞の活性は新生児えは成人にくらべて低いが、同種細胞やウィルス感染細胞を障害する活性は成人レベルに近いといわれる。一方、抗体産生能はきわめて低く、数年かかって成人レベルに達する。
 出生後の抗体の産生はクラスによって異なり、IgM、IgG、IgAの順に産生される。IgM抗体は出生前につくられ、生後急速に増大する。ついでIgG抗体が現れ、IgA抗体はもっとも遅く現れる。こうした抗体産生の遅れは母親由来のIgG抗体の胎盤経由の移行や母乳中のIgA抗体の供給んによって代償される。ただし、母親由来の抗体は代謝されていまうので、新生児の血清中のIgGレベルは生後4か月頃もっとも低くなる。
 免疫システムを形成するリンパ球は絶えず生まれ、死滅していく。通常、リンパ球の0.5%が毎日入れ替わっているという。免疫システムの正常な活動を維持するためには、毎日同じ数のリンパ球をつくりださなければならない。この維持は存在するリンパ球にの分裂のほかに、多能性幹細胞からの分化によって行われる。このとき生成したリンパ球のなかの自己反応性細胞は的確に排除されなければならない。一方、こうした免疫システムの維持は老化にともなってしだいに崩壊していくと考えらている。その根拠の一つに加齢による胸腺の退縮があげられる。T細胞の分化・増殖を支配する胸腺の体重あたりの重量は、新生児で最大である。胸腺の重量は増大して10代で最大となるが、その後しだいに脂肪組織に置き換わって退縮する。70代以降になると、T細胞をつくりだしてはいるが、胸腺はほとんど脂肪組織に置き換えられる。このために、胸腺からのT細胞の供給は年齢とともに低下する。
したがって、免疫システムの老化は感染防御能の低下や自己免疫現象の増加を招く。
 末梢血中のT細胞の数は加齢にともなって減少する。


ただし、CD4T細胞とCD8T細胞の数はナイーブT細胞においてはともに減少するが、記憶T細胞ではともに増加する傾向が見られる。B細胞の数も減少するといわれているが、あまり変化しないという異論もある。T細胞の機能の一つの遅延型アレルギーを引き起こす働きは加齢にともない低下する。細胞性免疫機能の低下が、ウィルス、細胞内寄生細菌の感染防御能の低下や変異細胞排除能の低下によるがんの発生の増加に関係するといわれている。血清中のIgGとIgAの濃度は加齢とともに増加するが、IgMとIgEの濃度は変化しない。高齢者は肺炎などの感染症にかかりやすく、肺炎による死亡率が高いが、このことと上記の血清中の免疫グロブリン濃度の変動との関係はわかっていない。一方、自己抗原に対する自己反応性抗体は加齢とともに増加する。たとえば、抗核抗体、抗サイログロブリン抗体、リウマチ因子などが増加する。これらの現象は老化にともなって組織が崩壊し、自己抗原の遊離に対する処理反応を反映していると考えられている。

 
自然免疫と獲得免疫
 高等動物の生体防御は、自然免疫と獲得免疫の協調作用により成立する。

自然免疫と獲得免疫
自然免疫 獲得免疫
innate immunity adaptive immunity
担当細胞 マクロファージ T細胞、B細胞(リンパ球)
樹状細胞
受容体 再編成を行わない 再編成を行う
免疫記憶 なし あり
認識機構 微生物間で保存された共通の分子パターン(LPS,リポプロテイン、ペプチドグリカンなど) 群細な分子構造(タンパク質、ペプチドなど)
応答の成立 迅速 遅い

獲得免疫はB細胞、T細胞などいわゆるリンパ球により担われている。リンパ球は、抗原受容体という膜タンパク質により、外来抗原を認識する。この抗原受容体は、遺伝子再構成を行い。多彩な(レパートリー)を形成することにより、微細な抗原構造を高い親和性で特異的に認識することができる。また高親和性受容体をもつリンパ球は、長期間生体内で持続して存在できるので、外来抗原が再来した場合に、強い免疫応答を惹起することができる。このように、獲得免疫は、認識特異性および免疫記憶といった利点を有している。
しかし、獲得免疫の成立には、通常、数日かかる。したがって、微生物感染など迅速な免疫応答が必要な場合には、獲得免疫だけでは有効な防御機構となり得ない。
感染初期に重要なのが自然免疫であり、おもに、マクロファージ、樹枝状細胞などいわゆる抗原提示細胞により担われている。これらの細胞は、外来微生物を非特異的に貧食することができるが、遺伝子再構成を行えず、微生物を特異的に認識はしないと考えられていた。しかし、自然免疫は、外来微生物由来の種々の分子構造を、限られたレパートリーの受容体(パターン認識受容体、pattern recognaition receptor:PRR)により認識し、迅速に応答できることが明らかになってきた。
2 自然免疫による微生物認識
 補体、レクチンは、液性因子のPRRとして機能する。


これらの分子は、病原体の表面に結合し、病原体をマクロファージにより貧食されやすいように修飾する(オプソニン化)。また、多くの補体は、タンパク質分解活性を有しており、補体の結合した病原体は分解され排除される。また、レクチンの一部は膜タンパク質として抗原提示細胞に発現されており、病原体の取り込みに直接関与している。取り込まれた病原体は細胞内でそのまま分解されるか、あるいは、小さいペプチド断片となり、MHC分子と結合し、抗原提示細胞の膜面上に発現され、T細胞、すなはち獲得免疫の活性化(抗原提示)を誘導する。この一連の過程は、微生物感染に対処する、きわめて重要な自然免疫機構である。
しかし、これらのシステムの大部分は、抗原提示細胞内のシグナル伝達系を直接には活性化しない。高等動物は、認識に引き続き、シグナル伝達系を活性化し、サイトカインなどの生体防御遺伝子群を発現するシステムを自然免疫機構として輸している。細胞表面やエンドソーム内に発現する。toll様受容体(toll-like-receptor:TLR)と呼ばれる一群の膜タンパク質は、このシステムに含まれる。また、細胞質内で外来微生物を感知するシステムも存在し、(RIG-T様受容体(RIG-T-like receptor:RLR)、NOD様受容体(NOD-like receptor:NLR)が含まれる。
3 TLRによる認識
 TLRの名前は、ショウジョウバエで病原体感染に関与する膜タンパク質tollとの構造上の類似に由来する。哺乳類では、現在、約10種類
のTLRが同定されている。


細胞外には、リガンド認識に関与する。ロイシンに富んだ繰り返し構造(Leucine rich repet:LRR)を、細胞質内にはIL-1受容体ファミリーとも共通の構造で、シグナル伝達に必須な機能を果たすTIR(toll/IL-1 receptor homologous region)ドメインをもつ。各TLRが認識するのは、一群の微生物に共通して存在する分子構造である。
これらの分子構造は、宿主には存在しないが、微生物には存在するという意味で、外来抗原特異的な分子構造である。生体は、この構造の認識により、自然免疫系を迅速に機能させていることになる。当初、この分子構造は、病原体関連分子パターンと呼ばれたが、病原性をもたない微生物にも認められることから、微生物関連分子パターンと呼ぶ方が自然であると考えられている。TLRを中心としたPRRの認識する分子はいずれも強い免疫賦活作用をもっていることから、PRRはアジュバント受容体であると考えてよい。
toll:ショウジョウバエのT型膜タンパク質で、当初、背腹軸決定に必須の遺伝子として同定さらえた。tollは、ドイツ語で「現実離れした、すごい」という意味をもち、最初に変異すをもつショウジョウバエの姿を顕微鏡観察した際に発せられた言葉とされている。
キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogatter)について
 キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogatter)は、遺伝の染色体理論を確認するために、Calvin Bridgesによって使用され始めた生物である、それ以来、遺伝学研究における中心的存在となった。ショウジョウバエには他にも種類がある。ここでショウジョウバエとよぶ場合、常にキイロショウジョウバエを意味する。


基本的な飼育法
 ショウジョウバエは。コーンミール糖蜜(cornmeal-molasses)培地で容易に繁殖する。ヒトに対して無害であり、有害な寄生虫などは報告されていない。理想的条件下では、メスのショウジョウバエは産卵した後、卵はその9日後に成虫になる。この時期には、第3齢まである蚕齢期間と羽化する前の数日間のさなぎの期間が含まれる。羽化後8〜12時間でメスは交尾をするようになる。
残念なことに交尾ごとに精子は保存され、生きている間、その精子が使用される。しがって交尾を管理していくためには、処女のメス(異なる遺伝子型をもつオスと過去に交尾していないメス)を確保していく必要がある。
これは朝ショウジョウバエが羽化しそうなビンから成虫をのぞき夕方、そのなかから羽化したメスを回収することにより容易に行うことができる。1〜2週間で、1頭のショウジョウバエから数百の卵が産卵される。
TLRが認識するリガンドとしては、まず、微生物の外膜成分が重要である。


最も古くから広く研究されているのは、リポ多糖(ipopolysaccharide:LPS)である。LPSは、グラム陰性菌外膜に存在し、マクロファージ、樹枝状細胞を活性化し、サイトカイン産生を強く誘導する。また過剰量のLPSが存在したり、あるいは生体の免疫能が低下している際には、重篤なショック症状(エンドトキシンショック)も誘発される。LPSは、血中でLPS結合タンパク質と結合し、血流に乗って、標的細胞へ到達する。標的細胞膜上ではLPSは、CD14と結合することにより、保持される。さらにLPSによるシグナル伝達活性化に関与するのがTLR4である。
一方、グラム陽性菌はLPSをもたないが、やはり強い免疫賦活作用をもつ。
外膜にはペプチドグリカンの厚い膜が存在し、その中には種々のリポタンパク質、リポペプチドが存在し、これらが免疫活性化の主成分となっている。またマイコプラズマは、このような細菌と異なり、LPSもペプチドグリカンなどから成る外膜ももたない。
しかし、やはり免疫活性化能を有しており、その作用は細胞質膜に存在する種々のリポタンパク質、リポペプチドに由来する。TLR2は、このマイコプラズマ由来リポペプチドの機能にも必須である。また、腸内細菌などの運動性の細菌の保有する鞭毛にも免疫応答誘導作用を有するタンパク質として、フラジェリンが知られており、その作用にはTLR5が必須である。
CD14:フォスファジールイノシトールを介して細胞膜面上に局在するタンパク質で、LPSと結合能を有する。しかしLPSのシグナル伝達には
直接の関与はしていない。
免疫を活性化する微生物由来分子は、脂質、タンパク質成分ばかりではない。1980年代にBCGの抗腫瘍効果がDNA成分によるものであることが示された。細菌やウィルス由来のDNAと比較して、哺乳類由来のDNAにおいては、シトシン、グアニンが隣り合って存在する頻度が低く、またその大部分がメチル化されている。すなわち非メチル化CpGを含むDNA(CpG DNA)は、微生物特有の分子構造であるということになる。この非メチル化CpG DNAのの作用にはTLR9が必須である。
BCG:bacillus calmette-guerinの略。ウシ結核菌由来の弱毒性ワクチンで、強いth1応答誘導活性をもつ。
またDNAばかりでなく、ウィルス感染の際に産生される二本鎖RNAも微生物由来分子として、宿主の免疫機能を活性化する。この二本鎖RNAおよび、二本鎖RNAと機能的に類似した化学物質であるポリイノシンポリシチジン酸(polyinosinic-polycytidilicacid:polyIC)はTLR3により認識される。
古くから抗ウィルス活性をもつことが知られていたイミダゾキノリン誘導体は、化学合成物質であるが、この活性にはTLR7が必須である。また自然界に存在するTLR7のリガンドとして、ウィルス由来の一本鎖RNAが同定されている。
TLR8はマウスでは機能分子として発現されていないが、ヒトTLR8はTLR7に類似したアミノ酸構造をもち、TLR7と同様に一本鎖RNAの認識に関与する。
 これらのTLRによる微生物認識には、TLRによるヘテロ二量体形成も重要な役割を果たす。例えば、TLR2はTLR6とヘテロ二量体を形成した場合には,マイコプラズマ由来リポペプチドをTLR1とヘテロ二量体を形成した場合には、細菌由来リポペプチドを認識する。
細菌由来リポペプチドでは、アミノ末端のシステインに脂肪酸側鎖が3本あるが、マイコプラズマ由来リポペプチドは、2本しかなくTLR2を含む二量体は、この違いを区別している。すなわちTLR2は二量体のパートナーを変換することにより、微妙な構造の識別を可能にしている。
4 RLRによる認識
 核酸を認識するTLR(TLR3,7,8,9)は、エンドソームに発現されており、エンドソームに取り込まれたウィルスは、あるいはウィルス感染細胞由来の核酸に応答する。


一方、ウィルス直接感染した場合には、ウィルス由来の核酸は、細胞質に存在することになり、細胞質内のPRRにより認識される。RLRは、N末端側にはCARD(caspase recruitment domain)に類似したドメインを、C末端側には核酸をほどく活性をもつRNAヘリカーゼドメインをもつ。RNAヘリカーゼドメインがリガンドの認識に関与する。
二本鎖RNAは、TLR3ばかりではなくRIG-T、MDA5によって認識される。RIG-T、MDA5はそれぞれ異なる種類のウィルス認識に関与する一本鎖RNAは、5’末端に3リン酸をもつ一本鎖RNAも認識する。
通常哺乳類細胞に存在する一本鎖RNAは、5’末端が切断されていたり、キャッビングなどの修飾が施されていたりして、3リン酸構造をもたない。すなわちRIG-Tはウィルス特異的な5’末端構造を認識していることになる。CARD:細胞死シグナルに関与する機能分子(caspase)およびその関連分子に認められる分子構造であり、種々のタンパク質との結合に関与する。
また、細胞質内タンパク質DAI(DNA-dependent activator of IFN-regulatory factors)はRNAヘリカーゼドメインをもたず、RLRには属さないが、二本鎖DNAの認識に関与する。
5 NLRによる認識
 細胞質内には、RLRの他にNLRと呼ばれる一群のタンパク質がシグナル伝達機構と関連したPRRとして機能している。


ヒトで20種類以上、マウスでは30種類以上報告されている。N末端側にタンパク質相互作用ドメインとして、CARD、ビリシドメイン、BIR(baculoviral inhibitor of apotosis repeat)ドメインなどを、中央には多量体形成に必要なNOD(nucleotide-binding and oligomerization domain)を、C末端側にはリガンドとの結合に関与するLRRをもつ。NOD1,NOD2が代表的なNLRであり、それぞれ細菌外壁のペプチドグリカン由来の特殊な分子構造を認識する。
さらにNLRP3(NALP3)を必要とする種々のアジュバント刺激が同定されている。細菌由来のRNA、毒素などの微生物成分に加えて、宿主由来の核酸代謝産物である尿酸やATPもNALP3を介した経路を活性化する。また鉱山や建造物解体時に発生するケイ酸化合物(シリカ)やアスベストなど環境由来の物質、またアラムもNALP3を介した経路を活性化する。NALP3活性化の機序は不明な部分が多く、特に環境物質やアラムの場合、NALP3に直接認識されるのではなく、マクロファージのリソゾーム構造が障害されることが重要で、その際に発生する活性酸素が必須であることが指摘されている。
アラム:硫酸アルミニウムカリウム水和物で、粘性に富み、抗原を局所に長期間滞留させることができる。古くから免疫賦活化物質として汎用されている。
PRRの機能とその分子構造
1 TLRの機能
 TLRシグナルにより、抗原提示細胞の種々の機能が活性化される。


まずIL-1、IL-6、TNF(tumor necrosisfactor)などの炎症性サイトカインの産生が誘導される。これらのサイトカインの作用により、炎症反応が形成される。炎症反応は感染局所では、感染巣の拡大を防ぎ、感染の終結を促進するが、時に致命的なショック症状を惹起する。
さらにTLRシグナルは、抗原提示に関与するMHAクラスU分子やCD80,CD86などの供刺激分子の発現を増強することにより、獲得免疫担当細胞であるT細胞の増殖を活性化する。獲得免疫の質は、活性化されたヘルパーT細胞(Th)細胞の産生するサイトカインにより決定される。インターフェロン(IFN)-γを産生するT型ヘルパーT細胞(
Th1)細胞は、主として細菌、ウィルス、腫瘍などに対する防御免疫に、IL-4を産生する2型ヘルパーT細胞(Th2)細胞は寄生虫に対する免疫、アレルギー反応に関与する。またIL-17を産生し、種々の病的炎症に関与する17型ヘルパーT細胞(Th17)細胞も同定された。
通常TLRシグナルにより抗原提示細胞は、IL-12、IL-18なといわゆるTh1誘導型サイトカインを産生するので、Th細胞の分化はTh1細胞へシフトする。しかしTLRシグナルは、時にIL-23やTGF-β/IL-6を誘導することにより、Th17細胞への分化も引き起こす。このようにTLRシグナルは抗原提示細胞を介して、主にTh2細胞への分化を抑制し、Th1、Th17細胞への分化を促進することにより、獲得免疫の確立に関与する。
核酸を認識するTLR3、TLR7、TLR9はT型IFNを誘導する特性うをもつ。T型IFNは抗ウィルス活性を有する遺伝子の発現および,MHC分子の発現を増強し、樹状細胞の成熟を誘導することにより、ウィルスに対する生体防御機構を活性化する。また自己免疫疾患の増悪因子としても機能する。TLR7、TLR9はIFN-α、βを共に誘導できるだけである。T型IFNは、非感染時には発現は低く、感染後に著明に発現が増強されるので、その発現の調節は、生体防御にとっていわめて重要である。
T型IFN:T型IFNには、10種類以上のサブタイプから成るαと1種類のβが存在する。いずれのT型IFNも1種類の共通の受容体を介して生物学的機能を発揮する。。T型IFNに対してIFN−γをU型IFNと呼ぶ場合もある。
TLR7.TLR9によるT型IFN産生は、形質細胞様樹枝状細胞plasmacytoid dendritic cell:pDC)と呼ばれる特定の樹枝状細胞サブセットに大部分依存している。特にTLR7、TLR9刺激によるIFN-α産生はpDCのみ認めらている。pDCはTLRの中ではTLR7、TLR9を選択的に発現しており、またRLRはほとんど機能していない。すなわちpDC発現TLR7、TLR9により核酸を認識し、T型IFNを産生するという機能に特化した樹枝状細胞サブセットであるとみなすことができる。ウィルス感染における防御的な役割に加えて、自己免疫疾患の病理にも重要であることが指摘されている。
形質細胞様樹枝状細胞(pDC):樹枝状細胞の一つのサブセット、ヒトリンパ節において、形態学的に形質細胞と似た細胞として報告されていたが、1999年にウィルス感染時に誘導されるIFN−αの主要な産生源であることが明らかにされた。T型IFN産生細胞とも呼ばれ、ヒトばかりでなく、マウス、ラットにおいても同定されている。
2 TLR機能を制御する分子構造
 TLRシグナルには、細胞内アダブター分子が必須である。

これらのアダブター分子は、TIRドメインをもち、そのドメインを介してTLRと会合している。アダブター分子の下流では、種々のシグナル伝達分子を介して、NF-κBやIRFなどの転写因子が活性化され、炎症性サイトカインやT型IFNなどの遺伝子発現が誘導される。TLR3以外のTLRシグナルはすべて、アダブター分子としてMyD88を使用している。TLR3はMyD88ではなく、もう一つのアダブター分子TRIFを使用する。TLR4シグナルは例外的に、MyD88、TRIF2つのアダブター分子を使用する。MyD88を介した経路は、NF-κB活性化、引き続き炎症性サイトカインの遺伝子発現誘導に必須である。TRIFを介した経路は、炎症性サイトカイン遺伝子の発現誘導と共に、IRF-3の活性化を介してIFN-βの遺伝子発現誘導にも必須の役割を果たしている。
MyD88、TRIF以外のTLRドメインをもつアダブター分子はMyD88、TRIFと協調的な機能を果たしている。例えばTRIFは、TLR2、TLR4シグナルにおいて、MyD88と協調して機能している。
TLR7、TLR9を介した経路はMyD88のみをアダブター分子として使用するが、その下流ではNF-κBばかりでなく、IRF-7が活性化され、IFN-α、IFN-βの遺伝子発現が誘導される。

この経路はpDCに特徴的な経路であり、IRF-7のリン酸化、活性化にはセリンスレオニンキナーゼIRAK-1,IKKαが関与する。
3 RLRの機能とその分子構造
 TLRは主に抗原提示細胞に発現されているが、細胞質内PRRに属するRLR、DAIは、免疫担当細胞に限らず、上皮細胞、繊維芽細胞など広範囲の細胞、組織に発現されている。TLRと同様に、炎症性サイトカインの遺伝子発現も誘導するが、IFN-α、IFN-βなどのT型IFNの遺伝子発現を強く誘導することがRLRの特性として挙げられる。

このT型IFN遺伝子発現には、TBK1,IKKε/ιを介した経路が必須であるが。、TLR3、TLR4と異なり、TRIFを必要としない。IPS-1(IFN−βstimulator 1)と呼ばれる細胞質内タンパク質が、アダブター分子として機能している。
NLRの機能およびインフラマソーム
 NLRも免疫担当細胞に限らず、広範囲の細胞、組織に発現が認められる。NLR刺激により炎症性サイトカインや抗菌ペプチド産生が誘導されるがNLR機能の特性としてインフラマソームの活性化が重要である。

インフラマソームとは、NLRを中心としたタンパク質群の集合体である。NLRP3(NALP3)を中心にアダブター分子ASC、アスパーゼ1から構成されるNALP3インフラマソームが代表的であるが、NAIP5やNLRC4(IPAF)などのNLRを中心としたインフラマソームも存在する。IL-1βやIL-18は、TLRなどにより遺伝子発現が誘導された状態では前駆体であり不活性型であるが、インフラマソームにより活性化されたカスパーゼ1により切断され、活性型に変換する。活性型IL-1βやIL-18は、種々の炎症反応に関与する。
自然免疫機構と疾患との関連
1 TLR機能異常と免疫不全
 TLRおよびTLRシグナルに関与する機能分子の遺伝子変異によると考えられるヒト免疫不全症が明らかになっている。
例えば単純ヘルペス脳炎に罹患しやすい患者の中に、TLR3応答性低下うを引き起こすTLR3遺伝子異常がみつかっている。またTLR3、TLR7、TLR9の応答性には、膜タンパク質UN-93Bが必須であることがマウスの解析により明らかになっているが、ヒトにおけるUN-93B遺伝子異常では、TLR7、TLR9の応答性低下が認められ、単純ヘルペス脳炎の罹患率が高まっている。またTLRシグナル伝達に必須の機能分子MyD88やIRAK4の遺伝子異常ではほとんどのTLRに対して応答性が低下しており、化膿性細菌感染に対する感受性が高まっている。興味深いことに、遺伝子欠損マウスに認められる重篤な症状に比較して、ヒト遺伝子異常の場合には、感受性のある病原体が絞られている傾向が認められる。このようなことから、マウス、ヒト間での分子機構の共通性と共に種特異的な側面も重要であると考えられている。
2 TLRと自己免疫疾患
 PRRは種々の防御的な免疫応答を活性化するが、ときに病的な免疫反応を引き起こす。核酸を認識するPRR、特にTLR7、TLR9が重要である。例えばTLR4、TLR5のリガンドであるLPSやフラジェリンなどは微生物に特有の成分であり、宿主細胞には存在しない。しかし、TLR7はウィルス由来の一本鎖RNA、例えばmRNAも認識する。TLR9の認識するCpGDNAについても、微生物由来のDNAには高頻度に認められるが、宿主細胞由来のDNAにも低頻度ながら存在する。またCpGDNAモチーフよりも糖鎖構造がTLR9の認識に重要であることも報告されており、この場合には微生物由来か宿主細胞由来かは全く区別できなくなる。このようにTLR7、TLR9は、微生物と宿主細胞の核酸を明確に識別できなくなるという特徴をもっており、自己免疫反応を引き起こす潜在能力を有していることになる。
 ウィルス、あるはウィルス感染細胞は、エンドソームに取り込まれたエンドソーム内のTLR7、TLR9を刺激することになるが、通常宿細胞由来の核酸は不安定であり、エンドソームに到達する可能性は非常に低い。


しかし、例えばいったん免疫寛容が破錠し、抗核酸抗体が産生されると核酸は免疫複合体として安定する。さらに抗核酸抗体はFc受容体を介して樹枝状細胞に取り込まれやすくなる。このように、抗核酸抗体の作用により、宿主核酸の免疫応答誘導能が顕在化し、自己免疫疾患の症状が増悪するという機構が注目されている。SLE(systemic lupus eryhtematosus)患者では、血中にはT型IFN産生が上昇しており、末梢血単核球では、T型IFNおよびT型IFNにより誘導される遺伝子群の発現上昇が認められる。また皮膚病変では、活性化されたpDCの集積が認められる。このように、抗核酸抗体の産生、宿主核酸によるTLR7、TLR9刺激、pDCからのT型IFN産生がSLEを含む自己免疫疾患の病態形成に関与している可能性が考えられている。
また尋常性乾癬の皮膚病変ではLL37と呼ばれる抗菌ペプチドの産生が亢進して、この抗菌ペプチドが宿主DNAと結合し、TLR9刺激活性を増強する。また大量の細胞死によって漏出した核内DNA結合タンパク質も宿主DNAのTLR9刺激活性を増強する活性をもっている。このように、抗体以外にも種々内因性物の過剰産生により、宿主核酸が安定化し、過剰な免疫反応が惹起される。
3 NLRと炎症性疾患
 クローン病は原因不明の炎症性腸疾患であるが、NOD2のLRR内のアミノ酸変異が発症に関連する可能性が指摘されている。ただし、この変異がクローン病の発症にどのように結びつくかはまだはっきり分っていない。
 インフラマソームの過剰な活性化は、種々の炎症を引き起こす。例えば、抗尿酸血症を伴う関節炎であるが、局所に沈着した尿酸結晶によるNALP3の過剰刺激が原因となっている。
また、NALP3の活性化因子である、ケイ酸やアスベストなどの粉塵を長期間摂取することにより、塵肺と呼ばれる肺疾患を生じる・さらに、自己炎症性疾患に総称される一群の遺伝性炎症性疾患も、インフラマソームの恒常的活性化によるものであると考えられている。この疾患群に含まれるMuckle-Wells症候群や家族性感冒自己炎症性症候群は、常染色体慢性遺伝性疾患で、感染の兆候なしに全身性炎症を引き起こす。
これらの患者のNALP3遺伝子に恒常的活性化を引き起こす変異が見つかっている。IL-1受容体の阻害剤を用いることにより、これらの疾患の症状を改善させることが出来る。
おわりに
1990年代後半にTLRが同定されて以来、自然免疫による微生物認識の分子機構の解明が急進した。さらに、認識により活性化された抗原提示細胞がどのように獲得免疫を形成するか、またこれらの認識機構が種々の病的状態にどのように関与しているか、などについても興味深い知見が蓄積されつつある。
これらの知見を有効に活用することにより、花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、自己免疫疾患に対する有効な治療法、さらに種々のがんに対する効果的なワクチンの開発につながるものと期待されている。


レクチンについて
1 免疫系とレクチン
 レクチンとは、糖鎖を認識するタンパク質の総称である。1980年にNature誌にその定義が提案されたとき、「免疫学的な起源を除く」との但し書きがあった。
これは糖鎖を認識する抗体はレクチンとみなさないいう意味である。高等動物の全ゲノム配列が読まれた後に、存在するレクチン遺伝子のほとんどが免疫細胞に集中して発現していることが明らかになるとは、当時まったく予想されなかった。
免疫系の細胞の特徴である、移動と局在、外来分子の認識と取り込み、分化成熟と活性化などの過程を構造的に多様で細胞外に豊富に存在する糖鎖というモチーフを使ってコントロールするために進化したのがこれらのレクチンであることが、徐々に明らかにされつつある。
ここでは免疫系細胞の表面受容体としてのレクチンについて、糖鎖認識という視点を重視しながらI型、C型、S型レクチンを対象に述べる。
2 レクチンの種類と分布
 現在レクチンはそのタンパク質としての構造的特徴に基づいて、便宜的にC型、I型、L型、P型、R型、S型に分類される。それぞれ、カルシウム依存性(C型)、免疫グロブリンスーパファミリーの属する(I型)、マメ科(legume)と相同性をもつ(L型)、リン酸化マンノースを認識する(P型)、植物毒素リシン(ricin)と相同性をもつ(R型)、遊離SH基を必要とする(S型)、という特徴に基づく命名であった。
多くの細胞外マトリックスの構成分子、成長因子、サイトカイン等が硫酸化糖鎖、特にヘバラン硫酸鎖を認識する分子とすて知られているが、これらはレクチンとはみなされていない。CD44はヒアルロン酸を認識する糖鎖認識タンパク質であるが、レクチンとは呼ばれることはない。一方、以下に詳しく書くように、C型レクチンドメインに相同性の高いC-type-lectin-domain(CTLD)を含む認識分子の一群で、認識する相手の糖鎖が見出されていない「レクチン」と呼ばれがちなものが数多くある。
レクチンと呼ばれる理由として[相手の糖鎖の候補が十分な種類テストされていないから、結合相手の糖鎖が絶対にないとはいえない]ことが挙げられる。これらのCTLDは、結合部位の三次構造からみて糖鎖と結合することさえなさそうであるが原核生物の産生する糖鎖はアミノ配糖体抗生物質の構造からも推察されるように真核生物よりはるかに多様なので、今後結合相手となる糖鎖がそれらの中に見出される可能性は残されている。
 レクチンは真核生物(動物および植物)、原核生物を含めて、生物界に広く分布するタンパク質ファミリーである。


タンパク質の折りたたみ構造が類似している。つまり同じファミリーに属するものが、植物と動物と微生物にみられるが、これらは遺伝子として同一の起源をもつわけではない。
L型レクチンは植物に、R型レクチンは原核生物に広く分布する。特に、C型レクチンとI型レクチンとの分布状態が際立っている。すなわち、これらのレクチンは高等動物、とりわけ脊椎動物において最も多様化し、多数存在する。
また、これらのレクチンは非常に限られた種類の免疫系の細胞に発現している場合が多い。このことは、これらのレクチンの機能が特定の免疫系の細胞の機能にかかわっていることを反映していると思われる。
これに対して、S型レクチンの分布はユビキタスで、細胞種にかかわらない。C型及びI型レクチンとS型レクチンはとの違いは、その細胞内分布においても顕著であり、S型レクチンはシグナル配列や膜貫通ドメインをもたず、したがってその細胞内外における局在はフレキシブルであり、同一の分子が、核内、細胞質の可溶性画分、細胞表面、細胞外に分泌されて検出される。
これに対して、C型、I型、P型のレクチンのほとんどは膜貫通ドメインと細胞質ドメインをもち、細胞表面受容体として機能する。よく知られているレクチンで上記したカテゴリーに含まれないものが、小麦胚アグルチニン(WGA)、ポークゥイードマイトーゲン(PWM)、などのキチナーゼと相同性をもつもので、ヘベインファミリーと呼ばれることもある。
3 レクチンの機能
 レクチンの分子としての機能は糖鎖の構造を認識することである。細胞表面受容体としてのレクチンの認識相手は、同じ細胞の表面分子、細胞外の分子、接触している他の細胞の表面分子などであり、内在性のものであることも外来の感染源などでもありうる。
はじめに書いたように、細胞表面受容体としてのこれらのレクチンは、糖鎖認識を通して、
@細胞の接着と局在(細胞交通)を制御する
A細胞への外来分子や感染源の取り込みを制御する
Bシグナルの授受の窓口となる
C他の分子の動きや機能を修飾する
という働きをしうる。
これらのいずれであるかは基本的にはそのレクチンの糖鎖認識ドメイン以外の部分、特に細胞質ドメイン部分の構造に基づいて決まっているが、C型レクチンにみられるように同じレクチンが発現している細胞によって、また結合相手によって異なる機能を発揮する例も多い。S型レクチンであるガレクチンは同一分子が細胞内外で全く異なる機能をもつことが知られている。
4 レクチンの糖鎖認識特性、糖鎖リガンドおよびカウンター受容体
 レクチンは、マンノースタイプ、ガラクトースタイプ、シアル酸タイプ、フコースタイプなど、その結合を競合的に阻害する単糖の種類によっておおまかに分類されるが、実際には構造的な類似性をもつ一群の糖鎖または糖鎖タンパク質複合体と親和性を有し、単糖との親和性は数百分の一以下である。
一群の糖鎖のうちで最も親和性の高い糖鎖構造がしばしば「糖鎖リガンド」と称される。しかし、レクチンが結合する相手の分子にこの構造が必ず含まれているとは限らない。
生体内でレクチンがある分子を認識することを通して生物学的な過程に関係しているとき、この分子はこの過程における「カウンター受容体」と呼ばれる。
しかし、この分子が「リガンド」と表記されている例も多く、命名法は統一されていない。例えば、好中球のローリングにおけるPセレクチンのカウンター受容体はPSGL-1すなわち「Pセレクチングリコプロテインリガンド-1」のグリコフォーム(多様な糖鎖のバリエーションのうち特定の糖鎖をもつ糖タンパク質のこと)である。
レクチンのカウンタ受容体が機能するためには、特定の種類の糖鎖が付加していることが必要である。糖鎖の生合成には複数の糖転移酵素による段階的な糖付加が必要であるので、それらによってカウンター受容体の糖鎖修飾と、ひいてはその分子のレクチンとの相互作用が制御されていることになる。
ある特定の酵素の存在が特定の特定構造の生合成に必須である場合、例えばLセレクチンの「糖鎖リガンド」である硫酸化シアリルルイスーX糖鎖生合成の最終段階である硫酸転移酵素の発現する細胞には糖鎖リガンドが存在する、
という対応がみられる。硫酸転位酵素は糖転位酵素ではないが、硫酸化が糖鎖の末端修飾としてしばしば登場するので、糖鎖生物学では糖転位酵素の仲間として扱われる。
この例においは、糖鎖リガンドは種々のムチン様膜型糖タンパク質に付加してこにの分子に[カウンター受容体]として機能を付与する。
一般論として、特定の遺伝子が特定のグリコフォームをもち、あるレクチンのカウンター受容体として機能することが多い理由は、今のところ不明である。
@この分子上では複数の糖鎖が適正な密度で提示されることによって特異性と親和性が高くなる
A糖鎖以外の部分にも認識と結合を促進する部位をもつ
B糖鎖リガンド生合成に与える転位酵素群がこの遺伝子産物の特定の部分のペプチド上の特徴を認識している、などが考えられる。


腫瘍と免疫系
免疫系が腫瘍抗原の存在を察知して、活性化され、本抗原をもつ細胞のみを特異的に排除する経路が腫瘍免疫である。活性化ヘルパーT細胞の産生するIL-2、IFN-γなどにより、CTRやNK、NKT、マクロファージ(Mφ)などの免疫エフェクターが活性化され、腫瘍排除に至る。腫瘍排除に直接関与する樹状細胞(DC)の存在や制御性T細胞(Treg)誘導におけるDCの役割など、腫瘍免疫における自然免疫系の重要性が明らかになりつつある。


免疫療法としては抗体、サイトカイン、サイトカイン遺伝子療法、DCを用いるがんワクチン療法などが活発に検討されている。
患者の悪液質状態からの開放と固形がん組織における低酸素状に起因する免疫不全状態の打破を含む患者のQOLの改善が治療の不可欠要件である。
がんに対する免疫監視機構
1がんは遺伝病である
 がんは、血液がん(白血病など)と固形がんに大別される。腫瘍免疫は、主として固形がんについて検討されているので、ここでは固形がんについてのみ記述する。


図10-1に示すように、正常な細胞に存在するがん遺伝子に多段階にわたる遺伝子異常(点変異、部分欠損、増殖、転写促進)が重複することで、悪性形質が発現しがん細胞になると考えられている。
発がん性化学物質やウィルス、細胞増殖に伴うDNA複製、修復のエラーなどにより、質的もしくは量的な遺伝子異常が起こる。肝がんは典型的で肝炎ウィルスによる肝炎、その慢性化によるDNA修復エラーの蓄積、壊死巣の組織再構成の乱れによる肝硬変状態、そのための免疫監視機構からの逃避など、多様な段階が重なり、数十年の経過を経て肝がんになる。


個体レベルでの発がんと免疫監視-3種類のがん
われわれが癌というとき、厳密には3つの異なる段階のがんを区別して考える必要がある。すなはち、1つに、細胞レベルのがん、(上述の遺伝子異常に基づく細胞レベルの発がん)である。細胞レベルでのがんは、生体の中においては、免疫監視機構とのせめぎ合いのなかで、常時、排除されている。この概念は、パーネットによって提唱された免疫監視説に基づく。


免疫監視機構をすり抜けたがん細胞が個体レベルでのがんとなる。個体レベルのがんの多くは現在の診断技術ではほとんど察知できない。ほとんどのヒトが個体レベルのがんと共生していることになる。
1個のがん細胞(約1ng)が30〜40回の分裂を繰り返してはじめて臨床的に診断される臨床がんとなる(約1g)臨床現場での戦いはこの臨床がんを対象とする。腫瘍免疫の重要な対象は、細胞レベルのがんが臨床レベルのがん(個体レベルでの発がん)を予防することにある。
永年研究されてきた自然免疫を賦活する世界で最初の物質、レンチナン(β-1-3-グルカン)はウィルス発がん、化学発がんのいずれに対しても予防効果を示す。
1970年の発見である。現在、学会の大勢は、細胞レベルの発がんと臨床がんの治療に向かっており、今後、個体レベルでのがん予防に免疫学者の関心の向かうことを期待する。以下、臨床がんを中心として説明する。
固形がん治療の標的
腫瘍免疫を論じるとき、基礎免疫理論から説き起こす概説が多いが、臨床がんの実態とのギャップへが大きい。”がん治療からがん患者治療、”がん細胞からがん組織へ”ここでの提言である。がん患者が治療に期待する真のメリットは延命効果とQOLの改善である。腫瘍免疫に固形がん治療の標的は、


のように、5種に分類される。1番目の標的として記載した、腫瘍抗原に対する免疫応答を増強したり、腫瘍抗原非特異的な免疫応答を免疫賦活剤で活性化しようとすのが、わが国における腫瘍免疫研究の主流である。
がんを排除する免疫系の効果細胞、分子(エフェクター)を活性化し、腫瘍抗原の存在を特異的に認識し効率的にがん細胞を殺そうとするものである。
固形がんに対する腫瘍免疫を成立させるには、図10-5の@のみならず、他の4つの標的をも考慮する必要がある。
この5つの標的を意識して治療戦略を構築することが不可欠である。例えば、末期がん患者では、すべての治療に先立って、悪液質状態の修復、解除を意図した治療を行うこと、外科領域では術前の免疫療法により、がん局所間質反応(がん局所への免疫担当細胞、炎症性細胞の侵潤)を惹起、増強し、全身性の腫瘍免疫を誘導し、術後の再発防止に役立てることが必要である。
4腫瘍免疫成立にはがん局所細胞性反応が必須である。
図10-5に示す第2番目の標的は重要である。局所細胞性反応/間質反応が微弱であった免疫療法剤単独投与では効果はない。
同一の腫瘍でも、皮下、胃壁、肝内、盲腸内移植で局所細胞性反応の様式は異なる。自然発生がんや自家腫瘍に対するがん免疫応答が微弱か皆無であるのは、抗原性の強弱だけではなく、局所間質反応の差(接着分子や細胞外骨格構造(ECM)の差異に寄与が大である)によるものと考えられる。”場におけるがん”の考えに立脚し、局所細胞性反応を惹起させ、dormant(休眠)状態を打破することが腫瘍免疫成立に不可欠である。
薬物や放射線により腫瘍細胞を修復し、局所微小環境を制御し、好中球、マクロファージ(Mφ)、NK細胞、リンパ球などの細胞浸潤を起こさせる。この浸潤により、樹状細胞(DC)やMφなどの抗原提示細胞(antigen presetting cell:APC)が活性化され、局所リンパ節に移行した後、腫瘍抗原に対する特異的免疫応答が惹起され、全身的感作が成立、異時性、異所性の再発の抑制に繋がる。


がん組織では早期から繊維化(fibrosis)が発達し、このdormant状態が堅固で治療抵抗性が強い。スキルス胃がんもカプセル化(capsulation)を含むfibrosisが強く、生体の免疫系の監視機構から逃避する形での増殖、進展が早い。
がん局所への細胞浸潤の水準と予後との見事な相関については、胃がん、大腸がん、乳がんなどについての医師たちの優れた臨床報告がある。IL-12は局所シュワルツマン反応(皮膚に出血・壊死を伴う炎症が生じる現象、マクロファージが活性化され血液凝固活性化因子を放出して血管内凝固をもたらすことによると考えらをれている。)を惹起し細胞浸潤を引き起こし、ここにIL-12のもつ免疫活性{NK細胞、NKT細胞活性化や細胞障害性T細胞(CTL)活性化}が働く。
研究者はIL-12の効果と局所へのリンパ球浸潤の有無が対応することを報告している。NK細胞、NKT細胞などにより障害された腫瘍細胞から遊離された腫瘍抗原は成熟型DCにより貧食されCTLに提示される。
5ヒトがんに対して免疫は働いているか
パーネットの免疫監視説にもかかわらず、ヒトに対して免疫監視機構が働くか否かは新しくて古い課題で、今なお決着がついていないともいえる。6で書くように、この15年で、ヒトががんにおいて相次いで腫瘍抗原が同定され、細胞性、体液性双方の特異的免疫応答がこれらの抗原に対して誘導できることが確認された。
ヒトがんに対する特異的免疫応答の存在は肯定されたかに見える。肯定説の根拠は、高齢者や免疫不全症候群患者ではがん発生率が高い。
稀ではあるが、自然治癒例が確かに存在する。CTLが樹立できるなどである。

表10-1   ヒトがんに免疫は働いているか
支持する事実 疑問視する事実
稀ではあるが自然に治癒することがある 免疫系細胞からのラジカルなどは発がんをむしろ促進する
長期間眠っていることがある T細胞機能を欠如するヌードマウスでは自然発がんの頻度はむしろ低い
がんは免疫力の弱い幼児や老人に多い
免疫抑制(臓器移植)や免疫不全の患者に発生しやすい
外科手術後に促進されることがある
がん細胞に対する免疫反応(遅延型過敏症反応)がみられる
がん組織に免疫担当細胞の浸潤がみられる
がん抗原が証明されるがんがある(抗がん細胞傷害性T細胞)

一方、否定説の根拠は、免疫担当細胞(NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、好中球)などの産生する活性酸素分子種は発がんをむしろ刺激する。ヌードマウスで自然発がんの頻度がかえって低い、ヒトがんは免疫監視機構をすり抜けて増殖し免疫抵抗性であるのだから、免疫監視機構の標的になりえない、などである。
細胞レベルでの発がん、個体レベルでの発がん、臨床レベルでの発がんの3種が区別されない議論が多い。ヒトがん細胞の自家移植において、移植がん細胞数によっては拒絶されることから、ここでは肯定説をとる。
6腫瘍抗原
腫瘍抗原とは、これこそ腫瘍細胞であり、他の正常な体細胞とは異なることを示す指標となる分子のことで、免疫系がこの腫瘍抗原の存在を探知して、活性化され、最終的に本抗原をもつ細胞のみを特異的に排除するという免疫学的に最も基本的な経路にかかわるものとして、長年その存在が追及されてきた。
80年代後半、主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex:MHC)分子にペプチドが結合していることがX線解析で明らかにされ、94年Boonらによるヒトメラメーマ抗原が始めて同定され、続いてRammenseeらによるクラスTMHC、クラスUMHC分子に結合するペプチドのアンカーアミノ酸の決定などを契機に、CD8陽性T細胞やCD4陽性T細胞が特異的に認識するヒト腫瘍抗原が多数報告されている。
大別すると、組織特異的タンパク質、C-T(cancer-testis)抗原群、腫瘍特異的変異ペプチド、がん遺伝子産物、ウィルス由来タンパク質、変異HLA(human histocompatibility leukocyte antigen)、糖鎖減少タンパク質など多岐にわたる。
生成機構も点変異による新しいアグレトープ、エピトープ(T細胞受容体は抗原提示細胞によってプロセッシング(分解)を受けた抗原ペプチドとMHC分子との双方を認識する。このとき抗原におけるT細胞受容体と結合する部位をエピトープ、MHC分子と結合する部位をアグレトープという。)の出現を中心に、遺伝子の活性化、過剰発現(ウィルス遺伝子の挿入、染色体転座)、脱アミンや酸化などの翻訳後修復、不完全スプライシング (スプライシング:DNAからある部位を取り出し、残りの部位を結合すること。遺伝学用語)、糖鎖減少による細胞表面表出(ムチンなど)など、多様なものである。
ペプチドの親タンパク質は細胞表面に存在する必要はなく、多くの親タンパク質は、核内や細胞質に局在する。これらの腫瘍抗原は腫瘍反応性T細胞の活性化(TNF−α、IFN−γ産生など)を指標としたcDNA発現クローニング法や、がん細胞上のMHCに結合しているペプチドを単離する方法によって同定された。
 腫瘍抗原の同定には、もともと血清学的手法が試みられていたが、うまくいかなかった。がん患者の自家血清とがん細胞の反応性を検査する、いはゆるautologous typingの試みが例である。95年になりSelex(serological identification of antigen by recombinant expression cloning)法が開発され、血清学的方法による腫瘍抗原の同定が進んだ。ファージ組込みcDNAライブラリーを血清学的にスクリーニングする方法であり、同定されCTLを誘導するとは限らない。すなはち、IgGクラス抗体と反応性を有する抗原は、ヘルパーT細胞には認識されるが、CTLに認識されるとは限らない。
7がんに対する免疫監視機構とエフェクター細胞及び分子
腫瘍抗原を認識した免疫系の活性化の結果、がん細胞を排除、障害できるエフェクター細胞、分子(免疫エフェクター)が活性化される。免疫エフェクターとしては


に示したものが想定されている。腫瘍抗原を標的とする抗原特異的なものと腫瘍抗原の認識を介さない非特異的、がん細胞選択的なものに分けられる。いずれもin vitroにおける解析から想定されており、ヒトがんにおけるin vitroでの実相は定かではない。
腫瘍免疫で現在最も期待されているエフェクター細胞はCTL、NKT細胞とされるが、ここでは遅延型過敏症反応にかかわる活性化マクロファージ(IFN−γにより活性化される)、ならびに、そこから産生されるNOの寄与が大と考える。NOを産生するMφとアルギナーゼを産生するMφの2種の存在が知られ、いずれもアルギニンを基質とする(substrate competition:基質の拮抗)、前者が腫瘍免疫においては重要とされるが、後者の寄与も否定できない。


腫瘍抗原の認識には2つの経路で行われる。
第1の経路では、死んだがん細胞由来の腫瘍抗原やがん細胞から遊離(shedding)される腫瘍抗原が外来性抗原として抗原提示細胞(APC)に取り込まれリソソームで分解された後エンドソームに輸送されクラスUMHCと複合体を形成し細胞表面に運ばれ、ヘルパーエピトープとしてCD4陽性T細胞を活性化する。
もう1つの経路の場合には、細胞質内で合成された腫瘍抗原が、内在性抗原としてCD8陽性T細胞に提示される場合で、プロテアソームでペプチドにプロセッシングを受けたのち、小胞体でクラスTMHCと複合体を形成し細胞表面に運ばれる。さらに死んだがん細胞を取り込んだ樹状細胞によるクロスプレゼンンテーションも重要である。この際、熱ショックタンパク質(hsp)はシャペロンとしてペプチドの輸送にかかわる。がんワクチン考えるに際し、ペプチドとhspの複合体が思慮されるゆえんである。
クロスプレゼンンテーションとは、抗原提示細胞が外来性抗原を取り込み、プロセシング(分解)したのちMHCクラスI分子とともに細胞障害性T細胞へ提示し活性化させる現象をクロスプライミング (cross-priming)、その抗原提示機構をクロスプレゼンテー(cross-presentation) と称する。
このような機構は樹状細胞をはじめ、B細胞や肝類洞内皮細胞において存在することが知られている。詳細な機構については未だによく知られていないが、小胞体やエンドソームが何らかの関与をしている可能性が示唆されている。

8がんに対するエフェクター細胞、分子の誘導増強
腫瘍抗原がヘルパーT細胞を活性化することが、腫瘍免疫の効果的誘導には不可欠と考えられる。


ヘルパーT細胞によるCTLの活性化はT(Th1)-T(CTL前駆細胞)細胞間相互作用であり、抗体産生に至る液性免疫の活性化はT(Th2)-B細胞間相互作用である。T-T相互作用にかかわるヘルパーT細胞がTh1と呼ばれ、T-B相互作用にかかわるものがTh2と呼ばれる。したがって、細胞性免疫の増強にはTh1の誘導が大切である。
Th1/Th2バランスはAPCから産生されるサイトカインのプロファイルで規定される。IL-12、IL-15、IL-18、IFN-γなどを産生するAPCの存在が重要である。こうしたサイトカイン産生プロファイルを示すAPCは細胞内グルタチオン(GHS)量の高い還元型であること示している。
APCの細胞内レドックス状態がTh1/Th2バランスを規定し、結果として、腫瘍免疫の強度の制御にかかわると考えられる。腫瘍免疫へのTh2回路の関与も認められるが、好酸球や好中球などの局所浸潤による炎症惹起が主たる作用を担う。
これらのエフェクター細胞によるがん障害機構には、主として3つの経路がかかわる。


@標的細胞を認識すると、顆粒成分パーフォリンが放出され、標的がん細胞膜に孔が形成され。顆粒内タンパク質であるグランザイムA,Bやグラニューラシンががん細胞内に入りアポトーシスを引き起こす。
Aエフェクター細胞上の存在するFsaリガンド、TNF-α、TRAILなどはがん細胞上のおのおのの受容体に結合してカスパ−ゼ8を介しアポトーシスを引き起こす。
B今1つの経路は、NOを介するものである。TNF-γはNOを効率的に誘導するとともに標的がん細胞膜上のクラスUMHCの発現を増強することで、障害に対して感受性が高くなる。
※腫瘍壊死因子(TNF)関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)は、TNFファミリーに属する膜貫通タンパク質である。TRAILはさまざまな形質転換細胞にはアポトーシス性細胞死を選択的に誘導するが、正常細胞には、細胞死(アポトーシス)は誘導しない。

がん免疫療法
1 生体固有の抵抗力を増強してがんを排除しようとする試みは、免疫系が特異的に認識する腫瘍抗原の実態がよくわかっていない時代から、精力的に試みられている。古くは、Coley-Shearのトキシンに始まり、ムラミルジペプチド(MDP)、BCG細胞壁画分、Nocardia細胞壁画分,酵母細胞壁成分、シイタケ由来のβ-1-3グルカンであるレンチナン、溶連菌製剤など非特異的免疫賦活剤の活用を脈々と続いている。
β-1-3グルカンは97年MφやDC上に発現するTRL4(toll like receptor 4)を受容体とすることが判明するに至り、自然免疫と獲得免疫をつなぐものとして大きな期待をもたれている。過去、非特異的作用ということで軽んじられていたが、腫瘍免疫における自然免疫系の重要性が明らかになり、その有用性が再認識されつつある。
また、dectin-1を介してTh17細胞を誘導する活性も注目されている。
dectin-1とは 
Dectin-1は細胞膜上に存在するタンパク質で、細胞外に糖鎖を認識する領域を持ち、細胞内にはITAMと呼ばれる活性化シグナルを伝えるモ チーフを持つ。この分子はMφやDC、好中球などの自然免疫を担う細胞に発現している。
1 液性性免疫の活性-抗体
特異免疫の増強への試みの第1は、がん細胞特異的な抗体を活用しようという試みから始まった。モノクローナル抗体作製のためのハイブドーマ技術の樹立以降、数々の抗体の応用への試みがなされたが、がん組織選択性は甘く、正常細胞も障害するという課題が明らかになった、実用化されている代表的なものに、がん遺伝子産物であるHer-2(neu,e-rebB2)に対する抗体がある。
もう1つの課題は、異種動物での感作で作製したハイブドーマの抗体は、ヒトにとって異種タンパク質であり、アナフィラキシーなどの副作用が問題になるとういことであった。この点はキメラ抗体、ヒト型抗体、完全なヒト抗体の作製技術が完成し解決された。
抗体療法は再び注目を集めつつある。抗腫瘍免疫抗体を超えて免疫賦活性抗体を活用して腫瘍免疫応答を増強しようと試みもされつつある。抗体の応用として薬物の組織選択性を高めるためにキャリアーとして抗体を用いる試みがある。
放射性物質、抗がん剤、リシンやジフテリアトキシンなどの細胞毒素などと結合させたもの、いわゆるイムノトキシンの試みもある。
また、抗がん剤を含有するリポゾームに抗体を結合させたり、がん細胞ならびにエフェクター細胞の双方を認識できる2特異性をもつ抗体(bi-specific抗体)でCTLなどを局所に集積させようとする試みがある。
2 サイトカイン療法とサイトカイン遺伝子療法
上で述べた抗体に試みは、液性免疫応答におけるエフェクター分子を直接に投与するものである。
細菌性免疫における対応する試みは、エフェクター細胞であるCTLやNK、NAK(lymphokine activated killer)細胞の移入という細胞移入療法になる。
代って、最初に試みられたのが、生体内でCTLやNK、LAK細胞を効率的に活性化するサイトカインを投与しようという試みである。いわゆる、サイトカイン療法である。
前述のようにT(Th1)-T(TCL前駆細胞)相互作用を担う代表的なサイトカインとして遺伝子クローンニングされたIL-2は、CTL、NK、LAK細胞を効率よく活性化することから、最初にサイトカイン療法に用いられ、今も中心的位置を占める。その後、IL-4、IL-12、IL-18などについても検討された。
現在、IL-2の腎がん、血管内皮腫への適用が認められている。IL-12はTh1を誘導するサイトカインとして期待され、IL-18はIL-12の共存下、強力にTh1を誘導するとともに、IFN-γ誘導作用を有し、期待されたが、ともに副作用の問題が大きい。
サイトカインは内分泌性のホルモンと異なり、遠隔臓器には作用せず、産生部位の近傍でのみ作用するパラクリン(傍分泌)的作用を中心とする。


全身投与では副作用が強く効果が弱い、半減期も短く、内因性の阻害も存在し、カスケード的に他のさまざまなサイトカインを産生誘導する。
したがって、局所作用性への工夫が不可欠である。この点、G-CSF、エリスロポイエチンなど、エンドクリン(内分泌)的に作用するサイトカインに比較して臨床応用が難しい。
G-CSFとは
顆粒球コロニー刺激因子(かりゅうきゅうコロニーしげきいんし、granulocyte-colony stimulating factor)とは、サイトカインの一種で顆粒球産出の促進、好中球の機能を高める作用がある。英語の略号でG-CSFと表記することが多い。
付記すれば、TNFやパーフォリン、グランザイムなどの投与も可能であるが、いずれもシナプス的作用が本来作用であることから、毒性が問題となる。
細胞移植療法としては、CTLやNK、LAK細胞の移入療法も活発に実施されている。
この場合にも、移入細胞の活性化を維持サイトカインとして、IL-2移入細胞とともに投与されている。移入する細胞としては、他に、腫瘍内浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte:TIL)も用いられる。サイトカインの局所作用性を克服する方法として試みられているのがサイトカイン遺伝子療法である。
移入する細胞やがん細胞にサイトカイン遺伝子を組込んだプラスミドを導入し、局所でのサイトカイン産生を効率化しようとするものである。このプラスミド自身を直接に投与してがん組織にターゲティングする方法も開発された。
腫瘍免疫がうまく作しない原因の一つに、がん細胞には、セカンドシグナルとしてエフェクター細胞(CTLなど)の活性化にかかわる共役刺激(co-stimulatory)分子と呼ばれるB7(CD88、CD86)分子が欠如しているためとの考え方がある。
がん細胞にB7分子の遺伝子導入の試みもなされているが成功例はない。基礎免疫学的には共役刺激分子からの信号と相まってT細胞を活性化することは確実である。日本でも古くからウィルスによるがん細胞の異物化(xenogenization)やハプテン結合がん細胞によるヘルパーT細胞の活性化に基づく、T-T細胞間相互作用強化を介する腫瘍免疫応答増強の試みは多い。がん細胞の修飾を臨床的に普遍化するには課題が多い。
BCG細胞膜成分の免疫賦活作用は前述したが、BCGの本効果の本体の一つがCpG-DNAあることが明らかにされた。
このオリゴヌクレオチドは、IL-12の産生誘導を介してTh1を誘導することで細菌性免疫を増強し、NK、NKT細胞も活性化する。

2 がんワクチン
腫瘍抗原の同定と競う合うようにして、樹状細胞(DC)を用いるがんワクチン療法やサイトカイン遺伝子導入DCを用いるがん免疫療法が活発に検討されている。
DC細胞はプロフェッショナルAPCともいわれ、抗原感作を受けていないT細胞をも活性化することができる。
DCには未成熟型と成熟型が存在し、前者の貧食能が高いのに対し後者は低い。前者が末梢組織で抗原を取り込みプロセスする過程で成熟型に分化するとともに、強力なT細胞刺激能を獲得する。この際、遊走能を獲得し所属リンパ節への移行が可能となり、同リンパ節でT細胞を活性化する。


この性質をがん免疫療法に活用しようというものである。
がんワクチンとしての適用は、末梢単核球や単球や骨髄細胞からのサイトカイン刺激下で誘導した未成熟DCを前述の腫瘍抗原ペプチドや抗原タンパク質あるいは腫瘍抽出物でパルスしたり、腫瘍と融合させたものを患者に投与するというものである。
DCへの遺伝子導入技術は末だ完成されておらずがん抗原遺伝子導入法は試行錯誤の段階である。
サイトカイン遺伝子導入も同様の状況である。
DCの活用は理論的にはすこぶる興味深いが、がん細胞由来のVEGF(vascularendothelial growth factor)などにより成熟が抑制される。TGF-βの作用を受けるとDCは免疫抑制性になる。
TGF-βとは分泌型抑制分子で、抗原提示細胞から分泌されてT細胞機能を抑制するほか、特に抑制性サイトカインは様々の抑制性T細胞の抑制機能に関与している可能性がある。
がん細胞との直接接触によりDCの遊走能も阻害される。DCの遊走に関与するのはケモカイン受容体の発現とともに、マトリックスプロテアーゼの発現が関与することが知られる。このようにDCの機能は腫瘍局所の微小循環の影響を強く受ける。がん組織は一般に低酸素状態であるが、そこではDCの産生するサイトカインのプロファイルが変化する。
抗原提示能とともに所属リンパ節への遊走能も阻害されている可能性が高い。がん組織局所微小環境のレドックス状態(酸化還元状態)を重視するゆえんである。今1つの課題は、DCが機能的に不均一でありth1誘導性DCの増強にもがん組織所微小環境のレドックス状態が関与する。
3免疫系からの逃避機構
担がん状態においては様々な形で局所性、全身性の免疫抑制状態が成立する。研究者らにより自己免疫疾患の発症抑制に働くとして見出されたCD4陽性CD25陽性(IL-2R α陽性)T細胞ががん免疫に対して抑制的に働き、本T細胞亜集団を抗体で欠失させると免疫応答が回復し、がんが退縮することが動物実験で確認されている。担がん状態ではがん細胞や局所間質細胞からTGF-βやIL-10などの免疫抑制性サイトカイン、プロスタグランジン(PG)E2などのアラキドン酸代謝産物が産生され、がんの免疫応答からのsneaking through(逃避)に関与する。
DTH(遅延型過敏反応)やNO産生を介しがん細胞を障害するMφにはIL-2受容体γ鎖が発現するが、TGF-βはγ鎖発現を低下させることでがん細胞障害性を抑制する。
IL-10はがん組織局所に存在するとCTLのがん細胞障害性は消滅する。これらの知見を統合できる模範としてAPCのレドックス状態(酸化、還元状態)の重要性を提唱する。
担がん患者は末期においてはTh2に傾斜していることも臨床的に判明している。今1つの重要なsneakingthrough機構としてエフェクター細胞とがん細胞の細胞接触を伴う(cognitive)相互作用におけるエフェクター細胞機能のネガティブ制御機構の存在がある。αβ型T細胞、γδ型T細胞やNK細胞に発現しているキラー細胞抑制性受容体(KIR)やLy-49がその典型である。
これらの分子はITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)と称されるモチーフを有する。一方、ITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)と称するモチーフを有する。CD3ε、PcRγやDAP12は活性化に働く。クラスTMHCと腫瘍抗原ペプチドの複合体をCTLが認識しても、同じCTLにKIRが発現しているとがん細胞障害活性は抑制される。
NK細胞の障害活性も同様に抑制される。また、がん細胞にFasリガンドが発現していることがよくみられる。CTL上のFasに結合しCTLをアポトーシスに導く。がん細胞のもつ免疫系からの見事な逃避機構の例である
Fasリガンドとは
Fasリガンドは受容体Fasに結合すると細胞にアポトーシスを誘導するサイトカイン=デス因子である。生理的な単一蛋白による細胞外からの刺激で,アポトーシスを誘導することが出来ることから,アポトーシスのシグナル伝達研究の重要なツールになった。
また,FasとFasリガンドはその発見の直後に,自己免疫疾患のモデル動物とされていた自然発生突然変異マウスの原因遺伝子である事が明らかとなり,その医学的重要性も加わって,爆発的な勢いで研究された。その結果,Fasリガンドは免疫系のホメオスタシスや自己寛容において,また細胞傷害性T細胞の細胞傷害分子として重要な役割を果たしていることが明らかになった。これらの生理的機能の裏返しとして,Fas-Fasリガンド系の機能低下は自己免疫疾患の原因となり,機能亢進は劇症性肝炎などの炎症性疾患の原因になることが明らかになって来た。



「休み時間の免疫学」、講談社
「免疫のしくみ」、発行所、化学同人
免疫学最新イラストレイテッド、 羊土舎 を参考にしています。